第3話 異世界ヒロインは唐突に

「おぉ!勇者様が降臨なされたぞ!」


俺がヘルメスに「グランティア」に送り込まれ、最初に降り立った地は西洋風の王城の広間だった。


いや、ヘルメスに送り込まれたというか


グランティア側の人間に「召喚」されたという表現のほうが正しいのかもしれない。


魔法陣が描かれた祭壇に立つ俺を、大勢の人が見つめる。


普段、大勢の人の注目を集めるなんてことはないからめちゃくちゃ恥ずかしい。


「……えーと…こんにちわ?」


とりあえず日本語で挨拶をしてみたが、果たして通じたのか。


「よくぞ……よくぞ!我らの願いに応じてくれました!感謝の極みですぞ!」


頭に王冠をつけている、王様と思われる40代後半ぐらいの小太りのおっさんに熱く手を握られる。


手汗で滑る。暑苦しいのでちょっと離れてほしい。


周りの人々も拍手と歓声で俺を迎える。


「い、いえ。困ってる人がいたら助けたほうがいいですから」


王様は俺の発言を聞いて、さらにヒートアップしたのか、涙を流して顔をぐちゃぐちゃにする。


「あなたこそが!神が遣わしめた〇△□✕%※」


うん。最後マジで何言ってるのかわからない。


感動しすぎだろ。


まぁ良かった。とりあえず言葉は通じるみたいだ。


このサバイバルゲームは、7つの異なった世界からいろんな種族のヤツらが集まるわけだしな。


そこは神々も配慮して言葉のやりとりをスムーズにできるように、何らかの魔法で相互の発した言語が相手に通じるように翻訳でもされるようになってるのかもしれない。


それより……おっさん泣きすぎだろ!鼻水を俺の服でふくなぁ!汚ぇ!


俺がしがみついてくる王様の処理に困っていると、メガネをかけた白い長髪の執事風の格好をした男が話しかけてきた。


「勇者様。くわしい事情は応接間にて」


執事風の男に応接間に案内される。


その間、王様は俺にずっとしがみついて離れなかったので引きずって来た。


「私はこの国の宰相を務めている、名をバラムと申します。以後、お見知りおきを」


丁寧に一礼するバラムさん。


「そしてそちらのお方が、我らが【ヘルミア王国】の国王。エラム三世にございます」


バラムさんは呆れた顔で、俺にしがみついているこのおっさんに目をやる。


このおっさんやっぱり王様か……


この国よく滅びないな。


「エラム。勇者様に何としても頼みたいことがあるのではなかったのですか?」


バラムさんはひとつ咳をしてから王様に呼びかける。


「はい!そうでありました!」


いや、どっちが王様だよ。


上下関係逆転させちゃう王様のダメっぷり、半端ないな。


エラム王はビシッと立ち上がるとバラムさんに敬礼する。


足から重い枷が外された気分だ。


はぁ……やっと解放されたぁ……


「勇者殿に折り入って頼みがある……」


エラム王が突然、土下座をした。


「いや、どうしたんですか!?顔を上げてくださいよ!」


一国の王に土下座される日が来るとは……


いくらこのダメなおっさんとは言え、なんだかいたたまれない。


てかバラムさん!そこは「一国の王ともあろう方が土下座などしてはいけません!」みたいなセリフ言うのがお決まりだろ!


なんて冷たい目で見下してんだ……


「私の娘を……エレンを救って欲しいのだ!」


「エレン・ヘルミア様。この国の第一王女にして、この国の軍を統制する大将軍であられます」


異世界転移からいきなりお姫様救出イベントか、萌えるねぇ。


でも、王女で大将軍?すごいな。


筋肉ムキムキのゴリラ女じゃないことを祈る。


俺の中では、王女と言えば金髪巨乳美女だって決まってるんだよ。


「で?実際、具体的には俺にどうして欲しいんだ?」


「うむ。エレンのやつを、本当の「王女」にして欲しいのだ」


ん?意味わからんのだが。


王女は王女だろ。本当も嘘もあるのか?


