第4話 チートVSチート

世界と謎の少女との邂逅より数刻前……


ーーー神界


神々の祭典【オリジン】。異なる7つの世界を統べる神々は、数千年に一度の宴に酔いしれていた。


神々の楽園「エデン」にて栽培された、舌が痺れるような美味を宿す最高級の果実、野菜そして家畜の肉を食らい、酒造を司る神々が造った美酒を片手に


英雄たちによる殺し合いを眺めていた。


神々にとって、これから大陸にどれだけ血が流れようと酒のつまみであり、ほんの些細なことでしかないのだ。


そんな中、ヘルメスはとある神々の談笑の輪の中にいた。


ただし、談笑と言っても重苦しい雰囲気のようだった。


背中に大剣を背負い、黒い外套を着ている黒髪美男子が、壁に拳を打ちつけ怒声を発する。


「なぜだ!なぜ【最果ての魔王】がグランティアにいる!?」


彼こそがギリシャの軍神であり、【オリュンポス十二神】が1人、アレスである。


「【観測者】もなぜかいるよね。いったい誰が招き入れたんだか」


黒いジャケットにジーパンというコーデの赤い短髪の美男子が、アレスの発言を補足する。


彼、いや彼女は、男装女神であり【オリュンポス十二神】に名を連ねる太陽神 アポローンである。


ヘルメスはアレスを宥めようと試みる。


「まぁまぁ。いた方がこの祭りも盛り上がるし、いいんじゃないですか?」


「ダメだ。奴は何をしでかすかわからん」


それはあなたも同じでしょ、とは口が裂けても言えない。


アレスの威嚇をヘルメスは涼しい顔で受け流す。


両者の間に険悪な空気が流れ始めると、1人の男が割って入る。


「ハイハイ。そこまでだぜお二人さん。数千年に一度の祭典だぜ?楽しまなきゃ損だろうよ」


左目に眼帯を付け、髪を後ろに束ね、服はとてもダラしなく緩んだシャツを着た、いかにも酔っ払いのおっさんと言うような容貌の男が2人の肩に腕をかける。


「オーディン様」


無精髭をいじりニヤついてるこの男こそが、【北欧の主神】オーディンである。


「イレギュラーが紛れ込んだって?いいじゃねぇか。とことん盛り上げてもらうおうや。この祭りをよ。んで……俺たち神に仇なすときは、アレス、お前が排除すればいいだろ?な!ここは俺の顔を立てると思ってさ」


オーディンの発する言葉には抑揚があり、明るい楽天家な顔と冷徹非情な顔の2つの顔がチラチラ顔を出す。


「オーディン殿が言うのであれば仕方が無い。ただし、【最果ての魔王】が俺たちに害をなす時は.........俺が奴を葬る」


そう言い残し、アレスは去っていった。


さすがのアレスも、神々の中でもとくに力を有するオーディンの言葉を蔑ろにはできないらしい。


「つまんない」


何を期待していたのか、アポローンもすぐにどこかへ行ってしまった。


「んじゃ俺もちょっくら酒蔵のほうに用があるからそろそろ行くぜ。今度2人で飲もうなヘルメス」


「ええ」


ヘルメスはオーディンの誘いを笑顔で承諾する。


「……あと」


オーディンはヘルメスの横を通り過ぎようとするとき、ヘルメスの肩に優しく手を置き、耳元で囁く。


「……あんまり悪巧みはするなよー」


オーディンは相変わらずニヤつきながら酒瓶片手に去って行く。


「……やれやれあの人には敵わないな」



さて、急げよ。世界くん。


この世界の真理は、あまり気長に待ってはくれない。





ーーーグランティア・ヘルミア王国 サザンロック岩石地帯


「あなた、この世界の住人じゃないわね。あなたはこの狂ったサバイバルゲームの参加者なの?」


俺は、絶世の美少女に黒剣を突きつけられ問われる。


紅の鋭い瞳。長く爽やかな透明に映る白銀の髪には、黒い花の髪飾り。可愛らしい桜色の唇。背丈は俺より少し低いくらい。白いシースルーに身を包んでいる。


この世のものとは思えない美しさと可憐さを、少女はもっていた。


俺はしばし、その少女の容姿に見惚れる。



「.................ああ、そうだけど」


少女は俺が異世界から来た、そして、俺がこのサバイバルゲームの参加者であると見抜いている?


