第8話 静かなる剣客

俺たちはギルドからのクエスト攻略に向かい草原をゆっくりと歩んでいた。


「おーい、遅ぇぞー」


気づけばゼロと赤舟が先にいた。


俺は草原を駆けて2人に追いつく。


「そういえば、赤舟の故郷ってどんなところなんだ?」


赤舟はこの世界の住人のようだ。


そして赤舟は和風装束に刀を差した、まさに侍という風貌の人だ。


これを赤舟は故郷の民族衣装だと言っていた。


つまり、この世界にも俺の世界の日本のような文化を持つ国があるのかもしれない。


気になったので尋ねてみる。


「そうだねぇ。木々の葉は年中紅く染まり、美しい自然に囲まれた美しい国だぜ。あとは刀を初めとした鉄器が名産品だ。飯もうめぇぞぉ」


赤舟は武勇伝を語るかのごとく、雄弁に語った。


俺は少しイメージしてみた。


秋の日本の長野県とかそこら辺が想像に浮かぶ。やっぱり日本と似てる気がする。


「へぇ~。行ってみたいなぁ」


「『隠』って国だ。行ってみるといいさ」


拡大マップに「隠」という名の国は表示されていなかった。


大陸部分もほとんどがunknownとなっており、ヘルミア王国及びその周辺以外の大陸の地理情報を見ることができなかった。


自らの足でその土地の土を踏まければわからない。


ということだろう。


この旅でできれば多くの様々な国に行ってみたい。


なんせここはたった1つの大陸で世界を形作る超大陸グランティア。


数多くの国が、出会いが、神秘がそして美少女と


冒険のロマンが星の数ほど詰まっている夢のおもちゃ箱のようなものだ。


ワクワクしないわけがない。


そんな妄想を膨らませていると、ゼロが何かを見つけた。


「あのボロいのがダンジョンか」


ゼロは、目の前の小丘にあるボロボロの石で積まれて、ようやく形を保っている入口を見つめる。


おぉ~!ダンジョン感丸出しのダンジョンだぁ~。


俺はマップを確認する。


「そうだな。あれがクエストのダンジョンみたいだ」


俺たちは冒険者登録をしたのち、早速、簡単なEランククエストを受けることにしたのだが


実は赤舟はなんとAランクの高ランク冒険者で、今回は俺たちに合わせてくれた。何のメリットも無いのに、だ。


「仲間になったんだ!気にすんな!」って感じで。


1度は言ってみたいセリフを先に言われてしまった。


それで、クエストの内容が「ダンジョン【ゴードブーツ】にあるゴブリンの拠点を潰す」というものだった。


ダンジョン【ゴードブーツ】は、中都市「スレイプニル」の近郊にある「迷宮型」のダンジョンで、あまりに複雑な迷宮が深々と広がってるあまり、未だに攻略はされてないそうだ。


今回俺たちは、ダンジョンの浅層のゴブリンの拠点を潰す。


ゴブリンはダンジョンや洞窟などの暗がりに拠点を作り、群れを成して生活をする魔物だ。


ゴブリンたちは村や牧場を襲い、地味に消えて欲しい魔物ランキング1位にランクインしてる魔物だ。


定期的に拠点を潰して全滅させないと、大群を成してしまう。


だからギルドは低ランク冒険者にゴブリン退治をよく依頼しているらしい。


ホントにあいつらキモいし、何より許せないのは女の子たちを襲うとこだ!


俺はラノベでゴブリンを大っ嫌いになった。


だから絶対に潰す!


