028:運は良いけどトカゲなんだよなぁ……。
やべー。
全身超筋肉痛なんですけどー。
足取り超重いんですけどー。
え、なんで。
昼間試したときはこんな痛くならなかったのに。
《昼間の検証では多少動きを確かめた程度ですからね。今回はその比ではありませんでしたので、妥当な反動でしょう》
まじか。
〈獰猛狂化〉の反動ってこんなヤバいんか。
使い所難しいー。
これは切り札かな。
〈獰猛狂化〉使って仕留められなかったら、多分終わりだな、この反動では。
《訓練次第で反動も軽減されるでしょう。これから頑張りましょうね、ユウナ》
……憂鬱にするのやめてくれる? つぐみさん。
まあ確かに、〈獰猛狂化〉を自在に扱えたらマジ強いから頑張るしかないけど……。
これはつぐみさんだけじゃ無理だよねー。
私が身体動かして慣れるしかない。
ただ真っ直ぐ走るだけでもキツいのにさー、自在に動けるようになれるんかね本当に。
不安しかないよ。
そういえば……私はただ思いっきりタックルしただけなのにスキル認定されたんだよねぇ……。
───《流星豪撃》
……いや、流星じゃないです。
トカゲです。
トカゲタックルとかでいいです。
スキル名が壮大すぎる……。
そんなことを考えながら、私はトコトコと歩く。
向かう先はモモカちゃんが居た場所。
結構綺麗で大きい蒼い魔石。
あの大蛇ほどじゃないけど。
……あと、それだけじゃなくて───クリスタルがある。
黄色、というよりは金色って感じ。
魔石と同じくらいの大きさのクリスタル。
こ、これが例の……。
《はい、ドロップアイテムです。先程報告したのですが、無視されました》
……え、つぐみさん拗ねてるの?
《拗ねてません》
最近どんどん人間味が出てきてるよ。
ごめんね、つぐみさん。
でもさっきはなんか視線感じてさ。
無視できなかったのよ。
《視線、ですか? 〈索敵地図〉には反応ありませんでしたが》
気のせいかもだけどね。
もしかしたら、あの大蛇みたいに隠密能力に優れた奴かもしれなかったから。
《それは……。感知系スキルのレベル上げを急ぎます》
いや、無理しなくていいからね!
つぐみさんは今でもすごく頑張ってくれてるし。
無理のないペースでいこうよ。
《それではいけません。ユウナたちの世界には『後悔先に立たず』という言葉があります。素晴らしい戒めの言葉だと思います。ワタシにやれることは全てやります。後悔したくありませんので》
う、うん……りょうかい。
一緒に頑張ろうね。
《はい。頑張りましょう、ユウナ》
…………。
相変わらずつぐみさんが自分に厳しすぎる。
まぁ、多分私も見習うべきなんだろうね。
こんな世界だし。
死にたくないし。
…………。
いや、うん。
とりあえずクリスタルに触ってみますか。
何気私は初めてだし。
恐る恐る前脚を伸ばして、爪の先がほんの少しだけ触れた。
すると、クリスタルは呼応するように淡く発光した。
そしてそこに現れたのは───『ショルダーポーチ』だった。
色は白で、細いストラップの付いた少し大きめのポーチ。
多分女性用……かな?
え、ていうか普通に私好みなんですけど。
変にゴワゴワしてなくてシンプルで、やたら女の子感があるってわけでもない。
あれー、めっちゃいいじゃん。
オシャレ。
…………。
私がトカゲじゃなかったらなッ!!
持てねぇよこんなんッ!!
このトカゲボディでどう持てと?
ズルズル引きずるか咥えるしかねぇじゃんかッ!!
───だけど、多分これまた大当たりだ。
『マジックポーチ:魔法により空間が拡張されたポーチ。収納できる大きさの物体であれば重量を無視して持ち運ぶことが可能。生物は収納不可。時間停止機能付き。容量:15000L』
す、すごい……。
なんだこのファンタジーなポーチは。
これはあれかな。
4次元ポ○ットのポーチ版なのかな。
しかもなに時間停止機能って……。
容量15000Lとは……。
大きすぎて逆によくわからんよ……。
《やりましたねユウナ。魔剣レーヴァテインに続き、素晴らしい運の良さです》
……あ、うん。
そうだよね。
これやっぱすごいことだよね……。
…………。
…………。
でもトカゲなんだよなぁ……。
とりあえず魔石食べよ。
ガリガリ、ボリボリ。
ガリガリ、ボリボリ。
あぁ、まろやか。
相変わらず美味しい。
魔石って色によって味が違うねー。
《各種能力値が上昇しました》
…………。
はい、現実逃避終わり。
私はポーチを咥えてトボトボと草むらへ向かった。
い、いらねぇ……。
いらなすぎるこれ……。
《ユウナ、そうでもないかもしれません》
……え?
どういうことつぐみさん?
こんなん持ってても邪魔なだけだよ?
目立つし、動きにくいし。
《ここより257m先に、魔物が密集している場所があります。ユウナの視界に地図を表示します》
私の視界に街の立体的な地図が現れた。
もう別に驚くことじゃない。
あ、ここか。
確かに赤い点がめっちゃ集まってる所があるね。
何匹? 20匹くらい?
《18匹です。反応からして『シャドウ・ウルフ』だと思われますが、僅かに違います。同じ系統の亜種かもしれません。大きな反応が1、やや大きな反応が5、小さな反応が8、微小な反応が4。このことから推察するに、恐らく“群れ”でしょう》
……あぁ、なるほど。
つぐみさんの言いたいことが分かったよ。
《はい。そのポーチがあれば、魔石を全て回収することができます》
うんうん。
やっぱ滅ぼせってことね。
少し危険かもだけど───これは大量経験値獲得のチャンスだわ。
《その通りです、ユウナ》
…………。
やべー、大量に殺せたらめっちゃ効率的じゃんとか思っちゃったー。
つぐみさんみたいになってる。
でもいいや。
体力も回復してきたし。
もう一狩り行きますか。
まだ夜は長いもんね。
そして私は草むらをゆっくりと歩き出した。
次なる獲物を求めて。
++++++++++
この決断が『支配する者』としての第一歩となることを、私はまだ知らない。
そして───同時刻の某所にて、残忍非道な虐殺が行われようとしていることもまた、私は知らないのであった。
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