少女の瞳は確信していることを物語っているように見える。


だったら、ここは下手に嘘をついて警戒心を煽らないほうがいいか。


どうやら、少女はこのサバイバルゲームに参加している【英雄】のようだ。


【剣】【弓】【槍】の3陣営があり、俺の陣営は【剣】。目の前の少女は3分の2の確率で敵、か。


とは言っても、ここは【剣】の軍勢の勢力圏。


敵陣営の英雄がいるとは考えにくい


だが、完全に敵ではないとも言い切れない。


落ち着け。慎重に冷静に頭を動かせ。


刃が首元のすぐ隣にある。


つまり、この状況は心臓を掴まれているのと同じようなもの。


俺の命の行方を決定する権利はこの少女がもっている。


だが、俺の命をすぐに奪わなかったということは.........少女は俺が敵か味方かどうかまだ把握できていないのかもしれない。


ここは自ら刻印を見せるか?


それは、少女が味方であることに賭けることになるが


いや、まだ早い。もう少し少女の出方を伺いたい。


俺は右手の甲の刻印を見せないようにする。


俺は緊張しながら少女の一挙一動に注視し、警戒を強める。


緊張で身体がわずかに震える。冷や汗が全身をつたった。



........そうだ。最初から刻印は隠しておくべきだった。


刻印を晒したままこの世界を歩くのは自殺行為だ。


なぜなら、敵陣営の英雄に奇襲を食らう危険性があるから。


刻印さえ隠せれば、敵は俺が敵か味方なのかを判断する材料を失う。


味方かもしれない相手を奇襲するヤツなんていないだろう。


とりあえず刻印を隠し、敵は俺の刻印を確認してからではないと俺を攻撃できない、という制約を作ることで、奇襲を喰らう確率をかなり下げることができる。


まぁ味方だろうが関係なしに襲うバーサーカーや刻印以外に陣営を判別する方法があるなら話は別だけど。


こんな絶体絶命の窮地にこんな簡単なことにやっと気づくとはな。



心臓は鳴りやまず、全身を血液が猛スピードで駆け巡るような感覚。


だが、こんな未経験の死の間際かもしれない状況で、頭だけは冷静かつそこそこに回っていると思う。


リンゴで強化されたのはなにも身体だけじゃないみたいだ。


しかし、少女はさっきから黙って俺の瞳を覗き込む。その紅の瞳は、俺を一点に捉えるばかりだ。


わからない.....この少女の狙いが。そして、少女が敵なのかどうか。


俺は必死に頭を働かせるが、この状況を好転させる方法を思いつかない。


結局のところ、目の前の少女が俺の敵か味方かで俺の運命は決まる。


少女が味方であることを、このときばかりは、あの憎たらしい神に祈った。


俺がゴクリと喉を飲むと、少女が一瞬不敵な笑みを浮かべた。


なんだ?........急に身体が金縛りにかかったみたいに動かない.........


すると俺の身体の震えが大きくなった。背筋に悪寒が走る。


尋常じゃない冷や汗が流れる。


なんだ........身体が勝手に!


すると沈黙を保っていた少女が遂に動く。


「ふ~ん.........さようなら」


少女は別れの挨拶とともに、俺の横腹に蹴りを入れた。


「ぐはぁッ! 」


俺は盛大にふっ飛び、大きな岩にぶつかる。


蹴られた腹が酷く痛む。衝撃はまだ全身を駆け巡っている。



まさか.......敵.....だったのか!?



物事は最悪の方向へと転がり出したのかもしれない。


少女は黒剣を片手にこちらにゆっくりと近づいてくる。


少女の眼差しには俺を仕留めようという冷たい氷のような光があった。


俺の背に悪寒が纏い付く。


俺は後ろに下がろうとするが、背後にあった岩にぶつかり、これ以上下がれない。



やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!殺される!!



どうする.....どうする........


恐怖心に支配され身体が思うように動かない。


頭も思うように回らない。


思考が止まる。


動け!動け!動け!


逃げるんだ!逃げなきゃ!........殺されるぞ!


距離を詰めた少女は、横蹴りを俺の顔面に入れようとする。


マズイッ! 動け!!何してんだよ!動けぇぇぇ!


