第5話 タイプ
相変わらず雨が続いている。
私はいつも通り、例の場所へと赴く。
「やっぱりいない…」
昨日あんな感じで別れてしまったからなあ…
なんだか二人の間でなんともいえない気まずいしこりのようなものができた気がする。
「広いな……」
いつも二人でいた狭い空間が、より一層狭く感じる。
このままひかげが来なくなってしまったら…
そんなことを考えてしまう。ただでさえ、彼女は授業に出ないし毎日学校に来ているわけでもない。
もしかしたら、もうこのまま再開することもないかも……
「はぁ……」
ため息が出る。どうにも雨の日は憂鬱になってしまう。ひかげにも言われたなあ……
「……ん?」
下の方から足音が聞こえてくる。先生だろうか……でもこれは上履きを履いた時の独特な音だ……ということは。
「おっ」
「おはよう、遅かったね」
ひかげだった。相変わらずモデルみたいにすらっとしている。見た感じ、特に顔色も普通だ。
「昨日は、なんかごめん」
いてもたってもいられず、口にする。
「え?」
「変な空気になっちゃったし……あの子、私の中学の友達なんだけど、ごめんねって言ってた」
「あ〜」
ひかげは後ろめたそうに頬をかく。
「私の方こそごめん。いくらなんでも、あれはひどかった……」
「ううん、大丈夫」
ひかげは基本一匹狼だが、全く誰かと話さないわけではない。前にも言ったが、話しかければしっかりと受け答えしてくれる。
でも、ひかげが決して仲良くワイワイするのが好きではないということは、まだ短い付き合いながらも読み取ることのできた数少ない彼女の特徴なのだ。
「モールは迂闊だったね」
「だね〜、まあ行こうって言ったのは私だけど」
「……………」
「……………」
空白の時間が流れる。だが、悪くはない時間だ。
「もうここには来ないんじゃないかって思ったよ」
「それはない」
ひかげが苦笑いで否定する。
「だよね」
私も、少し嬉しくなって笑顔になる。
こういうの、なんか好きだ。
お互いに過干渉せず、上辺だけの会話をしながらダラダラと時間を潰す。
お互いがお互いのことをまだよく知らない。聞こうとしないし、話そうともしない。しかし、それは興味がないからとか、そういうのじゃない。
私たちはそういうタイプの人間だからだ。
分かっているから、敢えて聞かない。
そういう人なんだろうなって。勝手に納得して終わり。だから、普段のやり取りから少しずつだけどお互いを理解していく。
「そうだ、これ持った来たんだ」
「ん?」
ひかげはカバンからオセロを取り出す。
なつかしい…むかしよくやってたな。
「暇だし、やろうよ」
「そうだね」
「私黒にするから、ひかげは白ね」
「うん」
準備を終え、盤に黒と白の綺麗な色が並ぶ。
「手加減してあげるよ」
「言ってろ」
ひかげが楽しそうにしているので、こっちまで楽しくなる。
久しぶりのオセロは予想以上に盛り上がった。
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