見かねたバラムさんが説明する。


「エレン様は、他国からも『女勇者』と称されるほどに、近隣諸国随一の強さを誇るお方」


エラム王はなんだか先程と打って変わって、真剣な眼差しをしている。


ハイパー強い女騎士系のお姫様か。


個人的には、か弱い系のお姫様のほうが好みだけど、そっちも嫌いじゃない。


強ければ強いほど、くっ殺!って言わせがいがあるよな。


別にそういうドSな趣味はないけど。


「ですが……それではダメなのです」


「ダメ?なんでですか?」


バラムさんはこめかみを抑え、首を左右に振ってから発言する。


「そこのエラム王は重度の親バカで、エレン様が剣を手にすることをひどくご心配になっておられます」


「まぁいくら強いとは言え、娘が戦場に行って剣で戦ってるのを心配しない親はいないのではないですか?」


「いえ、違うのです」


what?


「あまりに強すぎて敵う相手がいないとわかっているので、戦場に行くこと自体は心配していないようなのです。エラム王が心配しているのは……戦場に行かれるせいで、エレン様と一緒にいる時間が取れなくなることです」


what!?!?!?!?


いや、知らねぇよ!


黙って俯いていたエラム王が再び俺の足にしがみつく。


「頼むぅ!勇者殿ぉ!戦争で軍を率いることができるのはこの国にエレンしかおらんのだ。ゆえに王女でありながら戦争に駆り出され、そのせいで……最近、エレンは私と一緒に食事すら食べてくれんのだぁ!」


え?何?


俺、この気持ち悪いおっさんのために何かしなきゃダメなの?