俺は強く自らの足を殴る。


「ッ!」


本能からか、俺はなんとか横に回避する。


少女の蹴りは岩をも砕く。


そして、うまく立ち上がれずにいた俺の腹にさらに蹴りを加える。


「ガハァッ!」


またも俺はふっ飛ばされる。



美しい少女は微笑みを浮かべながら長髪を翻す。


その1つの所作だけで芸術作品のようだ。


「........オェェ」


痛ぇ....気持ち悪い。


腹の痛みは治まらず、俺は吐き気を覚えた。


少女はあいかわらず微笑みながら、悠々とこちらとの距離を詰めてくる。


強者の余裕ってやつか……その微笑を消してやりたいよ。


さっきから震えが止まらない。


体も思うように動かないし


クッソ.............何が異世界チート無双だよ


自分のことすら満足に守れないのに。


どこか期待してんだ。手に入れたチートスキルを使えば、ラノベの主人公みたいに強くなって、かっこよく戦えるって


でも、現実は違う。バカみたいなファンタジーと違って無慈悲だ。


そうだよ........ついこの前までただの高校生だった普通の人間が、こんなヤツと戦えるわけねぇだろ。


ガクガク震えて声もでない。


怯えた子鹿みたいに、自分で立ち上がれもしない.........


はぁ〜あ。かっこ悪。


ホント.......俺ってずっと無能で弱虫だよ。



姉ちゃんだったら、こんなとき.........どうするのかな.........



ーーーお前は.........弱いな。



うるさい.........そんなことは俺が1番わかってるんだよ。


俺の脳裏に、嫌な記憶が蘇る。



ーーーお前はなんでも頼りすぎだ。もう少し自分を信じてみろ。



ああ、俺は自分を特別だと思ってた。でも、本当は弱くて、ビビリで、なんにもできなくてだから、ずっと甘えてきた。



ーーー勝ちたいか?強くなりたいか?



勝ちたいよ.........強くなりてぇよ。



ーーーだったら足掻け。足掻いて足掻いて最後まで、諦めるな。



足掻く.........最後まで



ーーーそれが、弱者が強者を超えうる唯一の戦い方だ。



弱者の戦い方.........



ーーーどんなにかっこ悪くてもいい。最後に笑えたヤツが最高にかっこいいのさ。


だから.......最後まで足掻くのをやめるな。



俺は何をしてんだ......もう諦めてんじゃねぇよバカ野郎。考えろ.....考えるんだ!


こんなところで諦めるぐらいなら、無様に足掻いてかっこ悪く死んだほうがマシだろ!


俺は地面に強く拳をぶつけ、立ち上がる。



ーーーさぁ、今度はお前が『世界』をひっくり返す番だ。



勝ちたい.........お前を倒したい。



「俺は........お前を倒す!!!」



『スキル【英雄化】発動を確認しました』



俺の脳内に突然、スキル発動を告げるアナウンスが響き渡るとともに、電流が駆け巡るかのような感覚が襲う。


美人だと想像できる女性の声のアナウンスだった。


俺の強い願いに、ついにスキルが応えた。


スキルの情報が俺の頭に流れ込んでくる。


……なるほどな。


俺の異能をかけ合せるってそういうことか。


「……妙ね。さっきとはまるで別人。わたしを倒すつもりなのかしら」


「悪いけど.......こんなところで終われない」


「そう」


少女から笑みが消え、瞳に焔が宿る。



さて、俺は今武器らしい物は何も持っていないが、目の前の圧倒的強者を倒さなきゃいけない。


スキルは無事発動したけど……どうすっかな。


無意識に俺はニヤッと口角を上げる。


ゲームと考えることは一緒だ。


どうやってこの少女を倒すのか、少女に関する情報は少ないが、頭の中で想定し勝ち筋を組み立てる。


そして、俺はどうしようかと周りを見渡すと、地面に小石が転がっているのを見つける。


小石…………そうか。


俺は小石を拾い上げ手に馴染ませながら、考える。


目の前の少女は、俺の背後に完全に気配を消し近づく高い歩行術、そして恐らく俺の想像すら超越する剣戟スキルをもっている。


それだけじゃない。まだ何か奥があるように思える。


これは俺の英雄としての「観察」と「直感」による推察だ。



さて、この小石1つで目の前のチーターを倒さなきゃいけない。君ならどうする?


