第5話 スライムと赤髪の侍
「うわぁぁぁぁぁ!」
ゼロという強力な仲間を得た俺は、岩石地帯を抜けた先にある街「中都市スレイプニル 」に向かっていたが.........
「数多すぎだろ!」
現在、何千匹ものスライムの大群に俺たちは追いかけられていた。
大量の水色の丸いプニプニが飛び跳ねながら迫ってくる。
「ッ!痛って!」
俺は激しく痛む右腕を左腕で抱えながら走る。
さっきのゼロとの戦闘で使用した、英雄ダビデの投擲スキル「イェシュア」により俺の右腕はかなり消耗していた。
器の容量を超えた水を器に入れれば溢れるのと同じだ。
俺の以前よりかなり強化された身体でも、英雄の異能を完璧に扱うにはまだ貧弱すぎるということだろう。
英雄の力を完全にコントロールするためにも、Lvを上げ、身体をさらに強化する必要があるな。
LvアップはとことんRPGゲームの様式で、戦闘経験を積めば「経験値」を獲得し、俺のLvが上昇するシステムのようだ。
対モンスター戦そして対人戦のどちらにおいても、戦った敵が強ければ強いほど、戦闘が過酷であればあるほど、獲得できる「経験値」は増える。
まずは、スライムとか弱いモンスターを倒しまくって経験値を稼ぎまくりたいところなんだが.........
今の俺では、スライムでさえ倒せるかも怪しい。
あんなのに飲み込まれたら即ゲームオーバーだ。
ゆえに全力で逃げるのみ!
.........あー痛いなぁ。
あれ、そういえば……ゼロどこ行った?
ふと背後を振り向いて見ると、ゼロが何やら奇声を発しながらスライムの大群に突っ込もうとしていた。
「うおい!」
「スライム可愛いぃぃぃ!」
魔物の大群に興奮して突っ込もうとするその様子は、まるでどこかのドMクルセイダーのようだった。
「さぁわたしの胸に飛び込んで来い!」
両腕を広げスライムたちを歓迎する。
その姿はまさにダ〇ネスそのものだった。
スライムたちはゼロに飛びかかり、あっという間にゼロはスライムの大群の中に埋まる。
はははは........は。
まぁあのチーターなら大丈夫だろ。
しばらくその様子を眺めていると、山のように積もった大量のスライムの中心が、モコモコと盛り上がる。
そして、火山が噴火するみたいにスライムたちが吹き飛んだ。
どうやらゼロの斬撃によるものみたいだ。
一振りの風圧が、数千ものスライムを斬り消してしまった。
「鬱陶しいわ!」
「えぇ……」
自分で飛び込んで来い!なんて言っておきながら鬱陶しくなったら消し去る。
まさに魔王のごとき自分勝手さだ。
「全く……あいつらには列を成すという概念はないのかしら?1匹ずつなら相手してやるのに」
アイドルの握手会かよ。さすがにスライムたちに列に並ぶことを求めるのは無理がありすぎる。むしろお前が並べ。
てか、スライムって見た目全部同じだから、仮に1匹ずつ相手したとしても今度は「飽きたわ!」とか言って、結果的に全部消し飛ばす未来が俺には見える。
.......そうだった。街まであとどれくらいか確認しとかなきゃな。
ゼロも俺と同じく、ここから1番近い街「中都市スレイプニル」を目指して進んでいた先、俺と出会ったらしい。
そして、俺がこのゲームの参加者であり、【剣】の陣営であることをなぜか最初から見抜いた上で、俺が「使える」ヤツかどうか試したようだ。
正直、今の俺がゼロに抱く印象としては、頭のネジがぶっ飛んでるサイコ女だ。
ゼロ曰く、あなたの小石を投げるやつは使えるからわたしについてきなさい。そうじゃなかったら殺す、だ。
自分に利があるか否かで殺すかどうか決めてるあたりでサイコだろ?
