第6話 festeggiamento
商店街は大勢の人で入り乱れ、広場では人々が手を繋ぎ踊り、笑顔が溢れている。
中都市スレイプニルでは、「収穫祭」。豊作を祈る、年に一度の祭りが行われ活気づいていた。
街の中心の広場から盛大な歓声が聞こえる。
【英雄】の登場だ。
「ーーー収穫祭の日に、魔獣どもに襲撃され危機を迎えた我々ではあったが……ここにおられる3人の英雄様が我らを救ってくれた!皆の者、盛大な拍手を!」
壇上に3人の英雄が上がると、都市に盛大な喝采と拍手が響きわたる。
……恥ずい。
俺とゼロそして俺の命の恩人は、都市を救った英雄として祭りを盛り上げていた。
俺は何もしてないんだけどな……
拍手が鳴り終わると、俺たちは壇上から降りる。
「……へへ。たまにはこういう風に目立つのも悪くはねぇな」
鮮明な赤髪が目立つ、20代後半ぐらいだろうか。
和風装束の背の高い男はばつが悪そうに鼻をこする。
腰には長い刀を差した派手な侍だった。
「あの、さっきは助けてくれてありがとうございました!」
この侍こそが、俺の命を救ってくれた人だ。
「いいってことよ。おれが剣を振るった先にあんちゃんがたまたまいた。それでいいじゃねぇか」
太陽のようにニカッと笑う。
「……うーん。それじゃあなんだかこっちの気が収まらない。なんか礼をさせてください」
「おーそうか……そんじゃおれとパーティーを組むってのはどうだ?」
突拍子もないその願いに一瞬驚くが、俺は喜んで承諾する。
パーティーとは冒険者パーティーのことだ。
俺とゼロは2人ともこの世界の通貨を持ってないということが判明したため、近場の街でまずは資金を調達しようと考え、この都市に来た。
そして、見つけたのが「冒険者」の職業だ。
まぁあるだろうとは予想していたが。
とりあえず、ある程度資金が貯まるまではこの街を拠点に冒険者として活動するつもりだ。
そうゆうことで、ゼロだけでも十分すぎるほどだが、仲間は多いほうがいい。
そういう意味で、侍の提案は非常に魅力的なものだ。
オークを一刀両断した時の、あの剣技は紛れもなく強者のそれだった。
この人、いったい何者なのだろう。
「ぜひ、こちらからも頼む!俺は冒険者になりたくてこの街に来たんだ。あ、自己紹介まだでしたね。俺の名前は浅田 世界、年は16、職業はまぁ……冒険者見習いってとこかな」
俺が名乗ると、また笑顔になり俺の頭をくしゃくしゃにする。
「そうか!世界か!いい名じゃねぇか!漢に生まれたんだ、そんぐらいでけぇ名がいい!んで、俺の名は赤舟だ。あんちゃんのに比べて名劣りはするが、剣の腕なら誰にも負けねぇ。ここいらで冒険者をしてる。ちょうど独り身も寂しくなってきたんでねぇ。仲間を探してたとこだったんだ」
「そうだったんだな。これからよろしく赤舟さん!」
「さん付けはよせよ。赤舟でかまわねぇ。ところでいいのかい?連れの嬢ちゃんに許しもらわなくて」
ゼロは腹が減ったと言って壇上から降りた後、すぐに祭りの屋台に駆け込んでいた。
「ま、まぁあとで話せば問題ないよ」
「それにしてもあの嬢ちゃんとんでもなく強かったなぁ。あの数の魔獣をバッタバッタと……ぜひご手合わせ願いたいものだな」
赤舟は間違いなく強いけど、さすがにゼロが魔法を行使したら勝てないだろう。
あいつ手加減なんてできなそうだし。
だがやめておいた方が良いとは言わなかった。
俺の中には、ゼロと赤舟の剣戟を見てみたい気持ちもあったので。
「まぁ……」
赤舟は俺の肩に腕を巻き付ける。
「よっしゃ!新たな友との出会いに感謝を!今日は祭りだ!とことん飲もう!」
「いや俺まだ未成ね、ん!」
そして俺はそのまま引きづられ人混みの中に消えていったのだった。
まだまだ夜は長そうだ。
「……ただいまー」
俺はクタクタで宿の部屋に帰る。
赤舟に酒を無理矢理飲まされそうになったがなんとかそれは防いだ。
「未成年だから無理!」と言うと、赤舟は怪訝そうな顔をしたが、こちらが粘ると渋々了解してくれた。
.........あーホントに嵐みたいなヤツだったな。
俺は怒濤の勢いで祭りの隅々まで連れ回された。
街の人たちには英雄様ぁ!ってな感じに讃えられて、握手とか求められるは、中には求婚してくる人もいたし、悪い気はしないんだが......
