第十六話 派閥を取り込む
派閥を取り込んだ?
「面倒だからといって、展開をはしょるのはどうかと思うぞ?」
「何の話だ」
「派閥を取り込むといっても、まずはネロの派閥を作る→数話をかけて派閥のモブのキャラ付け→相手の派閥と対立しつつ、最終的には手を組む。最低でもこれくらいのやり取りをせねば」
「だから何の話をしている!」
「大体派閥を取り込むとはどういうことだ」
「それは僕から説明させてください」
私たち二人の会話に割って入るとは、度胸は認めてやろう。
パパウェルは、優男風で押しに弱そうだが、派閥の頂点ではあったのだ、油断はできまい。
「派閥というと大げさですし、僕たちはそこまで明確に分かれているという意識はないのです。彼らも僕らも同じ市民で、冒険者ギルドの中では最下層ですから」
わかるぞ、派閥というのはあくまでネロが俯瞰して名付けただけだからな。
クラスのカーストや、いつもつるんでる連中みたいなものだろう。
「だから、僕がトップというわけでもありません」
「何だ、そうなのか?」
ネロは鼻で笑い、
「ふん、謙遜も過ぎると傲慢だ」
「ネロにだけは言われたくないな」
「どういう意味だっ!言っておくが、傲慢さでは貴様もいい勝負だ!!
それにパパウェル。こいつを誤解させるようなことを言うな。
貴様がいなければ、派閥が空中分解するのは目に見えている」
パパウェルは肩をすくめ、困ったように苦笑する。
「そうでしょうか。ただ、僕は薬局の息子と言うこともあって、他の子たちとも広く、顔見知りになる機会があった。なので、他の子どもたち同士の繋ぎ役という地位を確立しているように見えるのかもしれません」
「その繋ぎこそが宝だ。勝負事では、多数派が正義で勝者なのだから」
必要なのは数だ、とネロは続ける。
「パパウェルの人脈を使い、効率的に15階位へと昇る。
重要なのは、俺様たちだけでなく、俺様たちと同時期にできるだけ多くの人間を15階位に認定させることだ。
おそらく、この城下町で一番依頼数が多いのが採集だ。
そして、採集こそ、多くの人間と統率が必要になる」
何の根拠があって断言しているのかはわからんが、とりあえず頷いておく。
「薬草のことはパパウェルから情報を引き出す。そして俺様たちはそれに対価を払う」
「やはり、金か!派閥を取り込むとかかっこいいことを言って、金で買収か!」
「何か不都合でもあるのか?俺様たちの望む働きに対して、対価を支払うのは当然のことだろう」
生まれながらの王族というものなのか、人を使うことに慣れすぎている。
「それと加えておくが、俺様が支払うのはパパウェルの情報に対してだけだ。他の連中に関しては、15階位…いや、14階位に認定させてやる。一か月以内に、だ」
「無茶!無理無理無理!いくら何でも大言吐きすぎ!」
「ギルドに用事を済ませたら、パパウェル、冒険者ギルドに属している他の連中を連れてこい。俺様から話す」
「わかりました」
「待ってよ!一か月で、14階位?!そんなの普通に考えて無理だって、ネロ、わかってるでしょ?!」
「14階位への試験の挑戦権に期限はなく、依頼数によって挑戦権を取得できる。
付け加えておくと、依頼の質もレベルも関係なく、単純に数だけだ。依頼数は10」
「短期間に10も依頼をこなすなんてできないし、そもそも依頼自体そんなに出てくるものじゃないでしょ?しかも、15階位が受けれる依頼なんて数は限られてくるし、15階位以外の人間も依頼を狙ってる。まさか、自作自演で依頼を出すわけじゃないよね?」
「それと、精密な地図が必要だ」
「僕の所持している地図は持ってきていますが、冒険者ギルドで販売している地図もあります」
私への説明が面倒だからって、無視しなくったっていいじゃん!
