第2話 冗談だけど

あの日から1週間経った。


私は彼女がいるであろう、屋上扉の異質な空間へと向かう。


すっかりとサボり癖がついてしまった……


「 まぁ、家で予習復習してるからいいんだけどさ……」


ぼそっと呟く。



「何が?」

「うわっ!!」



不意に、背後に人の気配を感じた。

振り向くと、そこにはひかげがいた。


「驚かさないでよ……」

「そんなつもりはなかったけど」

「まあいいや。ちょうど良かった、今からそっちに行こうとしてたんだ」

「私に会いに、ってこと?」

「へ?」


きょとん、としてしまう。間違ってはいないけど、そういうことではない。別に、ひかげに会いたかったから、という訳でもない。


「違うよ、サボる時はココに来るって決めてるんだよ」

「ふーん」


ひかげは長い髪を一房持ち上げ、クルクルといじりながら気のない返事をする。


「……………」


何考えてるのか分からない。思えば、彼女はたまに教室にいるときはいつも窓の外を眺めている。1人でいるとこばかりだが、誰かと話したりしていることもある。


だが、基本は無口。あまり人間関係に頓着なさそうなんだよね………


「ひかげってさ、普段何してるの?」

「何?急に」


話しかけるとちゃんと返事をしてくれるあたり、悪いやつではいのだろう。


「いや、何となく」

「何となくか」

「うん」


ひかげはしばらく考え込むと、


「教えない」

「えっ」

「何となくで言いたくはないかな。ひなたが私のプライベートに興味あるなら教えてもいいけど」


ちょっと拗ねてる?いや、そんなわけないか……ていうか、無表情だから何考えてるかあまり分からないし。


「興味あるよ、本当に」

「……………」

「だから教えて欲しいな…」


そう言うとひかげは……


「ひなたのこと考えてる」



「はい???」


えっ…何、どういうこと?私のこと考えてるって


「ひなたってさ、可愛いよね」

「!?」

「カワイイ系っていうのかな?」

「!!??」

「アイドルみたいだよね」

「!!!???」

「童顔だし」

「童顔って言うな」


なんでこんなに褒めるの?ちょっと恥ずかしいんだけど……


「彼氏とかいないの?」

「い……いないよ……」

「そうなんだ、私が男だったら絶対彼女にするのに」

「っ………!」


この女はなんでこんなに恥ずかしいことを言えるのだろう。顔が真っ赤になるのが分かる。


「あ、ありがとう…」


お世辞かどうかは分からないけど、一応礼は言っておく。


「まぁ………」

「?」



「冗談だけど」

「なっ……!」


ひかげの口角が少しだけ上がる。


「ドキッとした?」

「してない!」


いや、した。めちゃくちゃドキドキした。うまい具合にからかわれていたわけだ。


「あ〜なんか疲れた……帰る」

「まだ午前中だよ?」

「誰のせいだと…」

「じゃあ私も帰ろ」

「……………」


本当に訳が分からない。ひかげと一緒にいると、調子が狂う。


「一緒に帰ろ?」


こんなひかげを見るのは初めてだ。いや、もとからこういう性格だったのかもしれない。私が勝手に勘違いしていただけだ。


「……いいよ」


私がそう言うと、ひかげは満足げになりながらカバンを持つ。


「ひかげってさ……」

「ん?」



「かっこいいよね」

「え?」

「冗談だけど」

「冗談か〜」


そんなやり取りをしながら、授業中で静まりかえった廊下を歩く。


そのまま寄り道もなく、お互いに別れる。


「あっ」


結局、ひかげに普段何してるか聞きそびれちゃった……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る