「あなたなんで興奮してんの?……キモいわね」


俺が鼻息を荒くしていると、ゼロが冷たい視線を俺に突き刺す。


うぉう……なんでだろうちょっと興奮した。


どこかの駄竜姫にはなりたくない。


「そんじゃ、さっさと依頼片付けちまおうぜ!」


赤舟を先頭にダンジョンに足を踏み入れる。


俺は初めての異世界ダンジョンに胸を踊らせる。


浅層のゴブリン退治で、ゼロと赤舟という強者がついていると考えると危険は少ないだろう。


ボロボロの石が積まれ、ツタが絡んでいる洞窟内をどんどん進んでいくとモンスターが出現し始める。


「たっく……小賢しいんだよっ!」


「ミリニアンバット」というコウモリ型のモンスター

を先頭を進む赤舟が松明片手に次々斬り落とす。


1人でほとんどのミリニアンバットを叩き落とす。


残ったバットはゼロが斬り落とす。


俺はミリニアンバットの魔石を回収っと……


あれ、なんか俺だけサポート役みたいになってない?


「おーい、そっちにいったぞ。あんちゃん」


ミリニアンバットが俺の方に迫って来ていた。


俺は瞬時に刀を抜くと、バットを一刀両断する。


「お見事、お見事。で、どうだいあんちゃん。初斬りの感触は」


拍手で賞賛しながら赤舟が近づいてくる。


初斬りの感触……か。


「なんか……気持ち良い」


赤舟が俺の言葉に目を輝かせる。


「だろぉ!気持ち良いよなぁ!もっと斬りたいよなぁ!」


すごい勢いで食いついてくる。


ゼロが若干引いていた。


俺のLvがこの前上がったことで、アイテム鑑定にさらに【モンスター鑑定】が加わっていた。


俺の視界には、モンスターが現れると即座にステータス、特性、種族、獲得可能経験値など様々なデータが表示される。


魔石を換金した時にもらえるゴールド量などのデータも表示することができる。なんて便利なんだ。


俺たちはどんどん地下に潜って行く、すると何個かに道が別れ始める。


すると、赤舟が何やら地面を手のひらで触ったり、壁をじっくり観察し始めた。


「おれも駆け出しの冒険者の頃は、よくゴブリン退治をした。奴らは一匹なら雑魚だが、頭はそこそこ働くし、群れて襲ってくると厄介だ。舐めてると痛い目食らうぜ」


「ゴブリンに笑われる」ということわざもあるらしい。と赤舟は言う。


意味は、格下に見ていた相手にいいようにしてやられるってことらしい。


「こっちだ」


赤舟は3本に別れている道のうち1番左端の道に進む。


「そっちにゴブリンの拠点があるのか」


赤舟は頷く。


「奴らの足跡がこの道に圧倒的に多い。恐らくこっちに行けばすぐに会えるはずだぜ」


螺旋階段を下りるようにグルグルと地下に下っていく。


すると、開けた空間に出た。


「……すげぇ」


目の前に大きな滝が流れている。


周囲の池が静かに波紋を生み出している。


天井からは僅かに光が漏れている。


「……こりゃあハメられたな」


「……え」


すると俺たちの何mも上の崖から大量のゴブリンが降り注いで、あっという間に包囲される。


「ゴブリンは俺たちをここで待ち伏せしてたのかッ!」


「好都合ってもんだ!ここで一気に叩くぞ!」


俺たちが武器を一斉に構えると、ゴブリンたちも一斉に襲いかかってくる。


「……邪魔ね」


一閃。


ゼロの剣が一気にゴブリンたちを消し去る。


「たっく……バケモンかよ」


赤舟は半笑いでつぶやく。


それでも、ゴブリンたちはまだ大量にいた。


ゴブリンたちのほとんどは棍棒のようなものを武器としていたが、中には剣や投石を使うものもいた。


「おらよぉ!」


赤舟は長刀を横に縦にと一閃。


ゴブリンたちを斬り刻む。


俺もゴブリンたちのが飛びかかって来たところを、瞬時にゴブリンの胴体を両断する。


投石をかわしつつ、遠距離から狙ってくるゴブリンに向かって斬り進む。


俺はここでは英雄スキルを使用しないと決めている。


まず英雄スキルはかなり体力的にも消耗する。MPとかあるわけではないので、使い放題ではあるが、スキルによっては1回使用するだけで俺の身体を壊しかねないものもある。


それに、英雄スキルに頼らない俺の地力も上げる必要があると考える。


スキルを使わなくても今の俺の身体能力は、C~Bランクの冒険者に匹敵するぐらいはあるはずだ。


実際、余裕でダンジョン浅層の魔物や魔獣は倒せた。


「しかし……多すぎでしょ!」


こんだけいるとさすがに疲れるなぁ。


すると、上空からさらに巨大な何かが降ってきた。


「ジャイアントゴブリンか」


普通のゴブリンよりも何十倍も巨大なゴブリンがこちらに突っ込んでくる。


ジャイアントゴブリンは拳を上げ、振り下ろす。


「っと」


赤舟は刀の先端でそれを受け止める。


ジャイゴブの拳はピタリと止まる。


まるで時が止まったかのように。


「……軽いんだよ」


目にも留まらぬ速さで刀を振り下ろしたのだろうか


俺をオークから助けてくれた時と同じように、ジャイゴブが縦にパックりと半分に割れる。


「あなたたち……しゃがんで」


ゼロの指示に従い、俺たちは即座にしゃがむ。


「……『ゼロキス・サークル』」


ゼロの黒剣が鮮やかな紫艶の色を帯びる。


ゼロは首元に引きつけた剣を水平に空間を斬り裂く。


彼女の頭上から見たら、剣は円を描いてることだろう。


ゼロは鮮やかなダンスのターンのように一回転する。


衝撃波に咄嗟に目を瞑る。


そして…目を開けると、ゴブリンたちが全て消え去っていた。


「あー……ははは」


最初からそれ使えば良かったのでは?