「王は、勇者様がエレン様の代わりに戦場に行ってくれれば、エレン様と一緒にいられる時間が増えるとお考えなのです」


どこにこんなおっさんのために剣を振るう勇者がいるだろうか。


ヘルメスと言い、エラム王と言い、頭が痛くなりそうだ。


「頼むぞぉ!勇者殿ぉ!」


上目遣いで懇願するおっさん。


「あーもう!わかりましたよ」


嘘でもYESと言っておかなければ、この場は乗り切れないと判断した。


断れば、このおっさんは「娘を助けてくれる代わりに私を好きにするといい!」とか言って服を脱ぎかねない。


そんなオーラをムンムン放っている。


さっきからオネェっぽい口調に、やたら俺の足に顔をなすりつけてくるし。


「おぉ!感謝の極みですぞ! 」


まぁ悪い人じゃなさそうだし。


これから世話になるんだ。無下にはできないよな。


それにしても、王女の代わりに戦場に行け、か。


勇者に頼むことにしてはなんかファンタジー感ないし、生々しいな。


もっと敵に囚われた姫を助けてほしいとか。

魔王を倒してほしいとか。


ファンタジーっぽい理由で俺を喚んでほしかったな。


まぁ今の俺に何ができるでもないけど……



さて、どうすっかなー。





その日の夜は、勇者歓迎パーティーが盛大に広間で行われた。


鮮やかなドレスを纏った貴族たちが集い、ワインを片手に談笑している。


「これはこれは勇者様!……どうです?私の娘を嫁に取ってみませんか?ほら、かなりの美女でしょう?」


「勇者様!今度ぜひ!我が家にお越しくだされ!もてなしますぞ!」


「い、いえ……ま、また今度」


そんな中、勇者の俺に媚びを売ろうとやってくる貴族は少なくなかった。


適当に返事をして、俺はすぐさま会場の隅のほうに退散する。


ゆっくり飯ぐらい食わせてくれ。


白いテーブルクロスの上には、肉から魚介、野菜、果物までありとあらゆる美しく着飾られた料理が並んでいる。


俺は皿に、目についた美味しそうなものを次々取っていく。


「これなんて料理ですか?」


「それはコフィンという料理でございます」


俺は今、パンの中にチーズと何かの肉が入った料理を食べているが、あまりにも美味しかったので近くにいた料理人にこのパンの名を尋ねた。


「めっちゃ美味いっすね!」


「ありがとうございます!!!!」


料理人は勇者に褒められて感動したのか、ハンカチで涙を拭きながら会場の外に出ていった。


まぁめちゃくちゃ美味いけど……


美味いものを食べれば食べるほど、エデンのリンゴのことを思い出してしまう。


あれ、マジで美味しいなんて次元じゃなかったな。


1度食べただけで中毒になってしまった。


まぁ2度と食べられないとは思うが…………


でもこれ以上食べてしまったら、廃人にでもなってしまう気もする。


そういう意味でも、「禁断」の果実なのかもな。


ところで、この国において勇者は王様よりも地位が高いとされているのかな?


さっきからいちいち俺に対する反応がみんな王様よりも仰々しいんだよな。


まぁいっか。


その後も俺は、魚介パスタのようなものや、牛タンかな?みたいな肉などに手をつけ、美食を楽しんでいた。


するとそこに、王様と宰相が来る。


「楽しんでおられますかな?勇者殿」


「ええ。おかげさまで」


「ほっほっほ。であれば良かった。ところで勇者殿、あとで大浴場を貸し切りにしておきますぞぉ」


王様が俺の耳元で囁く。


吐息がかかってゾワゾワする。


「ほ、ほぉー。ぜひ入らせてもらいます」


ゆっくりお湯に浸かって体を休めたい。


それに、とりあえず1人になりたい。この場にいたら媚びを売りたい貴族にまた群がられそうだし



そうゆうことで、大浴場。楽しみだな。



それにしても……王様がなぜかいやらしいニヤつきを浮かべていたのが気になる.........




そして、俺は王様に勧められて大浴場に来てみたが……


「……………………広い………………」


霧が薄まってくると、全貌を現した。


床には大理石が敷き詰められ、大浴槽の四隅に配置されているマーライオンみたいなヤツが浴槽に水を吐いている。


釜風呂や滝壺風呂などいろんな種類の浴槽があった。


早く入りたくてウズウズするのをこらえ、俺はまず体を洗う。


「.................ん?なんだこれ」


俺は体を石鹸で念入りに洗っていると、手の甲になにか刻印のようなものを見つけた。


それは、【剣 】のような形をしていた。


もしかして、これが俺がどの陣営に属しているのか表しているのか。


【剣 】【弓】【槍 】の3陣営のうちどれかに、このサバイバルゲームの参加者【英雄】は振り分けられるが、どうやら俺は【剣】の陣営に振り分けられたようだ。


そういえば、バラムさんがこの国は【剣聖大同盟】に属してるとか言ってた気もする。


だとしたら、ヘルミア王国は【剣】の軍勢に属しているということか。


となると....俺がいるのは大陸東部ということになるな。


英雄は自動的に自陣営の陣地に送り込まれるようになってるのかもしれない。


それならば、すぐに味方の英雄と合流できるかもしれないが........


はっきり言って、今の俺は無能だ。


合流できれば、単独で行動するよりも安全性は高まるのは確かではあるが


スキルをどうやって使うのかもわからない、一般人と何ら変わらない今の俺では相手にされない可能性は高い。


それに、大陸の戦争に巻き込まれる可能性もかなり高くなる。


やはり、ここは多少の危険があっても単独行動だ。


俺は決めたんだ。絶対に人は殺さないし、戦争にも関わらないと。


強い決心を再び抱く俺ではあったが、不安要素が1つあった。


それは、俺がこの国のヤツらが思ってるような勇者じゃないってことだ。


それがバレたらどうなることか.......


