第7話 幼女じゃない。14さい。

「魔力測定器が……こ、ここ壊れたッ!?」


ギルドの受け付けのお姉さんが口元を抑えて慌てふためいている。


周りの冒険者や商人も目を見開いて驚いている。


「おいおい……嘘だろ」


赤舟は目の前で起こった現象をまだ呑み込めていなかった。


「壊れちゃったんだけど?」


俺たちはギルドに、冒険者になるため登録をしに来ていた。


ギルドでは、冒険者と商人の2つのライセンスを取得できる。


俺たちは今回、冒険者ライセンスを取得するために来たわけだが、ライセンスを発行するためには様々な手続きを踏む必要がある。


その1つが「魔力測定」だ。


この前に王城でやったものと同じだ。


ここでは判別した魔力によって冒険者ランクが設定されたり、冒険者としてどの役割が適性かなどアドバイスがもらえるらしい。


ちなみに、冒険者ランクが高ければ高いほど高難易度のクエストに挑戦できる。


異世界転移モノのラノベにもこういうシーンよくあるよな。


たいていの場合、主人公は魔力測定器をぶっ壊すかまたは、反応が無かったけど実は特殊な魔法でチートの2択だけど。


そして、ゼロが魔力測定器に手をかざした結果…


水晶玉は薄紫色のまま、ついには縦にひび割れた。


「…もう1回やってみましょうか?」


お姉さんが新しい測定器を持ってくる。


しかし、ゼロが手をかざすと再び壊れてしまった。


「こんなことってあるの!?……あ、ごめんなさい。……とりあえず……Eランクから始めましょうか?」


お姉さんは苦笑いでちらちらとゼロの顔色を伺う。


恐らくゼロの魔力を測定器が許容しきれずに壊れてしまったのだろう。


結局、全部で3度やったが全部壊れてしまったので、計測不能でEランクと言うなんとも言えない結果になった。


ちなみにE ランクは最低ランクであり、最高はSランク。そしてSランクは大陸でも10人しかいないらしい。


つまり、最低のE ランク査定されたゼロの表情は言うまでもない。


ゼロはきっとSランクを超えた魔力を保有しているだろう。本人も自覚しているだけに納得はいかない。


食い下がると思いきや、ゼロは受け付けのお姉さんに礼を言ってあとにする。


「まぁいいわ。あとでわたしがいかに凄いかわかることになるわ」


ゼロは魔王のような微笑を浮かべていた。


どうやって彼女が自らの凄みを証明するのかはわからないが、そんなことを考えるとなんだか背筋が寒くなった。


「次は俺だな!」


俺は意気揚々と魔力測定器に手をかざす。


王城で測ったときは俺には魔力が無いという判定に終わったが、あれはコンディションが悪かったからな。うん。こっちでリベンジだぜ!


水晶玉が反応し、玉の中が渦く。


すると……


「こ、これは!」


受け付けのお姉さんの目が見開く。


周りの冒険者や商人もお姉さんの反応から俺に期待の眼差しを向ける。


ゼロの1件で物見客が受け付けを囲むように集まっている。


お姉さんのこの反応……


俺、覚醒したかな?


今回こそチート主人公みたいな反応来い!

壊れろ魔力測定器。


俺のいた世界に現在は魔法は無いので俺はもちろん魔法を使えない。しかし、エデンのリンゴを食したことで、潜在的に俺の魔法の才能が開花し、使えるようになっててもおかしくない。


それも、とんでもない魔法を。


クククク……


「……Eランクですね。と言うか、冒険者としてやってくのは厳しいかと……」


お姉さんは申し訳なさそうに言う。


ナンジャらほい!


周りの物見客もズッコケてた。


なんだこのラノベみたいなテンプレな展開は……


後ろを振り返ると、ゼロはニヤニヤと笑っていた。


赤舟はすごい気まずそうに顔を逸らす。


涙が出そうになった。





「ふふ……あははは」


突然、愉快に腹を抱えて笑い出した美少女に通りを歩く人々は驚くが、少女の美貌と華やかな笑顔を見て微笑む。



世界のやつ。魔力0とか面白すぎる。


受付のお姉さんの顔も傑作だった。最後、世界怯えた子犬みたいにプルプル震えてたのも……ふっ


でもあのお姉さん。わたしをEランクに認定したのはやっぱちょっとムカつくわね。まぁいまさらいいか。


それにしても……浅田世界、ね。


なぜかあのウザい神が気に入っている人間。


ハッキリ言えば、彼からは全く感じるものはない。いわゆるモブキャラ。村人Aとかそんな感じの印象を受ける。


歩みや細かな所作からは全く戦闘のセンスは感じない。まぁ、頭はそこそこ回るみたいだけど。


なぜ、そんな一般人となんら変わらない世界があの神に気に入られ、【英雄】に選ばれたのか……気になるわ。


試しに彼の実力がどんなものか知るために殺気を当てて襲ってみたけど、動きは完全に戦闘のせの字も知らない素人だった。おまけに魔力も無し。


でも、彼の放ったあの一撃。


あの時だけは、彼の姿はまさしく【英雄】だった。


なぜあんな強力な一撃を村人Aが放てるのか。不可解だわ。


最初の印象からは変わり、現在のわたしが抱く彼の印象は「未知数」。わたしの理解が及んでいない存在。


ただ一つ、彼についてわかっていることがあるとすれば、彼は『地球』から来たということ。


ソースは、浅田世界という彼の名前。わたしの発言「RPGゲーム」に対する過剰反応。


とにかく、今後は彼を注意深く観察しつつ、有効に利用していくとしよう。


「イタ」


考え込みながら歩いていると、わたしは小さなフードを被った子供にぶつかってしまった。


「ごめんなさい。大丈夫?」


「ちゃんと前見ろ」


子供は顔を上げるとそうつぶやく。


事実であっても子供に言われてちょっと頭にきたが、その子供の顔が目に入ったとたん、そんなことはどうでもよくなった。


だって


「……かっ可愛ぃ!」


フードから覗き込むまんまる透き通った蒼色の瞳。水色のツインテールがフードから飛び出し、おでこにはうさぎのヘアピンをしている。口もちっちゃい。胸は未発達の貧乳……素晴らしい。なんて可愛い幼女なの!?


