第3話 梅雨

雨音が校内に響く。

梅雨の季節だ。この時期はジメジメとして憂鬱になる。


「ひなたは、雨好き?」


私たちはいつも通り、屋上扉の前でダラダラしている。前にも増して授業に出なくなってしまった。お母さんに知られたらきつく叱られるだろう。


「好きか嫌いかで言えば嫌い」

「そっか〜。まあ名前が名前だしね」

「いや、名前はあんまり関係ないと思うけど……」

「私は好きだよ」

「……………」


一瞬だけど、ドキッとしてしまう。雨が好きって意味なんだと分かってはいるけど……


「どうしたの?」

「……なんでもない」


コイツ、分かっててやってるな……


「なんで、雨嫌いなの?」

「なんでって……濡れるし、靴汚れるし」

「ため息も多くなるね」

「え?」

「さっきからため息しすぎだよ」


気づかなかった……


「なんかごめん」

「いや、いいよ全然。じゃあさ、今から遊び行こうよ」

「どこに?」

「どっか行きたいとこない?」


急に言われても思いつかない……室内の方がいいよね……


「お腹空いたから、なんか食べたいかも」

「じゃあモールに行こう。2駅で着くし、色々あるし」

「分かった」


思えば、2人でどこかに出かけるのはこれが初めてかな……


「初めてだね……」

「!?」

「2人でどっか行くの」

「あ〜」


なんだか見透かされてる気分で、ちょっぴり嫌になる。

それにこの子、ほぼ無表情だし……



***


玄関を出て傘を広げる。


「あ……」

「どうしたの?」

「傘忘れちゃった」

「………………」


それでいて、どこか抜けている部分がある。


「入る?」

「うん」


頷くと、ひかげは私の隣に来る。

肩が少し触れ合う。女の子二人でも、狭いものである。


「ありがとう」

「うん」


素直にお礼を言ってくるので、私も返事を返す。


「行こうか」

「うん」


ゆっくりと駅に向かって歩く。まだ午後の2時くらいなので、周りに学生もいない。


「そういえばさ」

「ん?」

「ひかげはどうして、雨が好きなの?」

「何で?」

「気になったから」


ひかげは少し考え込むと、


「それはね…」

「私と相合傘できるから?」

「……………」


先手を打ってやった。どうせそんなことを言うと思ったから。


「違うよ」

「え」


違うんかい!


「かわいいなぁひなたは」

「うっ……」


ものすごく恥ずかしい。からかってやるつもりが、盛大にコケてしまった。


「音が好きなんだ」

「音?」

「雨が落ちる音。ぽちゃん、ぽちゃんって」

「それはまためずらしい」


いや、分からなくもないけど。


「落ち着くんだ、耳を澄ますと」

「…………」


やっぱりひかげはちょっとズレてる気がする。

相変わらず無表情だし……


「それに……」

「ん?」


まだなにかあるらしい。


「ひなたと相合傘できるし」

「…………」


やっぱりそうじゃん……

いや、なんで嬉しがってるんだ私は……


「嬉しい?」

「別に……」

「ひなたは分かりやすいね」


逆にひかげは分かりづらすぎる。



私はまだ、ひかげのことを全然知らない。

ひかげもまた、私のことをどれだけ知っているのだろうか。


お互い深くは干渉せず、ただ思ったことを言い合うだけ。


私たちは、そんな関係なんだ。






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