まぁ、いっか。


今考えても仕方がないな。


俺は頭から水で洗い流すと、満を持して風呂に入る。


「……ふぅ。気持ちいぃ~」


こんなに広い風呂を独り占めか。なんだか王様になったみたいで最高の気分だ。


体も芯から温まるし……あぁこのまま眠っちまいそうだ。


あまりの気持ち良さにウトウトしていると、浴場の入口の扉が突然開く。


「……ふぅ。今日も疲れたぁー」


「全く……エラム王ったら、急にパーティーなんかしちゃって」


俺は慌ててマーライオンの陰に隠れた。


どうやら王城に仕えるメイドさんたちが、お風呂に入りに来たようだ。


……!……なるほどな。


どうりであの王様、ニヤニヤしてたわけだ。


なーにが貸し切りだよ。メイドさんたちとのラッキースケベを俺に楽しませて機嫌を取るつもりか、あのエロ親父は。


だが………………実に素晴らしい。


俺には罪悪感などなく、メイドさんたちの裸をじっくり観察する。


ビューティフォー。


どのメイドさんも容姿の整った美女ばかり。ムチムチの太もも。豊満な胸の人。逆にスレンダーな肉体。華奢で貧乳な人もいる。


ロリっぽい人からお姉さんっぽい人まで


様々な属性のメイドさんがいる。


そんなメイドさんたちの美しい肢体を見ていると


俺の頬を一滴の雫が伝っていた。



……あれ?俺…泣いて……



この景色を眺めることができた感動で、俺は無意識に涙を流していた。


16年間生きてきて、これほど素晴らしい光景は見たことが無い。


生きててよかった!


感極まっていると、ロリ系、お姉さん系、美女ではあるが特徴のない系のメイドさん3人が

俺の隠れているマーライオンの近くに来る。


俺はじっと、息を殺す。


「それにしても……勇者様ってそんなに美男子じゃないのね」


特徴なしメイドがそんなことを言いやがる。


勇者がイケメンとは限りましぇぇぇん!


悪かったな!イケメンじゃなくて!


「でもでも!可愛いお顔だよね!」


「確かに。それには同意見ですわ」


ロリ系メイドの発言にお姉さん系メイドが頷いて同意を示す。


なんだか褒められて悪くはないが、男としてはかっこいいと言われたいので複雑ではある。


「パーティーでいっぱいご飯を頬張ってるのとかリスみたいで可愛かった!」


「なんだか守ってあげたくなりますわね」


やたらと俺を可愛がるロリ系メイド。よし、あとで僕の寝室に来なさい。僕が可愛いだけじゃないってことを教えてあげよう。俺のゲイボルグでな!


でもお姉さんに守られる勇者ってちょっとなぁ……


俺は表情を強そうに見えるように試行錯誤してみた。はたから見れば、変顔をひとりでしているのと同じだ。


「えぇ……そう?全然可愛いくないけど?いかにも普通って感じ」


特徴なし系メイドのお前に言われたくないっ!


俺は拳を握りツッコミを堪える。


「まぁでも……勇者って言うぐらいだから、妻にしてもらえば地位的にもメイドなんてもうしなくて良くなるだろうし、むしろ王女とかよりも崇められるかもね。まぁだから玉の輿にはなるかも」


言いたい放題だなこいつ。よし、あとで僕の寝室に来なさい。勇者の強さってやつを教えてあげよう。俺のエクスキャリバーでな!



それからも勇者の話題で盛り上がること約30分以上。メイドたちはようやく浴場から出ていった。


「ふぅ……これで俺もようやく出れる」


「もう出ちゃうの?」


突然、背後から声をかけられる。


「え?」


振り向くと、白髪のパッツン前髪のロングヘアー美少女がいた。


瞳はブルーサファイアみたいに綺麗で整った顔立ち、胸はぶっちゃけ皆無だけどスレンダーな体格。可愛い日本人形の西洋Ver.みたいな少女だ。


全く気配を感じなかった。いったい、いつからいたんだろう.........


