027:流星豪撃。
───〈獰猛狂化〉
このスキル、めちゃくちゃ強力です。
マジ半端ないです。
なんかよく分からないからという理由で放置してた過去の私をぶん殴りたいです。
《ワタシも検証が遅れ、申し訳ありません》
いやいや、え?
なんでつぐみさんが謝るの?
《……いえ、これはワタシの担当だと思いまして》
もう、つぐみさんは責任感強すぎ。
もっと気楽でいいんだよ。
大事なのはメリハリだって、偉い人が言ってた気がしないでもない。
《……解りました》
うん、わかればよし。
とりあえず、今はモモカちゃんをぶちのめすことだけに集中しよう。
私はゴーレムなモモカちゃんと距離をとる。
こちらに気づく様子はない。
感知系のスキルを持っていないのか、それとも持っているけど私を捉えられないのか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
十分な距離とる。
だいたい20mくらいかな。
これでよし。
モモカちゃんは呑気にガリガリと魔石を食べてる。
やっぱ気づいてないね。
ふぅーと息を吐き、意識を集中し、私はスキルを発動させる。
───〈獰猛狂化〉
「グガァ゛ァ゛……」
心が黒く染まっていく。
思考の一部が剥離するような奇妙な感覚。
視界も若干霞んできた。
意識がどんどん薄められていき、理性が何かに塗りつぶされていくのがわかる。
このスキルを初めて発動したときは本当に怖かった。
自分が自分で無くなってしまうような気がして。
心底安心できるあの声を聴くまでは────
《───大丈夫です、ユウナ》
剥離しかけた意識と理性が少しずつ戻ってくる。
つぐみさんのおかげで。
ハァ……ハァ……。
やっぱヤバいねこのスキル。
つぐみさんがいないと本当クソスキルだったよ。
《ユウナとワタシは最高の相性なのです》
はは、なんじゃそりゃ。
否定はしないけど。
つぐみさんは最高の相棒だよ。
『獰猛狂化:理性と引き換えに攻撃力と素早さを共に1.5倍にする。身体への反動有り』
ぶっ壊れスキルである。
理性と引き換えに手にすることができる圧倒的暴力。
ただ、その制約はあまりにも大きい。
なのに……私の場合は、つぐみさんがいるおかげで理性を失うことなく使える───まさしくチートである。
だけど、それ以外の制約はちゃんとある。
昼間の検証で分かったんだけど、これ身体への反動が半端じゃない。
私がこのスキルを発動して活動できるのは、ギリギリ25秒。
つぐみさんがスキル〈自己再生〉を並立で発動させてくれて、本当に限界の時間がそれ。
つまり、私だけだったらもっと短い時間でしか使えないってことだね。
私、そんな何重にもスキルを同時発動するなんてできないから、やっぱつぐみさんの存在は大きすぎる。
このチートスキルが霞むくらいチートだよ、つぐみさんは。
《ありがとうございます、ユウナ。とても嬉しいです》
へぇ、嬉しいんだ。
やっぱつぐみさん変わってきてるね。
《……はい》
あはは。
いい事だよきっと。
…………。
あの、ちなみにさ……この限界時間以上にこのスキルを使うと……どうなるのかな?
《肉体が負荷に耐え切れず、内部から破壊されるのではないでしょうか?》
うん、急に怖くなってきた。
《大丈夫です。ワタシが管理しますので》
なら安心だね。
信頼してるよつぐみさん。
さて、じゃあやりますか。
あまりモタモタしてもいられないし。
深呼吸をひとつ。
集中しよう。
殺るなら一瞬で。
もう一度深呼吸。
そして───
───地面を蹴る。
ガリッとアスファルトが削れたのがわかる。
それだけの衝撃なのも納得。
だって私、今めちゃくちゃ速いから。
正直、速すぎてまだ制御しきれない。
身体能力が急激に向上しすぎ。
でも、問題ない。
だって直線だから。
曲がったり止まったりする必要ない。
ただ思いっきり前に向かって進めばいい。
それとずっと考えてた。
私の素早さを攻撃力に変換できないかなーって。
スキル《獰猛狂化》による、圧倒的加速からのタックルってそのひとつの答えなんじゃないかなと思うのですよ。
───どんどん加速していく。
───景色が高速で流れていく。
モモカちゃんとの距離が急激になくなっていく。
だけど、モモカちゃんは未だにこちらを振り向かない。
そうそう、これって私の隠密能力の高さとも相性がいいんだよねー。
相手の死角から思いっきりタックル。
うむ、相変わらず性格最悪だな。
だけどなんでだろ……すげー楽しい。
私は地面を再び蹴る。
そして勢いそのままに飛び上がり、空中で尻尾を咥えて丸くなる。
意図せず高速で回転しちゃったけど別にいいや。
ちょっと目が回るけどたぶん大丈夫。
モモカちゃんの胸にちゃんと当たる。
だけど───モモカちゃんの肩がピクっと動いた。
そして不意に振り向き、胸の前で腕をクロスさせて身構える。
ただ、その表情は驚愕に染まってる。
土人形だから分かりにくいけど。
でも凄い。
気づいた。
じゃあ、勝負だ。
正真正銘、今の私の最大火力。
私とモモカちゃんの腕が接触する。
容易く土の腕を貫く。
モモカちゃんの土の腕が、ボロボロになって崩れ、弾け飛ぶ。
そして、弾丸のような私の勢いはまだ死んでない。
そのままモモカちゃんの胸にぶつかり、またもや容易く貫いた。
感触があった。
うぇーい。
……あ、このあとのこと考えてなかった。
モモカちゃんを貫き、私は───地面と激突して転がる。
地面とぶつかるのは痛かったけど、屋上からベランダに何度も飛び降りた私にとってはなんてことない。
このくらい慣れてる。
そのまま10mくらい転がり、勢いがおさまってきたところで尻尾を放した。
そしてカッコよく止まる───ことはできずに少し無様にコロコロ転がってから止まった。
チラッとモモカちゃんを見る。
口をパクパクさせ、胸にぽっかりと穴が空いていた。
わ、我ながら凄い威力だ……。
「キ……キサ……マ……………………」
なんか言ってる。
でもモモカちゃんは言い終わる前にパタりと倒れ、そのまま魔石へと変わった。
《ユウナ、スキル〈獰猛狂化〉を解除しますね》
あ、そうだった……ね。
身体に反動がきてだいぶキツい。
つぐみさんに任せてれば大丈夫か。
うん、ちょっと休もう。
《ユウナ、ドロップ───》
……ん?
つぐみさんがなんか言ってたけど、視線を感じて私は振り向いた。
無視できなかった。
でも、そこには何もいない。
気のせい……かな?
まあ、いいか。
だー、もううるさい。
つぐみさんがいろいろ読み上げてる。
やっとレベルが上がったっぽい。
最近急にレベル上がりにくくなったから嬉しい。
後で確認しよ、今はとりあえず草むらで早く休みたい。
《新たにスキル〈流星豪撃〉を獲得しました》
疲れてたけど、それだけはハッキリと聴こえた。
……人の技に、勝手に変な名前つけるなよ。
++++++++++
『スバラシイ……』
戦闘の一部始終を見守っていたその存在は、感嘆の声を漏らした。
偶然にもこの場に居合わせた幸運に感謝してもしきれない。
なぜなら、あの小さき魔物から“覇道を歩む者”の気配を色濃く感じたのだ。
『見極メネバナラナイナ』
相応しいのかどうかを。
支配者に相応しいのかどうかを。
『フフ……』
その存在は喜悦の笑みを浮かべながら、夜の闇へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます