第4話 間接

「思ってたよりも混んでるね」


午後3時過ぎ、私たちはモールに着いた。意外にも人が多く、すこし驚いた。


「こんなもんだと思うよ」

「こんなもんか」


他愛のない会話をしつつ、2階のフードコートへと向かう。


周囲を見ると、カップルがちらほらと見える。


「カップル多いね」

「………………」


でた……ひかげのよく分からない読心術(?)


「そりゃモールだし多いよ」

「違う、そうじゃない」


やっぱりからかおうとしてる……

でも、もうその手にはのらない。


「いいから、早く行こうよ」

「むう…」



***


フードコートもそこそこ混みあっていた。先に席を確保し、何を食べようかしばらく考える。


「お昼食べてないからなあ…何食べよう」

「ひなたの好きな食べ物って何?」

「んー、ケーキかな」

「なんか女子っぽい」

「女子だもん」


言ってたらなんかケーキが食べたくなってきた。でもここには無いから、なにかしらの甘い物で誤魔化そう。そう、例えば……


「クレープ」


先読みしたのか、ひかげが席から立ちあがる。


「そうだね」


また心を読まれたのかは分からないけど、いちいちつっこんでられない。ここは華麗にスルーを決める。


「何にしよう……」


クレープといっても、色々あるから迷う。

こういうとき、私って優柔不断というか、最後まで考えてしまう。


「私はチョコバナナ」


逆にひかげは決めるのが早い。


「うー、迷うな。イチゴチョコかフルーツミックスか……」

「2つ食べれば?」

「そんな食べられないよ」


決めた、イチゴチョコにしよう。


会計を済ませ、それぞれが頼んだクレープを受け取って席へ戻る。


「クレープ食べるの久しぶりだな」

「最近はこういう場所しか売ってないしね」


都心から少し離れたそこそこの田舎に住んでいる私たちにとっては、モールの存在はとてもありがたい。


「ん、おいしい」


久しぶりに食べたからか、より一層クレープがおいしく感じる。


ひかげも少し嬉しそうにクレープを食べている………気がする。


「ねぇひなた」

「なに?」

「ちょっとちょうだい」

「いいよ、はい」


ひかげにクレープを差し出す。


「違う違う」

「え?」

「あーんして」

「……………」


すでに小さな口をあけて私の方に顔を近づける。


「しょうがないなぁ……はい、あーん」


要望通り、あーんしてあげる。


「ん、こっちもおいしい。ありがとう」

「それは良かった」


…………。


「間接キスだね」

「あのさぁ……」


別にこのくらい普通にやるし何も問題ないのに。なぜひかげのときだけ無駄に意識してしまうのか。


「じゃあ、私もあげる」


そう言うと、ひかげは私の顔の前にクレープを持ってくる。


「……ありがと」


お言葉に甘えて私もクレープを食べる。


「おいしい?」

「うん」

「そうかそうか」


クレープ食べただけなのになんか疲れた…。

別に友達同士で関節キスなんてよくあることじゃん。どうしてこんなに意識してしまうのか……。



「あれ、ひなたじゃん」

「え?」


振り返ると、中学の時同じクラスだった友達だ。


「やっほー、久しぶり。元気してる?」

「久しぶり。うん、元気だよ」


なんか気まずい……

中学の友達と高校の友達が一緒になるって……。


「ひなたも学校サボったの?実は私たちもでさ〜、もう2時間くらいここにいるよ〜」

「そうなんだ…」


ひかげの方を向くことができない。なんとなく恥ずかしい。


「ひなた」


突然ひかげが会話を遮るように割って入り込む。


「ごめん、私用事思い出した。帰るね」

「え?」


それだけ言うと、ひかげはクレープを持ったまま席を離れる。


「ごめんひなた、なんかまずいことしちゃった」

「ううん、気にしないで」


まあなんとなく察しはつくが、明日ちゃんと謝っておこう。

それにしても……



「本当に分かんないなぁ」


やっぱりひかげって謎だ。

友達と別れ、ひかげを追いかけたが見当たらず、結局そのまま家にに帰ることにした。










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