少女の裸体をまじまじと見てそんなことを考えていると、少女の顔が俺の顔の超近距離まで近ずき、俺の瞳を覗き込む。


「………………お姉様をよろしくね」


そうつぶやくと、少女はスタスタと出口に向かって歩み始める。


「とりあえず、魔王とケモ耳あとは幼女に気をつけて」


少女はその一言を最後に残すと、浴場から出て行ってしまった。




「………………いや、どういうこと?」




俺は風呂からあがると、用意された個室に向かう。


俺がドアを開くと、なかなか豪華な景色に出会う。


「まるで高級ホテルだな」


床は白い大理石、壁は石英か。部屋の家具は全て白をベースとして金色の彫刻の装飾が施されている。


俺は真っ白でふかふかのベッドに飛び込んだ。


「……あーふかふかぁ」


俺は仰向けになって、天井を見つめる。


そして、脳裏に焼きつけたあの絶景に思いを馳せようとしてみたが、あの白髪の少女が頭に残って集中できない。


お姉さんをよろしく、だとか。魔王だとかケモ耳だとか言ってたけど意味わからん。


俺に何を伝えたかったんだろう。あの不思議少女は。




まぁそれにしても……ツルツルだったなぁ…


今日も絶好調な浅田 世界なのだ。


俺は、白髪少女の美しい肢体をじっくり脳内鑑賞しようと思ったが、1日にいろんなことがありすぎたせいで疲れたのか、すぐに眠りの底についたのだった。



そして翌朝ーーー


朝食を済ませたあと、いきなり王様から応接間に呼び出された。


まさか.......いやいやそんなはずはない。


バレる要素なんかなかったはずだ。


きっと、娘と会えなくて禁断症状でも出たから助けてくれとかそんなことだろう。


頼む。そうであれ!



「それでは!勇者殿の実力を計らせていただく!」


おぉ〜と、雲行きが怪しくなってきたぞ〜


エラム王はメイドに薄紫色の水晶玉を持ってこさせる。


「これは魔力測定器だ。色の種類で魔法属性。濃さで魔力の強さを調べることができる。濃ければ濃いほど魔力は強い」


昨日とは別人のようにテキパキと話を進めるエラム王。


水晶玉に手をかざせと促され、かざす。


やれやれ仕方ない、俺の実力を見せてやるかな。


チーターである俺なら魔力があまりに強すぎて測定器が壊れる、なんてのがテンプレな展開だろうな。


俺に眠る魔力!目醒めの時だ!wake up!


「これは……」


エラム王、バラムさん、そしていつの間にかちゃっかり部屋に居座っているメイドたちが注視する。


「…………」


あれ?


「……勇者殿。まじめにやっておるか?」


あっれぇ。おっかしぃぞぉ?


俺が手をかざしても、水晶玉は何の反応も示さない。


俺はもう1度水晶玉に手をかざす。


「……………あっ、今日、朝ごはん残したから体調悪かったんだった」




魔力測定は体調が優れず今回は見送りということで、次は体力測定をさせられているのだが……


「剣、重っ!こんなの持てないよぉ!」


兵士との一本勝負が測定内容だったのだが……


こんな重たいもん振り回してんの!?


アホなの!?バカなの!?


はい、無理ぃ〜〜


「…………あっ、今日、5分寝坊したから体調が悪かったんだった」



体力測定も体調が優れず今回は見送りということで、次は筆記測定をさせられているのだが……


「んーと、マナの拡充二重魔法陣の限定使用方法?ファランクスの隊形?……意味わからん」


魔法学やら軍事学やらの筆記試験が測定内容だったのだが……


いやいや、勇者だからってこんな難しそうなこと知ってるとは限らねぇだろぉ!


わかるかぁッ!