浅田 世界としての俺ならば成すことはできないことを【英雄】としての俺なら成せる偉業がある。


俺のスキル【英雄化】。


その能力とは


『俺が知りうるあらゆる英雄の異能や技量を借りることができる』というものだ。


この能力は、俺がもともと持つ異能と組み合わせるからこそ初めてチートスキルとして成り立つ。


そして俺は、俺が所持する地球の英雄たちの記憶から


「たった1つの小石で怪物を倒した英雄」を見つける。


その英雄の名は……ダビデ。



後に古代イスラエルの王となる彼だが、最初はただの羊飼いだった。


そんな彼の故国であるイスラエルは、ペリシテと呼ばれる強国によって滅亡の危機を迎えていた。


その最も大きな要因は、「ゴリアテ」。


ゴリアテはペリシテ最強の強者であり、4mはあろうかという巨躯を持ち、一度拳を振るえば巨石を跡形もなく砕き、一度歩みを始めれば地鳴りを起こすほどの力を持つ。


いわゆる常人では万に一つも勝ち目の無い


「怪物」だった。


そんな怪物を討伐するために初代イスラエル王サウルは、国の危機を救う「勇者」を求めた。


誰もがゴリアテに恐怖し、うつむくなか、名乗り出たのは美しい容姿を持つ、ただの羊飼いだった。


そして、ついに彼は戦場でゴリアテと相見えることになる。


ゴリアテはまず、ダビデの弱々しい細身の身体を見て


あくびをした。


そしてゴリアテは問う。


「お前は剣も甲冑も身につけていないが猶予をくれてやる。勇者であるのならば聖剣なりなんなりを持ってこい」と。


そう。ダビデは怪物に何の武器も持たずに立ち向かおうとしているのだ。


そしてダビデはゴリアテにこう返した。


ーーいいよ、めんどくさいしーー



ダビデは地面に落ちている小石を拾うと……



ゴリアテに向かって投げた。



ゴリアテは一瞬、呆気に取られるものの嘲笑うように向かってくる小石を片手で掴もうとする。


しかし……小石はみるみる加速し、ついには目にも止まらぬ速さとなり


ゴリアテの分厚い手を突き破り、顔面を粉々に砕き貫いた。


ただの羊飼いの青年がここに「たった1つの小石で怪物を倒す」という偉業を成したのだ。


そんな英雄ダビデは、【農耕の女神】イシュタルより

「射手の加護」を与えられた異能力者だった。


※射手の加護ー狙撃、投擲といった遠距離攻撃手段の威力と精度が超強化される


それが俺の継承している真実。


実は地球の歴史に名を残している英雄や偉人は神より加護を与えられている異能力者がいる。



しばしの沈黙の後、俺の瞳は目の前の少女を睨む。


「リンク」


少女は明らかな近距離格闘タイプ。


だったら、距離を詰められる前に、チートを使われる前に


最初の一撃で最後にしよう。


『リンクーーー【星の導き手】ダビデ』


「行くぞ……今の俺が出せる最大最高最強の一撃」


少女は何かを察したのか剣を構え、警戒態勢を取りながら俺から距離を取る。


そして俺は、そのチートスキルの名をコールする。



「スキル……イェシュア」



俺の全感覚が、英雄ダビデのイメージとリンクする。


この時、俺に「射手の加護」が付与されるとともに、わかる。どうすればいいのか。


俺は大きく振りかぶり、まるで野球マンガの主人公ピッチャーのように豪快に投擲した。


俺の手から放たれた小石が空間を切り裂くように物凄い速さで推進していく。


小石の軌道下の地面がえぐり取られる。


強烈な風圧が俺を仰け反らせ


小石はもはや俺の目にすらも止まらぬ速度で少女を貫くかんとする。


俺は最高の先制攻撃を繰り出したが.......


残念ながら、英雄として俺は同時に確信した。




少女は絶対にこの一撃を防ぐと。




俺の予想通り、想像以上の絶技を少女は披露する。俺の投擲した小石に正確に一部の狂いもなく剣を振り下ろす。


見えているのか……。


少女の剣が、今の俺が放てる最強の一撃を斬り裂いた。いや、斬り消した。


俺は衝撃的な瞬間を目撃し、動揺が走る。


「なっ……」


少女の剣が小石を斬り裂いた瞬間、まるで最初から無かったかのように小石が消滅したのだ。


俺は力を使い果たし、膝から崩れ落ちる。


少女はゆっくりとこちらに近づき、俺に剣先を向ける。


「参ったよ」


俺は負けはしたが、清々しい達成感に満たされていた。


だが同時に、俺の中に敗北の悔しさが込み上げる。


俺はイェシュアを放った直後に気づいた。


少女の余裕のある笑みに。


そのときに確信した。俺の敗北を。


今の俺ではこの少女に絶対に勝てない。俺と少女に圧倒的な差があることを。


「見事な一撃だったわ。わたしじゃなかったら防げないかもしれないわね。素直に驚いたわ」


少女は満足そうな表情で俺に賞賛を送る。


「あれがあなたの能力?小石で戦うのね。覚えておくわ……何をやってるの?」


俺は両腕を広げ目をつぶり、いつでも殺ってくれってことをアピールしてたつもりだけど?


