033:蜥蜴と狼と精神寄生生命体。


『クッ、今日もまたこの時間がきちまった……朝から憂鬱だぜぇ……』


『うん、私はもう慣れたけどね……慣れてしまってる自分が嫌だけど……』


『ユウナ、お前こんなことをずっとやってたのかよ……どおりで強いわけだぜぇ。……こんなこと言いたかねぇがよぉ……つぐみはやべぇって……あれはもう病気だぜ……』


『……まったくもって否定できない……』


 ガウルを眷属にしてから三日目の朝。

 時刻は午前8時。

 場所は例のごとく私のアパートの屋上。

 周辺に魔物の気配はなし。

 いるのは蜥蜴と狼だけ。


 私とガウルが狩りまくったせいで、この辺りの魔物の数が目に見えて少なくなってきてる。

 ガウルのおかげで遠くにも行けるようになったし、そろそろ狩り場を変えるのもアリかな〜マイホームを出るのは寂しいけど、とか思っていると……無慈悲な声が私とガウルに響く。


 《お二方、無駄口はそれくらいにしてください。さあ、早く飛び降りてください》


 つぐみさん。

 願わくば、私は“飛び降りてください”なんてとんでもワードを言われずに一生を終えたかったです。

 でもそんな“普通”は、私の人生からはとっくになくなっているんですね。

 ……いや、うん。

 そもそもけっこう前に人生は終わって、蜥蜴生が始まっちゃってるわけだけど……。

 

『ガウル……』


『いくか……ユウナ』


『うん、いつも通りせーので』


『あぁ、オレの覚悟はできてるぜ。いつでもこいやッ!!』


『おっけいッ!! じゃあいくよッ!! せーのッ!!』

 

 蜥蜴と狼が空を舞う。


 そして───


『『ぬわあああああああ───グハッ』』


 ───落下する。


 イテテ。

 …………。

 チッ……なんの通知もない。

 あー私の方はまだダメかー。

 しゃーない。

 ガウルの方は……。


『やっ……やったぜユウナッ!! ついに〈打撃耐性〉がLv.4になったッ!!』


『おぉ〜!! おめでとうガウル!!』


 《まだまだ先は遠いですね。最低でもユウナと同じLv.7になってもらわなくては》


『あ、あぁ……そんだよなぁ……。ユウナにはまだ遠いぜぇ……』


『もう!! こういう時はまず褒めなきゃダメでしょつぐみさんっ!!』


 《…………》


『つぐみさん……はぁ……』


 《次の訓練に移りましょう。朝のメニューはまだ1割も終わっていません》


『おい……』

 

 ───こんな感じで、朝の訓練から私たちの1日は始まります。

 これまでと違うのは、つぐみさんの被害者が増えたことでしょうか。

 えぇ、ガウルのことです。

 ガウルが加わったことでさらに訓練のバリエーションが増えて大変です。

 私にとって1番キツいのは、〈闇属性耐性〉のレベルを上げるためにガウルの〈闇のブレス〉をひたすら耐える……というマゾな訓練です。

 

 まあ、ガウルにも私が生成したいろんな毒を飲んでは〈解毒牙〉で癒す……をひたすら繰り返すという鬼畜すぎる訓練があるのですが……。

 つぐみさんまじ容赦ねぇっす。

 私の状態異常系スキルのレベル上げにもなるから効率的です……という相変わらずの効率厨っぷり。


 えっと、つまりガウルが加わって毎日がより一層濃くなったってこと。

 めちゃくちゃ大変。

 

 ……だけどなんでかな。

 私はそれほど嫌じゃない。

 蜥蜴も悪くないなぁ、とか思ったり思わなかったり。

 確かに、会社に行って帰って寝るってのが日常だったあの頃よりは、魔物や人間を狩って生きるこっちの方が私に合ってるのかもねー。

 私は今生きてるッ!! って感じがある。

 

 …………。


 うん、私も十分ヤバいな。



 ++++++++++



『『ふぅー』』


 疲れたー。

 私とガウルは朝の訓練を終え、部屋の中に戻って休憩中。

 ガウルの〈肉体変化〉ってスキルはすごく便利。

 あんなに大きなガウルが今は子犬サイズなんだから。

 カッコイイからカワイイに大変身。


 《お疲れ様です》


 うん、お疲れ様〜。


『ユウナ、魔石食べていいか? 腹減っちまった』


『もちろん。冷蔵庫で冷やしてるやつあるから持ってきて〜。私も食べたい』


『うい〜』


 ガウルはトコトコと歩いていく。

 そしてぴょんと跳び上がり、食器ラックから器用に皿を1枚咥えて床に置く。

 それから口を使って冷蔵庫の引き出しを開けて、いくつか魔石を取り、皿にのせて持って来る。

 うん、教えたらすぐできるようになる。

 賢くてとってもいい子。


 ガウルは私の元まで来たら皿を置き、律儀にお座りした。

 これは私の躾の賜物。


『く、食っていいか? 我慢できねぇよ……』


『待て』


『……うぅ…………ま、まだかよ……』


『……よしっ!!』


『……っ!』


 パクパクとガウルは魔石を食べ始めた。

 そしてあっという間にペロリと半分平らげる。

 こんな遊びにも付き合ってくれるガウル大好き。

 根がいい子なんだよな〜。


 《ユウナ……少しいいですか?》


 私もパクパクと魔石を食べ始める。

 あーやっぱ冷やした方が美味しいわ〜。

 

