第6話 勉強

梅雨も終わって、本格的に夏が近づいてくる。

一学期ももうすぐ終わる。あとは学期末試験を乗り切るだけ。


試験……………


「ちょっとやばいかも」


授業をサボるようになってからも、私は毎日予習復習を欠かさずしていたけど………


「そもそも授業に出てないから復習もクソもないや」

「ひなたは心配性だね〜」


むしろひかげのその謎の余裕は何。あれか、テスト前の謎の余裕ってやつ?


「正直自信ないや……応用とか出されたらまず解けない」

「じゃあ勉強すれば?」

「そりゃするけどさ……点数落ちたら確実に親に殺される」

「あるある」

「そういうひかげはどうなの?」


さっきから他人事のようにしているが……まさか、実は勉強しなくてもいけちゃう天才タイプなのか!?


「んー、普通にやばい」

「やばいんかい」


そんな都合のいいことはなかった。


「でもいつもこうだし……両親も何も言わないから」

「そうなの?」

「うん、ふたりとも勉強できなかったらしい」

「親の遺伝子を受け継いだ……と」

「そゆこと、だからあんま勉強しろとか言ってこない」


だから勉強はしなくてもいいらしい……というわけにもいかないだろう、いかない気がする。


「じゃあ一緒に勉強しようよ」

「え?」


ひかげは「何言ってんの?」という顔でこちらを見る。そりゃそうか。


「せっかくだし、ひかげもテストでいいてん取りたいでしょ?」

「取りたいか取りたくないかで言われたら取りたいけどさ……あいにく、私のからだは勉強を受け付けないのです」

「そう言わずにさ。試しにやってみようよ」

「……………」


こうでも言わないと勉強なんてやろうとしないだろう。


「ご褒美」

「はい?」

「勉強やるかわりに、ご褒美くれるならいいよ」

「ご褒美って……」


小学生か。


「例えば?」

「まだ決めてない」

「なんか奢るとかじゃダメ?」

「それだとつまんない」


じゃあ何ならいいんですか……


「まあいいや、分かったよ。ご褒美あげるから勉強しよう」

「やった」


話もキリよく終わったところで、チャイムの音が鳴る。

ちょうど4時間目が終わってお昼の時間だ。


「お腹減ったし、どこかお店で勉強しよ」

「え、集中できなくない?」

「最初はリハビリ的なあれでいこう」


ひかげが何を言いたいのか分からない。まあそこは普段と変わらないか。


「じゃ、行きますか」


早速、学校を出て駅前へと向かう。そこくらいしかまともなとこがないからだ。


「ちょっと待って、自転車持ってくる」

「え?」


自転車なんて乗ってたっけ……


「おまたせ」


すぐそこの自転車置き場からひかげがママチャリを引いてやってくる。


「チャリ通なんだ」

「うん、たまにね」


いつも一緒に帰っているわけではないから、今日はじめて見るのも頷けるか……


「ほっ」


ひかげが勢いよく自転車に乗ると、


「後ろ乗って」

「え」


二人乗りなんてしたことない……しかも立派な不良行為だよ……。いや、それはもう古い考えなのかな?


「はーやーく」

「怒られない?」

「授業サボってるのにいまさら?こっちの方が早く着くよ。勉強時間も確保できる」

「うっ………」


そう言われると乗るしかない。まあ一理あるし。大人しく従うことにする。


「ゆっくり漕ぐけど、振り落とされないように気をつけて」

「うん」


ひかげの肩に掴まると、ゆっくりと自転車が動く。

自転車に揺られ、風を感じる。とても気持ちいい。


「乗ってよかったでしょ?」


前を向きながらひかげが聞いてくる。

ちょっと悔しいけど……


「そうだね、こればっかりはひかげに感謝しないと」

「なにそれ」


ひかげが肩を少し震わせる。

笑ってるのかな?


それにしても、ひかげは一体ご褒美に何を要求してくるのだろうか……


少し不安になりつつも、私たちは駅へと向かった。

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