大事なことなのでもう1度言うが、俺は何もしていない。
「全く……なぜあなたとわたしの部屋が一緒なの?」
俺は祭りの前に、今日の宿を予約しておいた。
収穫祭で外からの観光客もかなり来てるようで、部屋は1つしか取れなかった。
俺だって女の子と同じ部屋は緊張する。しかもゼロはとんでもない美少女だし。
でも仕方がない。うん。
決して故意ではない。うん。
……ぐふ。
「しょうがない。部屋が1つしかないんだからなぁ」
「なぜ……嬉しそうなの?」
おっとニヤついてたか。
俺は真顔を意識する。
「ほい」
俺はゼロに細長い白い布切れを渡す。
「何これ?」
「刻印をそれで隠すんだ」
一瞬、怪しむがすぐにゼロは「なるほど」と言って手に巻きつける。
「わたしは別に隠さなくてもいいけれど、あなたに配慮して隠しておくわ」
自分は奇襲されても問題ないぐらい強いからってことだろう。
「あーそうだ。ねぇ、あなた……あの赤髪の侍とはもう関わらないほうがいいわ。刻印も見られてるんでしょ?まぁあいつが槍や弓の軍ならあの時あなたを助けた意味がわからないけどね。でも、万が一もあるわ」
確かに。
俺はこの街に着いてしばらくは、刻印を隠さず歩いていてしまった。
そのため多くの人目に触れただろう。
その中に弓や槍のヤツがいた可能性ももちろんあるが、現に全く襲われはしなかった。
それに、赤舟も恐らく白。
ゼロの言う通り、赤舟が敵なら俺をオークから助ける意味がない。
赤舟のあの剣技を見て、このサバイバルゲームに参加している【英雄】なのではと疑い、手の甲に刻印があるか確認しようともした。
だが小手をつけていたため確認できなかったが
まぁそれでも、赤舟は敵ではないだろう。
とりあえずは、この街に敵はいないと安心していいかもな。
そう結論づけ、俺はゼロに伝える。
「大丈夫だろ。あの人ここら辺で冒険者やってるらしいし」
ゼロは顔をしかめる。
「ふーん……どうだか」
「さて、俺たちは世界樹をを目指して今から旅をしていくわけだが......ってそれでいいか?」
「ええ」
ゼロは間髪入れずに肯定する。
「そっか。とりあえず方針としては、ある程度の資金が欲しいよな。だから冒険者になって十分な旅の資金が貯まるまではこの街を拠点にしよう。ゼロとだったら高難易度のクエストもこなせるだろうし。すぐに資金は貯まるさ」
「ふーん……いいんじゃない?」
ゼロは全く興味無さそうだ。
「わたし考えるのめんどうであまり好きじゃないのよ。これからどうするとかは基本あなたに任せるわ。マップ持ってるのあなただし」
「なるほど……」
.........oh......
ぶっちゃけ俺としては、ラノベとかゲームの知識を頼りにできるだけ戦闘を避けていくって感じなんだが。
少し不安なのでちょっとぐらいはアドバイスとか考えを教えてほしいものだ。
それをゼロに伝えると、ぜろはとってもとってもめんどくさそうな顔をする。
「自信もって」
ウインクを添えてサムズアップポーズしてくるゼロ。
........こいつ。絶対にクラスに1人はいるやる気ない系の女子だ。
そういうヤツって文化祭とか体育祭と青春に欠かせないイベントを平気でサボるんだよなぁ。
あと学校もよく休む!
あと........おっと、ついつい愚痴ってしまった。落ち着け俺。
やる気ない系女子に良い思い出がない俺であった。
そして、ゼロはなお言葉を紡ぐ。
「わたしはわたしの邪魔をするヤツを……消したいだけだから」
ゼロの瞳は強い決意を宿す。
........SHE IS Berserker
かっこいいセリフのように思えるが、実際のゼロはただの狂戦士だってことを忘れないでほしい。
「わたしは寝るわ。おやすみ」
「お、おう。俺に襲われるとか考えないの?」
ゼロは鼻で笑った。
そして、色気を豊満に放つかのようなイタズラな微笑みを浮かべる。
俺の心はその微笑に撃ち抜かれ、思わず頬を赤らめる。
「あなたに……わたしを襲える?」
俺は男として認識されてるのか心配になった。
俺だってちゃんとした思春期高校2年生だぞ!
狼になる用意はいつでもできている!
あぁ........さっきからゼロは風呂上がりなのか、フローラルな良い香りがする。色気が……パない。
それが余計に俺の心をかき乱す。
まぁ……実際、ゼロの寝ているベッドにルパンダイブしようものならこの世界から存在消されかねないし不可能だ。
「ということで明日から冒険者として赤舟もパーティーに加わるけどいいよな?……あれ?ゼロさん?」
ゼロはどうやら眠りについたようだ。早っ!
「やれやれ」
俺は横になり、少考する。
ゼロの目的とか考えてることはさっぱりわからない。
なんだかんだ俺がゼロについて行っているというよりは、俺にゼロがついてきている形になってる。
俺の方針行き先にほとんど口を出すことはない。
ホント.......何者なんだろうな。こいつも。
それにしても........いろいろあったなぁ。
今日あったことに思いを馳せると、ドッと疲れた。
俺も寝るか……。
「おやすみ……ゼロ」
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