第7話 テスト

駅前のレストランの前に自転車を止め、私たちは店内の席につく。


「適当にサイドメニューだけ頼もっか」


そう言いながらサイドメニューのページを一瞥する。やっぱポテトかな。


「私ピザ頼むよ。2人で分けよう」

「分かった」


それぞれが注文を終え、さっそく勉強に入る。


「ひかげって得意な教科とかある?」

「得意な教科……」


いきなり勉強をするにしても、まずは自分が出来そうなものから取りかかるのがいいだろう。


「体育」

「いやそうじゃなくて」

「道徳」

「なつかしいねそれ」


違う、そうじゃなくてもっと普通のやつ。


「冗談だよ。数学は無理かな。あと暗記系も。」

「ふむ……」


じゃあ数学は一旦置いといて、理科も物理の範囲なので計算が多め。だからこれも除外。暗記系となると歴史も無理か。となると……


「国語かな」

「現代文と古典あるよね。私古典出来ないよ」

「それは今度教えるからいいよ、現代文にしよう」

「うい〜、よろしくお願いします」


基本、テストは教科書の範囲から出題されるのでそこを押さえておけば何も問題は無い……はず。


「じゃあこの登場人物のセリフから心情を読み取ってみよう」

「あーこれね。こういうの苦手なんだよね。キャラクターがその時何を思ってたかなんてその作者しか知るわけないのに」

「かもしれないけど、ある程度の想像はつくでしょ?前後の文を見ればヒントが散りばめられてたりするし」

「例えば?」

「悲しい時は雨が降ってたり、不安な時は曇ってたりとか」

「心象風景ってやつ?」

「そうそれ」


ひかげは割と飲み込みも良く、前途多難ということはなさそうなので安心する。これなら理系科目も大丈夫かな?


「ひなたはなんでも出来るんだね」

「そんなことないよ、私だって苦手な科目あるよ」

「何?」

「体育」

「私と逆だね」


私はからだを動かすことがあまり好きではない。わざわざ体育着に着替えて外に出でまでやることはないだろう


「じゃあ勉強はできると」

「真面目なんで」

「サボってくせに〜」


適度に会話を入れつつ現代文の勉強をある程度終わらせる。

ポテトやピザをつまみつつ、いい感じに時間はすぎてゆく。


「次は歴史いこう」

「暗記系じゃん」

「でもやらないと」

「ちょっとだけね」


テスト範囲は教科書80ページ分とかなり多い。ちょうど大正から昭和にかけての日本史だ。


「戦争とか条約とか色々めんどくさいなー。総理大臣多いよ……」

「まあこれは何度も見て覚えるしかないね」

「考えただけで無理」

「じゃあこの辺にしとく?」


時計を見ると4時をすぎていた。3時間勉強しっぱなしだった。


「うん、終わろう」

「初回にしては随分進んだね」

「いきなり図書館とか行くよりかはこっちの方が私には合ってるから」


結果的にはここに来て正解だったようだ。


「じゃ、ご褒美もらおうか」

「ああー」


忘れていた……まあ約束は約束だし甘んじて受け入れよう。


「何をご所望ですか?」

「んー」


ひかげの顔が少し愉快になる。何か良からぬことを考えているに違いない。

まさか…………


「じゃあ今日の分ひなたの奢りで」

「…………………」


すごい普通だった。


「なんか普通だね」

「良いの思いつかなかった」


それにしてはさっきの顔が気になってしまうが………

何にしても、変なお願いされなくてよかった……。けど、


「なんか複雑」


これじゃあまるで私の心が汚れているみたいじゃん。


「ちなみにひなたはどんなお願いされると思ったの?」

「教えません」

「えーケチ」


会計を済ませ店を後にする。


「じゃあ明日も勉強するよ」

「へ?」

「テスト期間終わるまで」

「え〜」

「それと、私テスト期間は授業サボらないつもりだから、いつものとこには行かないよ」

「本当に言ってる?」


ひかげが気だるそうに聞いてくる。こっちとしては母親の逆鱗に触れたくはないので頑張らなくてはならない。


「はぁ〜……。分かったよ」

「よろしい」



それから1週間、私たちは一緒に勉強した成果もあり、ひかげは普段の倍近い点数を取った。

私も全体的には少し下がったが、これくらいなら多少の言い訳で母親を納得させることも出来そうなので、なんとかなりそうで安心するのだった。





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