第8話 光 ①

人と関わるのが好きではない。

昔からそうだった。

家族ともそこまで仲がいいわけではない。


人が多いところは苦手だ。

多分、独りが好きなんだと思う。

そう思ったのは幼稚園に入ってすぐのこと。同級生と一緒に遊んでも、何も感じない。周囲が楽しそうに笑っている中、私だけみんなについていけなかった。

家で1人、テレビを見たりお絵描きをしていた時はとても楽しかった。早く家に帰りたいと思って止まなかった。


小学校に入ってからは、選り好みをするようになった。

1クラス約40人、それが複数。当然、全員に付き合ってはいられない。

それでも、6年生になるまで一緒にいた子はたった1人。

性格が合わなかったとかではない。例によって、自分から距離を置いてしまった。


中学生になってからはもう、自分から人と関わろうとはしなかった。たまに話しかけられるので、適度に愛想良くしていたがそれも疲れたので半年そこらでやめてしまった。

同じクラスだった人の顔も、ろくに覚えていない。担任の先生が何度か気にかけてくれたが、私がそういう人間だと思ったのか、深く干渉することはなかった。

学校自体の居心地はそこまで悪くはなかった。私は周囲の人と関わろうとせず、それを察してか彼らもまた私と関わろうとはしなかったからだ。

おそらく私の名前など覚えてもいないだろう。私がそうなのだから。そもそも興味が無い。「好きの反対は無関心」とはよく言ったものだ。その通りだと思う。

中学3年生の時に行った修学旅行。奈良と京都を散策したが、具体的なことは何も覚えていない。グループに溶け込もうとせず距離を取り続けたことだけは覚えている。


高校に入ってからは授業にすら出席しなくなった。うちの学校は校則が緩く、今でこそサボタージュをする人もいないが、珍しくはないらしい。

朝のHRだけ参加し、終わった途端教室を出る。何か良い場所はないかと学校中を歩き続け、しばらくして屋上の存在を思いついた。

しかし屋上は開いておらず、そのかわり扉の前に少しゆったりとくつろげそうな空間が広がっていた。


その場所に通い続けて1年が過ぎた。

私はいつも通り憩いの場で休息をとる。

微かに外から掛け声が聞こえる。 体育の授業中だろうか。

そういえば、HRの時いつもボケっとしながら時間割を眺めていたので自分のクラスが今体育の授業だということを思い出す。


………どうでもいい、そんなことは。

クラスの人たちが何をしていようと私には関係ない。どうせお互いに名前なんて覚えていないだろうし。


そう思いながら目を閉じ、眠りかけたその時だった。


「ひかげ……だっけ」


勘違いだろうか。 今、自分の名前が呼ばれた気がする。


ふと、目を開けるとそこには女子生徒がいた。先生に見つかったわけではないので安心するが……


「あの……綺麗ですね」


初対面でいきなり綺麗とか言われた。何だこの子は。

いや、確かこの子は同じクラスの前の席にいた………

今日のHRのときに席が一つ空いていた。覚えている。この子だ。

名前は………


「ひなた………だっけ?」

「名前、知ってたんだ」

「同じクラスだもん、分かるよ」


いや、本当はこの子しか知らない。それもたまたまHRにいなかったから気になっていただけだった。


それにしても、わざわざ人気のないこの場所に来るなんて、もしかしてサボり?

しかも、クラスで浮いてる私(睡眠中)にふつうに声をかけたし………


「…………一緒に寝る?」


自分で言って驚く。いや、この子もサボりにきたわけだし、せっかくだからこの場所の居心地の良さを教えてあげようとしただけで…


あれ、なんで私はこの子を受け入れようとしているんだろう。彼女が無害そうな雰囲気を纏っているから?

それもあると思うけど……もっとこう、なんか……


ひなた、だっけ。同じクラス……不思議だ子だな。

そう思いながら、私は迫りくる睡魔に耐えきれず、奇妙な思いを抱えながら眠りに落ちていった。



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