あれ、不思議だな。


殺されるかもってのに……なんだかそれでもいい気がしてくる。


これが、最後まで足掻いた結果か。


まぁ......いっか。


「安心して。最初から殺すつもりは無いわ。あなたが使えるかどうか試してただけ」


「へ?」


少女はにやりと微笑みながら、俺の手の甲を指さす。


「その刻印、【剣】でしょ。わたしも同じ」


少女は俺に刻印を示す。


えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!


なんだよぉ!味方かよ!


ヒヤヒヤしたなんてもんじゃなかったぞ!


困惑と怒りと呆れをゴチャゴチャに混ぜてミックスしたみたいな感情が胸をかき乱した。


少女は驚かせてごめんなさいとボソっと謝罪する。


その全く誠意が伝わらない謝罪はどこかの神にそっくりだった。


「そういえばさ、俺の一撃を斬り裂いた時、まるで石が最初から無かったみたいに消えたように見えたんだけど……」


「あーあれね。わたしの魔法。斬り裂いた対象の存在を完全に消し去ることができるっていう魔法よ。すごいでしょ? 」


は?なんだよそのチート(笑)


「俺の攻撃事態を消したってことか」


「まぁそうね」


敵なら絶望的な恐ろしさだが、味方ならこれほど心強い味方はいないね。


「ねぇさっさと立ちなよ。いつまで尻もちついてるの?」


彼女は俺に手を差し伸べる。


「あ、そういえば。あなた、お名前は?」


「あー俺は浅田 世界。世界でいいよ」


少女は一度首を傾げてから


「そっ。よろしく世界」


少女は初めて笑顔を見せる。


こんな顔するんだ……可愛すぎる。


一輪の花が荒野に咲いたーみたいな感じ。


パァって感じだ。まぁとにかく可愛すぎる。


「君は?」


少女に引っ張りあげられ俺は立ち上がる。


「わたしは……ゼロ」


ゼロ……見た目に反してかっこいい名前だな。


「よろしく!……ゼロ!」


こうして、俺たちの長いようで短い波乱ばかりの異世界サバイバルが始まるのであった。



この2人の出会いが、後々、全異世界に大きな波紋を呼ぶことを


まだ誰も知らない。





またまた世界とゼロの戦闘から数時間前。


ーーーグランティア。ヘルミア王国 王都。


この国の第一王女にして、軍の大将軍である

エレン・ヘルミアは、王城に向かい馬を走らせていた。


金髪の編み込まれたアップヘアの美女が、馬上で豊満な胸を揺らす。


「何者だ!名乗れい!」


門兵が馬を止めようとするが


「私だ!門を開けよ!」


「これは姫様!かしこまりました!」


門兵は顔を見るやいなや、門を開く。


エレンは街の広道を疾風のごとく駆け、王城に飛び込んだ。


王座がある大広間の扉を勢いよく開く。


「お父様!」


愛娘が入ってくるのを見るとエラム王は顔をとろけさせ、娘に抱きつこうとする。


「おぉぉぉ!エレェェェェェェェン!」


エレンは容赦なく顎にアッパーを食らわす。


しばらく飛んだエラム王は床に叩きつけられる。


「うぎゃ!」


エレンは真剣な眼差しで問いた。


「なぜ、勇者殿を追い出したのです!」


エラム王は床に這いつくばりながら答える。


「そ、それは。あの勇者はなんの力もない偽物だったから……」


「だとしても!勝手に喚んで勝手に追放するのはあんまりです!私は勇者殿を追いかけます」


その言葉を聞いたエラム王は目に見えるガッカリを表情に浮べる。


「そ、そんなぁ~!待ってぇぇぇ!もっとお話しよぉううう」


エレンは早歩きで引き返す。


「お父様が反省するまで帰りません!」


絶望のエラム王。


「まっ待て!ならこの国の防衛はどうする!」


「周辺国は同盟国ですし、シルフィーがいれば大丈夫ですよ」


王の苦肉の策、不発。


「待ってぇぇぇぇぇぁぁぁ」


扉を閉め城外に出ると、王の痴態を晒す雄叫びは聞こえなくなる。


エレンは快晴の青空を仰ぎ、拳を握った。



「待っていてください。勇者殿〜!」


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