「…………あっ、今日、タンスの角にこゆ」


「あなた、勇者じゃありませんね?」


バラムさんのメガネがキラリと光る。


「な、ななななななんのことかなぁ?」


思わず慌ててしまう俺。


「怪しいと思っていたのですよ。長らくこの職を賜ってから人を見る目には自信がありますが、あなたからは何も感じなかった。実力をテストして正解でしたね」


まさか最初から怪しまれていたとは........


何やってんだよ!このままじゃ今の俺は勇者じゃないってバレちまう!考えろこの危機を打破する策を!


「魔法も使えない。剣も使えない。魔法や軍事知識も無い……どう弁明するつもりです?」


.................


フッ


この際、仕方がない……必殺技を使うか。


疑ったこと、後悔させてやんよ!


行くぞ.......国王。謝罪の準備は十分か!


俺は、さっとエラム王の足にしがみつき上目遣いで見上げる。


「助けてちょ」


ニコニコ笑顔のエラム王。


「うむ……君はークビじゃ」


異世界召喚され2日目、俺はニセ勇者のレッテルを貼られ城から追放された。




「…………あぁぁぁ!クソ!」


あぁんのぉメイドどもぉ!俺が出ていくとき「ハズレ勇者」だの「迷子」だの好き勝手言いやがって!


それになんだよ!王様のヤツ!


何が「間違い召喚でした」だ!間違い電話みたいに言ってんじゃねぇよ!


勝手に呼び出しといて勝手に追放とかふざけんなよー。


こんな異世界ファンタジー俺は望んじゃいない。


俺は主人公が最初にどん底に落ちて下克上する系の異世界ファンタジーは、あまり好まない。


俺はラノベ主人公じゃないので、すでに心が折れている。


なぜかって?まずはここがどこだかわからないこと、そして、戦闘手段が無いこと。


城から追放された俺は、現在、岩石地帯らしき場所を無防備に歩いていた。


辺り一面を見渡すと、どこまでも乾いた大地が広がり、点々と大小様々な形の岩が置かれている。


「ナビゲーターがいるのが最高だけど……せめてマップぐらいくれよ」


俺は異世界転移したときと変わらず、ほとんど何も持たずに追い出された。


つーかそれ以前に、ヘルメスに文句を直接言ってやりたい。


まぁあいつのことだし、今頃どこかで俺が途方に暮れている様子を見て楽しんでるのかもな。


俺はパーカーや制服のズボンのポケットを手探る。


現在、俺が所持している物は……スマホぐらいか。


ロック画面の左上には圏外と表示される。

当たり前だが、大して使い物にはならないと。


とりあえず近くの街に行きたいよなー。この世界に関するくわしい情報が欲しい。


地理、文化、世情、法律、知りたいことは山ほどある。


すぐに追い出されたから王城ではあんまりくわしくは得られなかったんだよな。


せいぜい得られたのはヘルミア王国は大陸の東部に位置し、案の定、剣の軍勢【剣聖大同盟】に属しているということぐらいだ。


だが、大まかな地理情報ではなく、ここ近辺のことが記されたくわしい地理情報だがほしい。


それと何としても今すぐ知りたいのが、俺のスキルについてだ。


ヘルメスによると、食べた3つのリンゴにはそれぞれ違った効果があるらしく、俺は3つスキルを手に入れたらしい。


「ゲームみたいにステータスが見れるとかあればなぁ」


俺がボソッとぼやくと、突然、眼下に液晶画面が出現した。


「うおっ!!!」


俺はそれを見て、ある種の安堵と感動に胸が包まれる。


異世界召喚や転生モノのラノベによくあるアレ。

主人公にだけ見えるステータスとかが表示されてる液晶画面。


俺を阻んでいた壁を崩せる光明が差した瞬間だった。これがあれば、話は変わってくるかもしれないぞ。


これは……俺のスキルの1つなのか?