さっき「よろしく!ゼロ!」とか言ってしまった自分が恥ずかしい。
こいつは俺を仲間とも味方とも認識してない。
恐らく、遠距離攻撃手段としか思ってないだろう。
まだ出会ったばかりではあるが、ゼロという少女は、まさしく魔王のごとき傲慢さと自信をもつ予想外規格外の存在なのだと俺はインプットする。
悔しいが俺はゼロに負けた敗北者。逆らう権利はない。とりあえずは、この少女についていこう。
このチーターのそばにいれば、必然的に安全になるしな。
俺はステータスをコールし液晶画面を出現させ、マップを確認しようとする。
「……何それ?」
すると、いつのまにかゼロが背後から覗き込んできた。
「うおっ! .........びっくりしたぁ」
俺は驚いて少し仰け反る。
「それもあなたのスキル?」
ゼロはどうやらステータスパネルの存在を知らなかったようだ。
「........いや、わからない。偶然ステータスってコールしたらなんか出た。身体能力が数値化して見れたり、マップを見れたり、あとは.......こんな風に、アイテムを収納したりもできる。もしかしたら、ゼロも使えるかもな」
俺は近くにあった石ころを拾い上げて、アイテムBOXに格納するのをゼロにみせてやる。
俺の手のひらにあった石ころがフッと消える。
「ふ〜ん、使えそうね.........ステータス」
しかし、ゼロのコールも虚しくステータスパネルは出現しない。
「........出ない」
やはり、ステータスパネルは俺の固有スキルだったか。
俺が3つの【エデンのリンゴ 】を食べて手に入れたスキルの効果が、これでハッキリした。
【1】身体能力の強化
以前の俺の身体が急激に強化され、今や俺のもといた世界じゃありえないぐらいの超人的な身体になった。
【2】スキル【英雄化】
もう1つのスキル【人理継承】と組み合わせることで、俺の記憶に在る【英雄】の力を借りて
身体をいくら強化しても俺には無い、戦闘技術、戦闘感、戦闘経験、そして異能力さらには魔法までも付与し補うことができる。
【3】ステータスパネル
ステータス、マップ、アイテムBOXなどの便利機能が満載。
地味にこれかなりチートなんじゃないか?
まずは、マップで他の英雄よりも迅速かつ正確に地理情報を得ることができる。
さらに、さっき気づいたんだが【パーティー 】という新しい項目が加わっていた。
ゼロを仲間と認識したのか、俺のアバターの横にゼロを表すアバターが表示されている。
そして、この【パーティー】には優れた機能があった。
それは、パーティーメンバーと経験値を共有できるというものだ。
これにより、俺が戦えない時でも、パーティーメンバーが戦って得た経験値を得ることができる。
なんかズルしてる気分で少し気が引けるが、とても素晴らしいシステムだ。ありがたく活用させてもらおう。
実際、さっきのゼロのスライムの大群消しにより俺のLvが6一気に上がった。
俺とゼロの出会い頭のあの戦闘も含めると、今の基本戦闘能力のステータスは
Lv24
攻撃力 850
耐久力 520
スピード 910
となっている。経験値共有のおかげで短期間でかなり上がったな。
パーティーメンバーを増やせば増やすほど俺に入る経験値も増加し、Lvが一気に上がるというわけだ。
まぁ自分で実際戦って得た経験値のほうが多いから、俺自身も戦わなきゃダメだけど。
さらに、【パーティー】の便利な機能はこれだけじゃない。
近辺マップは自身より半径3kmの地理情報を表示するが、半径3km以内の範囲であれば、パーティーメンバーの位置がわかるという機能がこれに追加されていた。
これもストーカーみたいで気が引けるが……
他にも、【通知】や【アイテム鑑定 】やら新機能が追加されていた。
Lvが上がるにつれ、ステータスパネルも性能が向上していくようだ。
まぁ1番のチートスキルは【アイテムBOX 】
だけどな。
こんなに買い物を便利にできるスキルは他にはない。
買った品物をすぐに異空間に収納できるから、手でもつことがなくなるし、たくさんの品物を1度に購入できる。
いつも、買い物のとき姉ちゃんに重たい荷物を持たされていた俺だからこそこれがいかに有能かわかる。
これで、買い物において俺は他の英雄よりも優位に立った。
異世界買い物無双、しちゃいますか。
そんなことを考えながら、俺が新しくなったステータスパネルをいじっていると
何やら黙って考えごとをしていたゼロが衝撃の言葉を放った。
「……あなたのそれ、RPGゲームみたいね」
「..................え?」
……今、「RPGゲーム」って言ったのか?
「ゼロ........RPGゲームを知ってるのか?」
「まぁね……」
そういえば、気になるな。
ゼロがどんな世界から来たのか。
「RPGゲーム」なんて単語が出てくる時点で、まずゼロも俺と同じく地球から来たのでは?と考えるのが普通だろうが
しかし、そもそも『現代』の地球に「魔法」は存在しない。
「異能力」はあっても、な。
だから魔法剣士なんてもちろんいるはずもない。
だったら地球と限りなくよく似た異世界から来たのか?