「まっこれ」


でクエスト完了のはずが……


天井から今までにない大きな地響きが聞こえてくる。


嫌な予感しかしないもはや定期。


「……」


赤舟が黙って天井を見つめる。


メキメキと音を立ててひび割れ、上方から、ジャイアントゴブリンよりもさらに何十倍もデカい「何か」が降ってきた。


「うぉっ!」


衝撃とともに滝や池の水しぶきが舞う。


俺は右腕で顔を防ぎつつ、下半身で踏ん張り、衝撃波に耐える。


霧のようにその「何か」を隠していた粉塵が徐々に晴れ、巨大な「何か」の正体が暴かれ始める。


巨大で険しく隆起した岩石のような顎。頭部に大きく反り返った角が2本。瞳は赤く染まり、岩のようにゴツゴツとした4本の足がその巨体を支え、背には甲羅を背負っている。



ベヒモスだ。


『ゴァァァァァァァァア』


咆哮。


空間一体を振動させる。岩壁が衝撃で削れ落ちる。


俺はその咆哮に押されてよろめく。


しかし、すぐさま咆哮が「無かった」かのように消え去る。


ゼロが「咆哮」を斬り裂いたのだ。


少女は美しい銀髪をなびかせて、怪物に向かって駆けていく。


ベヒモスは首を横に振り、角で彼女を振り払おうとする。


しかし、ゼロは翔ぶように、ひらりと地面から蝶のような跳躍を魅せて角を回避する。


そして、ベヒモスの背を黒剣で叩き斬って傷をつけたものの弾かれる。


ゼロの「斬り裂いた対象の存在を消し去る」魔法。


清々しいチートだが、「斬り裂いた」という制約がある。


恐らく斬り裂かなければチートは発動しないという弱点はある。……まぁやはりそれあってもチートはチートな気がする。


「ならここはどうかしら!」


ゼロはベヒモスの最も柔らかいと思われる首元を狙うが、またしても弾かれる。


「……硬いわね」


ゼロはベヒモスの周囲を駆け回り、撹乱し、隙を見てはベヒモスの様々な部位に斬撃を食らわせるが、斬り裂くことはできない。


英雄スキルを使うか……?いや、ゼロでも攻めあぐねているんだ。生半可なスキルじゃ意味は無い。


考えろ。


どうすればベヒモスの硬い装甲を破れる。


俺はベヒモスとゼロの攻防を何も出来ずにただ眺めていた。


甲羅、皮膚もかなり硬い……じゃあ他に何か攻撃の通りそうな部位は…………そうか。


俺の頭に閃きが訪れる。


そして俺はすぐさま赤舟に告げる。


「策を思いついた!協力してくれ!」


赤舟は俯きながら立っている。


声をかけるが気づかないので肩を掴んで再度告げる。


「赤舟!ベヒモスを倒す策を思いつたかもしれない!」


彼にようやく俺の声が届く。


「お、おう」


そう答える彼の表情は、いつにもなく狼狽えていた。


どうしたんだ……様子がおかしい


俺は疑問に覚えながらも赤舟に策を伝える。


「な、なるほどな。任せな!あんちゃん!」


赤舟はいつもの太陽なような明るい表情で、胸に拳を当てて答える。


「よし!作戦開始だ!」


ベヒモスは防御力は高く、攻撃も喰らえば相当な重い一撃がある。だが、動きがのろい。そこがウィークポイント。


