034:満月の夜に。
白いポーチを首にかけた黒い狼が、変わり果てた新宿の街を駆ける。
『ガウル、その魔石は食べていいよ』
『なに、いいのか? この魔石はかなりの大きさだぞ?』
『ふっふっふ。私はついに進化するのだ! 非常に気分いいからこれはガウルにあげる!』
『なんだとッ!? ユウナ進化するのかッ!! ……ま、また強くなるのか……いや、めでたいことか』
『今日は月が綺麗だしねー。こういう夜に進化するのってなんか良い気がする。だから、私の進化が終わるまでの間ガウルが守ってね』
『…………』
『ん? どうしたの?』
『い、いや……任されたぜぇ。進化中は無防備もいいところだからな、俺が死ぬ気で守ってやるよ』
『うん、よろしくね』
『あぁ』
ガウルの背に乗りユラユラと揺られながら、私はふと空を見上げる。
そこにあるのはまん丸のお月様。
こんなに大きくて綺麗な月を見たのは何気に初めてなんじゃないかとすら思う。
もしかしたら記憶にもないような子供時代に見てるのかもしれないけどね。
《ワタシも良い夜だと思います》
だよねつぐみさん。
《ですが、進化は自宅に戻るまでお待ちください》
りょーかい。
ちょっと今浮かれてるんだよね〜。
やっぱ進化ってワクワクしちゃうー。
……なんか私の精神年齢すっごい退行してないかな?
いつの間にかそういう呪いかけられたとかないよねさすがに…………ありそうで怖いから考えるのやめよ。
《近頃はユウナ自身強くなり、目に見えて脅威は少なくなりました。緩みすぎるのはよくありませんが……多少の心のゆとりは必要でしょう》
つぐみさんは相変わらず固いな〜。
考え方も言葉も。
ま、いいや。
進化はマイホームに帰ってからだけど、進化候補くらい見てもいいよね♪
ちょっと待てないや。
《秘匿条件『満月の夜に』を達成しました。特異進化候補の1つが解放されます》
……ん?
《上位進化のため、カルマ値及び属性が反映されます》
いや、あの……。
《進化先の候補が複数存在します。表示しますか?》
…………。
な、なにかが解放されて反映されたんですけど……。
《……ユウナは本当に運が良いのですね。ステータスにて数値化されていないのが残念です》
++++++++++
・バジラリザード【C+】:毒司蜥蜴。希少なバジラリザード種の成体。毒を司る最上位種の一種。非常に好戦的な個体が多く、毒魔法を操り、耐性次第ではかすり傷でさえ即死に繋がってしまうため、超一級危険種に数えられている。
・ダークサラマンダー【B】:精霊蜥蜴。希少なバジラリザード種の特異種。精霊の因子が強く現れ、炎魔法を操ることに非常に長けている。さらに闇魔法をも操り、極めて危険な種であるが、最も警戒しなければならないのはその知性の高さであるとされている。
・オルディーヌバジリスク【B】:邪石蜥蜴。希少なバジラリザード種の特異種。“魔眼”を司る数少ない魔物の一種であり、その最上位種の一種でもある。毒と石化の2つの魔眼を操り、魔力量で劣る場合はレジストすることが実質不可能であるとされているため、災害指定されている。
・ルナティア【B】:月光竜蜥。希少なバジラリザード種の特殊変異種。竜の因子が強く現れ、俊敏性、機動力、頑強性、いずれも非常に優れている。バジラ種の特殊毒とも相まって極めて危険な魔物の一種とされている。さらに、あらゆる属性魔法を無効化する月の魔力を内包し、纏っている。だが、それゆえに自身も属性魔法の全てが扱えない。
++++++++++
…………。
う、うーむ……。
あー、これは、えーっと……どれが秘匿条件達成による特異進化候補なんだろう。
いや、わかるよ。
たぶん『ルナティア』ってやつがそうなんでしょ。
なんか月っぽいし。
…………。
でも霞んでるんだよな〜。
他の選択肢も同じぐらい濃いからめっちゃ霞んでるんだよな〜ルナティア。
むしろここまでくると『バジラリザード』が可哀想だよねーなんか。
こいつもたぶん結構なエリートなはずなのよ、説明文を読む限りでは。
だが悲しいかな。
とんでもない化け物たちの中に混ぜられてしまい、完全に負けてしまってる……。
ごめんよ。
なんで私の進化先がこんなに凶悪化してるのかはわからないけど、君は選んであげられそうにない。
実質3択です、はい。
《素晴らしいですね、さすがユウナです》
うん、そうだよねつぐみさん。
これはいい事だ。
どれも凄く強そうだから、私の生存率がぐーんと上がる。
んー、さて。
どうしたものか。
いや、3択のうち1つは除外できるな。
除外するのは───『ダークサラマンダー』
精霊蜥蜴ってなんかめちゃくちゃ強そうなんだけど……被っちゃってるんだよね役割が。
闇魔法はガウルがいるからいらないし、炎魔法はいつか私が進化してそれなり身体が大きくなったら使おうと思っていた『魔剣レーヴァテイン』と被ってる。
今回どのくらい身体が大きくなるかは分からないけど、レーヴァテインには密かに期待しているんだよねー。
私は蜥蜴だけど、剣を咥えて戦えるようになったらすっごい強い気がするし。
バジラ種の特殊毒ってやつも剣に纏わせたらさらに凶悪。
モモカちゃんみたいなゴーレムっぽいやつ以外なら、簡単に殺せる。
……あー、また殺すことばっかり考えてる。
いかんいかん。
ん? そんなにいかんかな?
……ってことでダークサラマンダーはなし。
となると残るは───『オルディーヌバジリスク』と『ルナティア』だよね。
いやー迷う。
正直すっごい迷うわー。
魔眼って何?
超強そうなんですけどー。
でもいまいち魔眼ってのがなんなのかよくわかってないんだよね私。
《『魔眼』とは、視認することで対象者になんらかの影響を及ぼすことのできる特殊な魔力を内包した眼になります。ワタシとしましても、この能力は極めて強力だと思います》
……え、なにそれ。
反則すぎじゃない?
見るだけでってヤバいな。
しかも隠れるのが得意な私とはめちゃくちゃ相性良いじゃん。
隠れてチラ見すればいいだけなんだから。
気になるのは『レジスト』ってやつだけど、これもたぶん隠れてチラ見されたらできない気がする。
ヤバすぎ。
毒はバジラ種の特殊毒だし、石化ってのもたぶんめっちゃ凶悪そう。
ってかそんな状態異常あったんだ。
こわー、石にされるとか半端ないわー。
耐性もないし、食らったら終わってたくない私?
……久しぶりにゾッとしたわ。
改めてこの東京という名の地獄の恐ろしさを思い知った。
やっぱり全然油断できんわ。
どんなに強くなっても死ぬ時は一瞬だよ。
だけど、それは逆に考えればそんな超級にヤバい攻撃手段を私は手に入れられるということ。
あれ? すごく良くないかな『オルディーヌバジリスク』
んー、迷う。
さてどうしたものか。
満月の夜。
月明かりに照らされ、生物の気配がほとんどない大通りを走るガウルの背で、冷たい夜風を感じながら私は考える。
───全ては生き残る為に。
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