それにしても腑に落ちない。全く同じ「RPGゲーム」の概念のみならず、単語もゼロの世界に存在するなんて……似てるなんてレベルじゃないだろ。
なんだか頭の中に霧が満ちるような感覚だった。
俺は、ゼロがどんな世界から来たのかいろいろ尋ねてみたが、「平和」としか言わず深くを語ろうとしなかった。と言うより、自らの世界について語りたくないという感じだった。
ゼロにもといた世界のことを聞くと、決まって切ないような寂しさが滲み出る表情をしていたから。
なんだかこれ以上は踏み込まないほうがいい気がして、結局、俺は「地球」という単語を出すことも無かった。
俺は無理矢理、現段階でいちばん可能性が高い、ゼロは「地球に限りなく似ている世界」から来た。
という結論で考えることを止めた。
「それにしても……あなたこんな便利なスキルを隠してたのね」
ゼロは少し不満そうな表情だ。
「隠してたわけじゃないけどな。俺も自分の能力についてはよくわかってないというか......なんというか」
「ふ~ん、変なの」
俺の瞳を真っ直ぐに見つめるゼロ。
紅蓮の瞳に吸い込まれてしまうような気がして、思わず目を背ける。
単純に、絶世の美少女にじっと見られると気恥しいのもある。
「あ、あははは.......とりあえず早く街に行こうぜ」
そんなこんなで、俺たちは順調に街に近づいていた。
道中、コボルトやカラスみたいなモンスターに襲われたが、全部ゼロが斬り消してくれたから楽に進めた。
それにしても……なんだか街に近づくほどモンスターの数が増えてないか?
気のせいだといいが……
俺はマップを確認するため、ステータスパネルを開く。
俺とゼロが地図上にレッドマークで表示されている。どうやら目の前の丘を超えれば街はすぐそこみたいだ。
俺たちが丘を超えると......衝撃的な光景が目に入った。
俺たちにとって、冒険の始まりの街となるはずだった、中都市スレイプニルは……
モンスターの大群に包囲され襲われていた。
「おいおいマジかよ」
「めんどうね」
初っ端から苦難の連続すぎる。
高い城壁に囲まれているとはいえ、いくらなんでもモンスターの数が多すぎる。
弓兵たちは鳥型の魔獣を矢で撃ち落とし、壁を登ってくるリザードマンを兵士たちは叩き落とし、善戦していたものの、数の暴力に押され徐々に守備網に綻びが出始めている。
「急いだほうがよさそうだ」
俺たちはモンスターの大群に向けて走り出す。
さっきからスライムといいなんなんだよぉ〜
始まりの街の近くにしてはモンスターの量がエグいな。
駆け出し冒険者ヨユーで死ぬわ。
全く、こっから異世界冒険だ!ってときに次々と困難が舞い降りてくる。
「そう簡単に......俺の冒険の始まりの街を壊されてたまるか!」
とは言っても……俺は戦えないのでゼロの後ろについていきマース。
あぁ……走るとマジで腕が痛いんだよ!
モンスターの大群にゼロが突っ込み、一閃。
何十体もの魔獣が一瞬で消え去る。
ゼロが剣を振るうたび魔獣が次々と消え去る。
その様子を見た兵士たちは、城門を開き、モンスターの大群の前に打って出る。
ここに、ゼロと兵士たちがモンスターの群れを挟み撃ちにする形ができる。
ゼロの圧倒的力でモンスターの数が激減していくと、兵士たちにも余裕が生まれ、やがて形勢が逆転した。
俺はゼロの戦闘の邪魔にならないように適度に離れて見守る。
すると俺は、兵士たちによって撃ち落とされた鳥型の魔獣の死骸から、紫色の結晶が出ているのを見つけた。
「これって……魔石かなんかか?」
ステータスパネルのアイテム鑑定で見てみると、案の定「魔石」だった。
〇魔石
ーモンスターの死骸からドロップされる。ギルドでゴールドと交換できる。モンスターのランクによって魔石の価値も異なる。
ほうほう。これは拾っておくか。
俺は近くの魔獣の死骸から魔石を回収し、アイテムBOXに収容する作業を始める。
「ほりゃ……ほりゃ」
田んぼの田植えをするみたいにしゃがんで落ちている魔石を拾う。
俺が地道に魔石を回収していると
ズシン。
俺の背後からどデカい足音と地響きが……。
恐る恐る背後を振り向くと、何mあろうかという巨大なオークがいた。
オークは俺に包丁のような巨大武器を振り下ろそうとする。
「助けてぇゼロぉぉぉぉぉ!」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
ゼロどこだよ!いねぇ!ヤベぇ!
死ぬ!こればかりは死ぬ!本日2度目だよ!
マジでいつになったら俺の異世界冒険はちゃんと始まるんだぁぁぁ!
スライムから逃げて終わりかよ!クソ!
【英雄化】は使えないどころか、右腕が思うように使えずオークに太刀打ちするのは難しい
俺はオークの攻撃を回避すべく、痛みを我慢し、全力ダッシュで避難を試みる。
間に合うか......
右腕が痛んで思うように走れない。
背後を振り向く。
オークの包丁が俺の背の近くにまで迫っていた。
ヤバイッ!
すると、紙一重で振り下ろされそうになった巨大包丁が、ピタリと止まった。
一瞬、オークの動きがなぜか静止する。
......なんだ?
すると、オークが脳天から綺麗に半分に身体が分かれた。
「おう、あんちゃん。大丈夫かよ?」
パックリ綺麗に縦に半分に分かれた体の奥に現れたのは
赤髪の侍だった。
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