ベヒモスはデカい亀みたいなもんだ。


ゼロがまだ攻めていない部位がある。


それが、「腹部」。


亀は甲羅はいかに硬かろうが腹は柔らかい特性がある。


ベヒモスも同じだと考えると、ベヒモスをひっくり返して腹にゼロが一撃食らわせる。


それが俺の策。


シンプルではあるが、ベヒモスの重量感のある巨体をひっくり返すのが難しい。


まぁそれが失敗したら……また考えるだけだ。


「ゼロ!」


ベヒモスの角による攻撃をかわしながら、撹乱して隙を伺っているゼロに策を伝える。


「了解」


ゼロはベヒモスから距離を取る。


一方、赤舟は刀を鞘に収め、居合の型を取る。


そして


「今だ!」


俺の合図で2人は動き出す。


ゼロはベヒモスの反対側の岩壁に向かって走り出し、思い切り岩壁を蹴り飛翔する。


そしてベヒモスの顎を強襲する。


「……『ゼロキス』」


下から突き上げるような斬撃を食らわせる。


それとほぼ同時に、走り込んできた赤舟の居合いがベヒモスの顎に炸裂する。


ここに俺の策の重要部が完成する。


ベヒモスの最も軽く不安定な部位。


頭部に大きな衝撃与え、ひっくり返す。


そして、作戦通りベヒモスは背から裏返り無様に腹を晒す。


ズシンと衝撃が地を這い俺の脚に伝わる。


そして、ひっくり返ったベヒモスの腹を


「……邪魔よ」


腹に飛び乗り着地したゼロが斬り裂く。


ベヒモスの腹は他の部位よりも確かに柔らかくゼロの剣が通った。


『ゴァァァァァァァァア!』


ベヒモスは悲鳴をあげるが、虚しく存在ごとすぐに掻き消された。


「よっしゃあ!」


俺は喜びに任せてガッツポーズする。


ベヒモスはSランクの冒険者がようやく倒せるレベルの強力な魔獣だ。


初めてのクエストでまさかこんな大物を仕留めるなんてな。



でも……なんでこんなダンジョンの浅層にいたんだ?


ベヒモスはダンジョン深層のモンスターだ。


本来ならいるはずはないんだが……


そんなことを俺は考えグルグル堂々巡りする。


「あなた何もしてないでしょ」


ゼロが呆れた様子で近づいて来る。


「ま、あなたの策で勝てたのも事実。ありがと」


呆れながらもささやかな称賛をくれた。


「そうだな……やったな。赤舟……あれ?赤舟?」


赤舟とも喜びを分かち合おうとしたが



視界から赤舟が消えていた。


「世界!」


ゼロの叫び声が聞こえたと思ったら背後でゼロと



赤舟が剣を交えていた。


「……嬢ちゃん。やっぱりあんた危険だよ」


赤舟の表情は今までに見たことない、狩人の顔だった。


なんで……いったい何がどうなって……


「世界、危なかったわね。私が守ってなきゃあんた斬られてたわよ。貸ひとつね。……それで?あなた何者?」


ゼロは微笑みながら侍に問う。


赤舟もまた、微笑を浮かべ答える。


「【槍】の軍が剣客……赤舟と申す。てめぇらの命。ここで貰い受ける」


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