いや、他のサバイバーにも備えられている可能性はあるか。


俺は改めて液晶画面に目を通す。


ステータス、アイテムボックス、マップなどの項目がある。


指でスライドし、ステータスの項目をタップする。


Lvやらスキル、細かい身体能力について表示されていた。戦闘に主に関連しそうなステータスをまとめればこんな感じだろう。


ーステータスー


Lv 10

攻撃力 350

耐久力 270

スピード 420


スキル

【人理継承】【英雄化】



俺の戦闘能力が数値化されている。どんなもんか試しに近くにあった大岩を軽く殴ってみた。


「……しょ!」


大岩にメキメキとヒビが入る。


「こんなもんか……痛くないな」


俺の拳に異常は無い。以前の俺の身体能力ではこんな芸当ができるはずもない。むしろ俺の拳が粉々になる。


これが3つのリンゴのうちの1つの効果だろう。


リンゴを食べて身体能力がかなり高まっているみたいだ。英雄まで行かなくとも超人レベルにはなったのかもな。


そして気になるのが、Lvだな。


これが上がれば上がるほど俺の身体能力は強化されるシステムとかあるのだろうか。


だとしたら俺自身、英雄クラスの身体能力を得られるかもしれないな。


ちょっとワクワクしてきたぞ。


「そして……スキル【人理継承】と【英雄化】か」


【人理継承】のほうは俺がもともともってる異能力のことだと思われる。


【英雄化】のほうが、リンゴから得た能力だろう。


俺は試しにコールしてみる。


「スキル【英雄化】」


……何も起きない。ん?


俺はスキル【英雄化】をタップできることに気づく。


タップすると発動条件が明記された。


『強く願う』


「.........強く願うって」


アバウトすぎるだろ発動条件。


まぁいいや。


結局、スキルの詳細説明はなぜか載っていなかったが、発動の仕方がわかっただけでも前進としとくか。


一通りステータスを確認したあと、俺はアイテムボックスの項目を開いてみる。


4マス×4マスに区切られたマス目のアイテム収容枠があり、今のところどの枠にもアイテムらしきものは入っていない。


下にスクロールしていくと、今の俺そっくりの格好をしたアバターがいる。


装備アイテム枠というところに俺が手に持つスマホが表示されている。


これって外からアイテム入れたり逆に取り出したりできる感じか。


俺は装備アイテム枠からスマホをピックし、収容枠に移動させる。


案の定、俺が手に持ってたはずのスマホは一瞬で消え去る。


今度は装備枠に移動すると再び手元にスマホが現れる。


なるほど、これは便利だな。


アイテムをたくさん手に入れても、アイテムボックスに収納できるから手ぶらで歩けるというわけだ。


これ現実世界にあったら、絶対買い物に革命起きるだろ。



続いて、マップの項目をタップする。


マップには2種類あり、半径3km以内の範囲の地理情報をくわしく表示する「近辺マップ」と、表示される情報はくわしくないが、広大な範囲の情報を表示する「拡大マップ」の2つがあった。


拡大マップを見ると、俺が現在いるヘルミア王国は、【アテネ公国】【ロキ共和国】【ヘファイストス王国】の3つの大国に囲まれているのがわかる。


この国々と残りの東部の3ヶ国が【剣聖大同盟】という同盟を結んでいる。


さてと、まずは近くに街があるか調べるか。


俺が近辺マップを開こうとしていると、急に強い向かい風が俺を仰け反らせる。


俺は顔を腕で覆う。


「うおっ...とっと」


顔を上げると、遠い向かい側に誰かが立っていた。


誰だろう.......さっきあんなところに人いたか?


再び強風が吹き、砂塵が巻き上がる。


そして、向かい側を隠していた砂塵のベールが晴れると、その「誰か」は風のように消え去っていた。


すると.........


「ねぇ」


背後から女の子の澄みきった声が聞こえた。


俺は反射的に振り向くと、首元に剣先が突きつけられていた。



「あなたは.........何者なの?」

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