第11話 友達の友達

5時間目の授業が終わり、私たちは教室に向かう。律儀に出ていたHRもここ何日かは疎かにしていたので、教室に入ること自体久しぶりだ。


ひなたの友達とやらがどんな子なのかは分からない。会ってみるまでは……


「その子、名前なんて言うの?」

「あさひ」


あさひ……そんなこいたっけ。まあ元々クラスの人なんか興味ないから知らないのも当たり前か。


教室が見えてくる。少しだけ緊張する。いきなり私が入ってきたらそれなりに注目はされるだろう。そういうのはあまり気にしないタイプだが、ここにきて急に冷や汗が出る。


教室の中はザワザワとしていた。仲良く会話をしている人、机に突っ伏している人、次の授業の準備をしている人、などなど。

扉の前にいた何人かがこちらに気づき、伝播するように後続がこちらを見る。


「………………」


物珍しそうに見ると、またすぐに先の状態に戻った。まあその程度だろう。予想はしていた。


「えーと、いたいた」


ひなたがあさひを見つけると、声をかける。


「あさひ、ちょっといい?」

「ん?」


あさひは1人で本を読んでいた。読書が好きなのだろうか。こちらに気づくと、少し顔が緊張していた。


「ふむ」


これがあさひ……。思っていたよりも小柄で、ひなたよりも童顔。小学生みたいだ。制服の上にぱーかーをきている。これがテスト1位。見かけによらなくもないって感じか…。


「どうしたの?」


あさひが少し不安そうにひなたに聞く。

私を怖がってる?


「いやー、なんかひかげがあさひに会いたいって言うから」

「な、なんで?」


落ち着きがある反面注意深いようで、子犬のような反応をする。


答えてやれ、というような顔でひなたが私に促す。


「気になったから」


無愛想にそう答える。普通にしたつもりだったが、あさひは一層不安そうにする。


「ひ、ひなた」

「ひかげ、もっと優しく」

「いや、これが普通なんだけど……」


なんか年下に絡んでる不良みたいで嫌気がさす。周りも私たちを気になったのか、チラチラと見始める。


同時に、授業開始のチャイムが鳴る。


「あ、席につかなきゃ」


そう言って自分の先に着く。

6時間目は数学。今日は夏休み前最後の授業なので、これまでの復習をするらしい。


先生が入ってくると、こちらに気づく。少し驚いた顔になると、またすぐに教科書を開き、なんてこともなく授業を始めた。


やはり大した反応はなかった。

こちらとしてもありがたいが、なんかつまらない気もする。こっちが期待しすぎたか…。


あさひの方に目をやると、黙々とノートを写していた。真面目だなあ……


あれがひなたの友達。さっきの会話からして、気は弱めなのだろう。保護欲をそそられるというか、守ってあげたくなるような。

そんな気さえした。


無害すぎる。さっきまで抱いていたモヤモヤが消えていく。

身長も高めで気が強いやつだったら敵意を持ったかもしれないが、どうにもそんな気にはならずに済んだ。ひなた共々からかいたいと思う。


どうやって友達になったんだろう、どっちから話しかけたんだろう。やっぱりひなたからかな……


そんなことを、考えながら黒板の方に目を移すと、白いチョークでびっしりと数式や図が並べてあった。あんなに書かれてしまっては、もう写す気もなくなる。


心の中で色々な気持ちが混ざる。ため息を吐きながら早く授業が終わらないかと、憂鬱になるのだった。



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