可愛いものに目がないわたしはもう刹那で攻略されてしまった……


わたしは幼女を高く持ち上げる。


「はなせ」


幼女はむーとほっぺをふくらませる。


リスみたいだにゃー。可愛い……


「わたしは幼女じゃない。14さいだ」


「幼女は中身じゃないの。見た目なの」


幼女は首を傾げる。


「はなせー」


小さな手で叩いてくるが……わたしのハートにしかラブラブダメージは入っていない。


可愛い……


幼女は抵抗するのを諦めると、わたしの黒剣「黒闇」を見つめる。


「ん?どうかした?」


「……とぐ?」


幼女は上目遣いで首を傾げる。


ぐはっ!ロリポイント100点ね。


「……できるの?」


それにしても……よくわかったわね。この幼女。


黒闇が刃こぼれしてるってことに。


もう何千年も研いでなかったもの、刃こぼれして当然ね。『この娘』にも悪いことをしたわ。


幼女はいつの間にか、わたしの手から降りると、狭い路地の方に手招きしてくる。


わたしは幼女について行く。


すると、幼女の家?に着いた。


「……あなた、鍛冶屋なの?」


コクリとうなずく幼女。


炉、鞴、小さな金床。刀や剣が壁に立てかけられている。とても綺麗に整理された作業場。


「ここは神聖なばしょ」


幼女は剣を渡せと手招きする。


わたしが剣を渡すと、手慣れた様子で鞘から抜き出し、金床で研石を滑らせて淡々とわたしの黒闇を洗練していく。


無駄の一切ない、職人の技。


この幼女、すごい……


「……おわった」


「……早い」


小さな鍛冶師の静かな技に見入っていると、いつの間にか終わっていた。


「……んっ」


小さな体で黒闇をなんとか持ち上げ、こちらに渡してくる。


「ありがとう」


わたしが感謝の意を述べると、幼女はわたしの手を両手で優しく握ってくれた。


「……がんばって……」


「ええ」


わたし幼女の激励を受け取り、その場を去った。




「………またね」




「んー……どれがいいんだ?」


俺は壁に立てかけられている「刀」をじっくりと品定めしていた。


「………」


隣で赤舟も真剣な眼差しで刀を手に取り、一本一本眺めている。


俺とゼロはギルドで冒険者ライセンスを取得し、Eランク冒険者となった。


そして俺は、街で服やらポーションやら食料やらサバイバル用品を買ってから、赤舟とともに武器屋に来ていた。


拾い集めた魔石をギルドで換金し、そこそこの金を手に入れることができたので、俺は残った金で武器を手に入れることにした。


ずっと手ぶらってわけにもいかないしね。


武器を装備しないと使える英雄のスキルも限られてくる。つまり素手で戦う英雄のスキルしか使えないってことだからな。


だからいろんな種類の武器を持ってたほうが、使える英雄スキルの幅も広がるってことだ。


いろいろ買おうと思ってたけど……


俺の残資金じゃ刀一振ぐらいしか買えないみたいだ。


「それにしても、他の武器に比べて刀が安すぎないか?ホントに優秀な武器なのに」


いわゆる西洋風の剣が3000ゴールドなのに対して刀は1000ゴールド。剣一振の値段で刀三振買えてしまう。


※円で換算すると、10ゴールド=100円ぐらい


そんなボヤきをしていると赤舟が俺の肩に腕を回し、ニカッと笑う。


「お、あんちゃん!わかってんじゃねぇか!刀こそ至高!こんなに美しくて強えぇ武器はねぇ!……てのに、残念ながらこの辺に刀を使う奴いねぇんだよなぁ。需要がねぇからこんな安物なんだろうよ……だがそれでも刀はすげぇ!」


それから赤舟による猛烈な刀語りが始まった。


刀の歴史がどうとか刀の均整がどうとか


侍はみんな刀オタクなのか?


「で!どれが良いと思う?」


これ以上語らせ続けたら日が暮れてしまいそうだったので、俺は本題に戻す。


「おう。そうだったな」


赤舟は気を取り直して刀を品定めする、と思いきや、全くそんなことはなく即答した。


「ねぇな」


「え?」


「刀に『善い』も『悪い』もねぇよ。ま、これは持論だが、どんな名刀を振るおうが、ぼんくらを振るおうが、結局、使い手が善し悪しを決めるのさ」


かっけぇ侍。


確かに、俺の好きな剣豪もそんなこと言ってたな。


「ー愚者が振るうは駄刀。賢者が振るうは名刀」ってね。


「なるほど……」


「まぁこれにしとけ。ぶっちゃけ大してどれも質はかわらん」


黒い鞘に収まった刀を俺に放り投げる。


「おっと」


ズシリと確かな重みが手に伝わる。


強化された俺の身体でも、重いように感じる。


「いいか、あんちゃん」


赤舟は俺の肩に手をかけると、鋭い眼光で俺を貫く。


「その重みを覚えておけ。それが……人を殺すことの重みだ」



赤舟のこの言葉が、後に俺の覚悟を揺るがすことを



このときの俺はまだ知らなかった。

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