 ん? どうしたつぐみさん。

 

 《やはりガウルには閉ざされた記憶があります。ここ数日いろいろ試しているのですが……》


 いいよつぐみさん。

 焦らなくて。

 ゆっくりやっていこ。


 《……はい、申し訳ないです》


 めちゃくちゃチートで効率厨で、それなのにどこまでも謙虚なつぐみさんも私は大好きです。


 でも気になるね。

 ガウルは賢いけど元人間ってわけじゃない。

 純粋な魔物。

 大型アップデートとやらで突然現れた純粋な魔物が、どこから来たのかってことがガウルの記憶から分かるとつぐみさんに言われた。

 

 だから私も楽しみにしてたんだけど……実際は見れなかったらしい。


 記憶が無いんじゃなくて、見れない。

 

 ……こんなことができる『黒幕』はやっぱ気になる。


 《ワタシもこんなことは初めてです》


 そうだよね〜。

 でもつぐみさんが無理ならさ、今のところどうしようもないよ。


 《…………》


 いや違う違う。

 責めてるんじゃないよ?

 ただ気にしても仕方ないよねーってこと。

 たぶんその黒幕が私たちを殺そうと思ってるなら、もうとっくに死んでるよ。


 《……そうですね。認めたくありませんが》


 でもそうじゃない。

 何か目的があるんじゃないかな?

 

 《はい、ワタシもそう思います》


 だよね。

 その目的が何かは分からなけど……まぁ、とりあえずは生き残ることだけを考えてればいいんじゃない?

 そこまで根を詰めなくてもさ。

 つぐみさんは頑張りすぎるとこあるから少し心配。


 《ワタシは疲労しません》


 本当にそう?


 《……どういう意味でしょう?》


 私はとあるアニメでつぐみさんに似てるキャラを知ってるよ。

 その子も人間じゃなくて、かぎりなく完璧に近い生命体なの。

 だけどその子は自分さえ気づかないうちに疲労とかストレスとか溜め込んじゃってて、それが原因でまさかの世界を改変しちゃうんだよ。

 あれは衝撃だった……思い出したらもっかい見たくなってきたな。


 《……あぁ見つけました。この記憶ですね。……興味深いです》


 でしょ〜。

 だからつぐみさんも気をつけてね。

 時々は力抜いてよ。


 《ユウナがそう言うなら……わかりました》


 うん、私からのお願いというか命令だから。

 守って。


 《はい。……ありがとうございます》

 

 うん。


『おい、またお前らは難しい話してんなぁ〜。顔見りゃ分かるぞ』


 ガウルが話しかけてきた。

 そうだね、もう私とつぐみさんじゃないんだ。


『ごめんねーガウル。寂しかったでしょ〜』


『は、はぁ!? そんなんあるわけねぇーし、ふざけんな』


『わかったわかった。じゃあお詫びにお腹わしゃわしゃしてあげようか?』


『え……い、いらねぇーしそんなん……』


 くっくっく。

 可愛いやつめ。

 ガウルが好きなことなんてこの3日でほぼ完璧に把握してるんだよ私は。


『もう仕方ないな〜。私がやりたいからちょっとわしゃわしゃしていい?』


『……それならしゃーねぇな。オレはユウナの眷属だから……逆らえねぇしよぉ……』


 ゴロンと仰向けになるガウル。

 前足をちょこんと折りたたんでる。

 きゃー、その待ち遠しそうな目がたまらない。

 普段は怖い狼ってギャップもグッドすぎる。

 もう我慢できないっ!


 ぴょんと私はガウルのお腹に飛び乗った。


 そして響く『ニャハハハハ』という声。


 改めて私は、今の日常の方が好きだなと思いました。



 ++++++++++



 ───その日の夜の狩り。


 『イエルー・アンダルン』とかいう少し強めの猿っぽい魔物をガウルと連携して仕留めた時───


 《レベルが一定値に達したため進化が可能です》


 やっとこれがきた。

 待ちわびたよ。

 ワクワク。




※現在、諸事情により執筆活動を休止しております。詳しくは活動報告の方をご覧いただければと思います。ですが、必ず再開します。少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマしてお待ちいただけると幸いです。

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