第5話 一緒に帰ろう
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しばらくして、落ち着きを取り戻した流斗は、遥に尋ねた。
「なんで、俺なんかを助けたんだ? あんたは俺を捕まえるんじゃなかったのか?」
その問いに、遥が穏やかな顔で話し始めた。
「私も母さんを亡くしていてね。父さんも仕事が忙しくて滅多に家に帰って来ないわ。私はあなたの資料を見たとき、少しばかりあなたに自分の姿を重ねていた。そしてあなたと戦い、あなたの苦悩を知り、傷付いたあなたを見捨てられなくなったの」
戦っていたときとは打って変わった優しい顔で、遥は流斗に語る。
「あなたの実力にも興味があって、私のほうからけしかけたのだけど。途中からあなたが本気になってしまって、上手く手加減をすることができなかった。ごめんなさいね」
傷付いた流斗の体を遥が優しく撫でる。流斗はその姿を見て、遥に心を完全に許し、自身の新たな運命を受け入れた。近くで改めて見た遥の姿は、戦っているときは忘れていたが、やはり綺麗だと思った。そればかりか、たとえ嘘だとしても自分を救うと言ってくれた彼女を、神々しくさえ感じていた。
「じゃあ。とりあえず、家に帰って流斗の手当てをしましょうか」
「……え? 家って?」
「私の家に決まっているでしょう」
さりげなく自分のことを名前で呼ばれたことに驚いた。が、それよりも本当にこの人は自分を家族にするつもりなのか、と驚愕を隠し切れなかった。
「何を驚いているの? 家で養生したあとは、私が流斗をもっと強くなれるように鍛え上げるつもりよ」
「遥さん、あなたは……本当に俺を弟にするつもりなんですか?」
「そう言ったでしょう。私の弟になるなら、もっと強くならなくちゃね。私、一人っ子だったから、昔から弟が欲しかったの♪」
遥の顔は一点の曇りもなく晴れやかで、嘘を言っているようには見えなかった。
「……っ、頑張ります。それで、少しでも、あなたの側にいられるのなら」
流斗の目には新たな決意が漲っていた。
「それはいいのだけど、『遥さん』『あなた』ってさっきからなんで、私のことを『お姉ちゃん』って呼んでくれないのかしら? あと敬語も禁止! これから家族になるんだから」
「それは……少し恥ずかしいです」
そう言うと、遥が頬を膨らませて軽く睨んでくる。
「……え、えっと、分かったよ……姉さん?」
「うん。まぁ、今はそれでいいかな?」
語尾が少し疑問形になっていたが、遥はそれでも満足そうに頷いていた。
「でも、俺は姉さんのことをほとんど知らない。本当に弟なんて務まるのか……」
「いいのよ。これからお互いのことをゆっくり知っていけば。だって、私たちはもう家族なんだから」
遥が手を差し出してくる。
「じゃあ、帰りましょうか。私たちの家に」
喜びで滲む世界の中に、神崎遥の――『姉』の手があった。流斗はその手を強く握る。
決して離さないように、離れてしまわないように、手を取って歩き出した。遥の孤独に揺れる横顔を見て、必ずこの人を守れるほど強くなってみせる、そう心に強く誓った。
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