029:夜空を焦がす大炎、そして報復。


 《聴いてください、ユウナ。また新たな仮説を思いつきました》


 はいはい、次はなにー。

 

 《現在ユウナたちは、なんらかの巨大な『システム』に組み込まれていると考えるのはどうでしょう。それこそユウナの記憶にある『ゲーム』のようなシステムです。スキルやレベルといった今までユウナたちの世界に無かった概念は、それによってもたらされるものだったのです。しかし、ユウナたちだけでは生物の特性上システムに組み込むことが困難だった。ゆえにワタシのような精神寄生生命体が連れてこられ、ユウナたちとシステムを繋ぐ『媒体』にさせられたのです。そう考えると、ワタシに時折送られてくる絶対に逆らえない『命令』の説明もつきます。今までワタシが『命令』だと思っていたものは、システムから送られてくる『通知』だったのです。これなら全ての辻褄が合います。この仮説、どうでしょう?》


 …………。


 ……うん、クソどうでもいいです。

 そして長い、あまりにも長いよつぐみさん。

 もう何個目かわらないよー、つぐみさんの仮説シリーズ。


 《ユウナ、いずれ解明しなくてはならないことですよ。もう少し関心を持ってください》


 そうだねー。

 ほんとそのとおりだねー。

 でも私そういう頭つかうこと苦手なんで。

 

 《戦闘の際、ユウナの思考は恐ろしい速度で流れていきます。決して苦手ということはないと思いますが》


 …………。


 なんか悪意ない?


 《ありません》


 ほんと?


 《はい。むしろ褒めています》


 う、うそつけぇぇええ!

 ぜったいイジってるだろ私をっ!


 《イジってません》


 イジってませんって……意味わかるんかい……。

 

 はぁ……。


 とりあえずこの話は終わり!

 つぐみさんはさっきから難しいこと考えすぎ!

 今考えても絶対答えでないよ!


 《……………分かりました》


 露骨に不満そうー。

 返事するまでにすーごい間があったんですけど。

 ……まぁ、つぐみさんが正論言ってんのは分かるんだけどね。

 でも……トカゲになっちゃったことに割と諦めがつきつつある自分がいるんです。

 人間に戻りたいっ! けど……そんなこと考えてたらすぐ死んじゃうんじゃないかなって……。

 

 だから───


 《嘘ですね。ユウナは今の状況を楽しんでいる一面があります。なぜなら、これまで味わえなかったスリルを───》


 ───ぬわあああああああッ!!


 やめなさいよつぐみさん!!

 いい加減怒るよ!!

 そ、そんなことあるわけないじゃんかッ!!

 

 《…………》


 つぐみさんと脳内でこんな感じの会話をしながら、私はテクテクと草むらを進んでいく。

 魔物の反応が密集してる場所に向かって。

 さっきドロップした魔法のポーチをずっと咥えてるから顎しんどいわー、とか思いつつ。

 

 コ、コホンっ。


 この話はこれ以上したくないので、話題を変えよう。


 つぐみさん、私たちが向かってるのって多分『お寺』だよね?


 《はい。どうやらそこを根城にしているようですね》


 私の視界の端には立体的な地図がある。

 見たい、と思うと大きくなる。

 便利すぎ。


 その地図によると、どうやら目的地はお寺? 神社? って感じのところ。

 〈流星豪撃〉の反動で身体がまだちょっとしんどいからゆっくり向かってるんだけど……今回はどうやって殺そうかな?


 やっぱ忍び込んでブレス系スキルのブッパが安定かな?

 でも今回は狼の魔物っぽいってつぐみさん言ってたしなー。

 やっぱ鼻が利きそう。

 だったらちょっとめんどいけど───


 《───ユウナ、思考中に申し訳ありません。〈索敵地図〉を確認してください》


 うん、了解。


 ちょっと楽しくなってきたときに、つぐみさんの声が聴こえた。

 でもこれはマジのやつだ。

 だから言われるがままに私は視界に浮かぶ地図を見る。


 ──ん?


 目的地のお寺に5つの新しい反応がある。


 これは……。


 《恐らく人間です。どうしますか?》


 へー、人間か。

 どうしよ。

 これたぶん狼たちと戦闘になるよね。

 いやもうなってる?

 んー、どうしよ。

 漁夫の利ってやつを狙おうかな。

 

 そんなことを考えていると、唐突に反応が3つ減った。

 減ったのは狼の方。

 はい? 早くね?

 何が起きたんだよ。


 だけど、その答えはすぐにわかった。


 ふと空を見上げると、天高く立ち上る黒い煙と揺らめく赤い光が見えたから。


 その煙と赤い光は───明らかに『炎』によるものだった。


 うわー、火事やー。


 お寺に火つけたよ。


 容赦ねー。


 

 ++++++++++



「アハハハハっ! アッキーの考えた作戦完璧だねーっ! 〈結界魔法〉と〈炎魔法〉だっけ? マジ最強じゃんっ!」


「ははっ、僕は〈結界魔法〉しか使えないよ。〈炎魔法〉を使えるナナカさんがいてくれて、本当に助かりました」


「いえいえ、こちらとしても助かります。怖い魔物をまた一匹、排除できるのですから」


「おいお前ら! まだ終わってねぇぞ! 中にいるモンスターは強敵なんだ! 最後まで気を抜くんじゃねぇよ!」


 外から人間共の声が聴こえる。

 状況は最悪だ。

 クソがッ!!

 人間共、絶対許さねぇからなぁ。


「ガウガウッ!!」


 やっぱ破れねぇか。

 この煙のせいか?

 ほとんどの奴が本領を発揮できてねぇ。

 そうこうしてるうちに炎と煙が蔓延していく。

 しかもよく分からん見えない壁に囲まれていて、外に出ることもできやしねぇ。

 ちくしょうがッ!!

 オレのせいだ。

 人間共の気配にまったく気づかなかった。


「ガゥ……ガ……」

 

 また1匹。

 仲間が倒れていく。


 ちくしょうまだかッ!!

 

 もうちょっとだ……もうちょっと……よしッ!!


 オレは凝縮した魔力を一気に解き放ち、1つのスキルを発動させる。



 ───〈闇のブレス〉

 


 最大出力のオレのブレスが見えない壁と激突し、そして突き破った。


「グワァァァアアアアアアアアッ!!!!」


「アッキーッ!?」


 ククッ。

 どうやらオレのブレスが人間の一人にぶち当たったらしい。

 ざまぁみやがれ。

 

 これだけじゃすまさねぇぞテメェら。

 オレは“巣”から出て、人間共を見下ろす。


 そして───


「ガルアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 怒りを吐き出すように全力で吼えた。


「ひっ……」


「あぁ……あぁ……」


「し、失敗した……そんな……」


 一人も生きて帰れると思うなよ人間共。


 皆殺しだ。

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