しかも、パパウェルがいそいそと鞄から取り出したのは、地図だけではなかった。
採集依頼の薬草もである。
「あいつらよりも先に15階位に認定され、階位を登りつめる。狙うは史上最速最年少という肩書だ。勝負も、人脈も、依頼も、階位も、全て手に入れてみせる」
ネロはパパウェルから薬草を受け取り、硬貨という対価を手渡す。
依頼料に見合わない金額で、貧乏人なら赤字を怯えて、絶対に真似できない。
胡乱気な目で見つめる私をせせら笑う。
「金は所詮、目的のための手段でしかない。惜しんでいると大局を見失うぞ」
「大局って大げさが過ぎる。結局森にいってないなら臆病者呼ばわりされても仕方ないんじゃ」
あんなに冒険心で瞳を輝かせていた少年はどこへ行ったのか。
どんな手段をとろうと、勝負事となると絶対に負けたくないのか。
というか、ガキ大将どもはどうするのだ?
おそらく、初心者の森に罠を仕掛けて、私たちをけなげにずっと待っているぞ。
それに私が「この話裏がある」みたいな感じで意味深な雰囲気を出したのに、裏も何も解明しないまま放置でいいのか。
仕方がない。
ついでに私とマーチの分まで支払ってもらい、ギルドへと早々に15階位認定を済ませた私たちは、話し込むパパウェルとネロに先に帰っているという旨を伝える。
ネロの護衛は、ダイナに頼み込んだ。
ダイナの役目は私の監視ではあるが、さすがに王子一人を置いていくわけにはいかない。
恋愛ものでは、城を抜け出し一人出歩く王子はあるあるだが、ネロはまだ七歳である。
平和ボケした国で何かあるとは思わないが、万が一何かあったら私の責任である。
かといってネロの近衛に話して護衛をしてもらう案も却下である。
そもそも城下町を出歩く許可が下りるとは思えん。
ネロには強くなってほしい、だけど護衛は最低限必要、という苦渋の選択の結果が、ダイナによる護衛であった。
マーチは私以外の話を聞かないし、私の話すら聞かないが、私を守ろうとする意志は最低限ある…と思う。そうだと、いいな。
ダイナは表情を固まらせて、いつもよりも雄弁に困惑を伝えてくれたが、王城のネロの私室で二人の帰りを待っていると根気強く言い含めると、納得したようなしていないような、だけれどネロを一人にできないということは大筋理解してくれた。
だが、私はネロの私室に直行するとは言っていない。
「腰抜け君の連れか。あいつはどうした。女を捨てて逃げたか?」
私とマーチは、城下町からそれほど距離のない森の入り口で、待ち伏せしていた薄汚い子どもたちに囲まれた。
正面にいるのは、帽子を被った目つきの悪いリーダー格で、背格好から10歳近くには見えるが、栄養状態が悪そうだからそれよりも何歳か上かもしれん。
「取引に来たのだ」
「取引、だあ?笑っちまうぜ!怖くて森に入れないから、許してくださいってか?しかも女に言わせんのかよ!」
「許しを乞いにきたのではない」
「失せろ!女は呼んでねえんだよ!引きずってでもあいつを連れて来い!!」
嘲笑と怒号、全く持って騒がしい連中だ。
どうにも私を使い走りか何かだと勘違いしているのも癪に障る。
どこからどう見ても高貴さは隠れていないと思うのだが、この私を見て、よくそのように偉そうな口を叩けるものだ。
「取引の方が穏便に済むのだから、そちらも良いと思うのだが」
「てめえじゃ話になんねえんだよ!」
「ふむ、やはりそうか。
奇遇だな。私もちょうど、そう思っていたところだったのだ」
わはは、と私は笑い、
「話し合いのできぬ相手であれば、やむを得まい。
差し出しなさい 」
私の眼前に、書面が浮かび上がる。
オクタヴィアの名の下に、【閲覧の権利】を行使。
この私が差し出せと言ったのだ。
下の人間は差し出すものだ。
それこそが、【法使】の起動術式である。
「ん?アスター、頭が高いぞ?」
棒立ちになっていた目の前の人間が、慌てたように地面に伏せ、頭をつける。
愚鈍なのも許す。
臣民の愚かさも愛らしいではないか。
さて、と私はアスターの周りで騒ぎ立てる子どもたちを観察する。
大体十五人か、手駒としては少ないな。
そう、派閥を取り込むのは何も王子様だけではないのだ。
それこそ、派閥作りに関しては、悪役令嬢の十八番ではないか。
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