026:ゴーレムなモモカちゃんが天敵すぎる。


 夜になりました。

 夜の魔物狩りの時間です。

 月がとても綺麗。

 もうすぐ満月だなーとか思ったり。


 現在、私のアパートの前を走る道路を北上中。

 毒草を食べながら。

 牙と爪から色んな毒を垂れ流しながら。


 この道路を南下したら大蛇と戦ったコンビニとか駅がある。

 だから、なんだかんだこの方向に向かうのはトカゲになってから初めてかも。

 昼間の狩りもコンビニ付近でしたしね。

 

 それとさ、ちょっとずつ『よく出る魔物』みたいなのも分かってきた。

 《索敵地図》が便利なおかげで。

 1度出会った魔物の反応ってわかるのよね、すげー。

 

 よく出る魔物1位はキモい緑色の小人───ゴブリン。

 だいたい3〜5人くらいで行動してて、建物の中に隠れてたり、普通に道路を歩いてたりする。

 頭はあんま良くない。

 カモ。

 

 よく出る魔物2位は犬人間───コボルト。

 コイツらもだいたい2人以上で行動してる。

 こいつらはゴブリンよりは賢そう。

 槍とか弓とか持ってたりするし。

 たぶん役割を分担してる。

 人間を狩っているのも見た。

 でもカモ。

 アキレス腱をザクっといけば終わり。


 あとはシャドウ・ウルフかなー、割とよく見るし。

 これってこの辺りだけなのかね?

 例えば『渋谷』とかには、別の魔物が蔓延ってたりするんかね?

 まあ、今のところ行く気はないけど。

 昨日のノブオみたいなのが居るとか怖すぎだし。


 しばらくは新宿を拠点にレベル上げしよ。

 それが1番生存率高そう。

 ってか、いつ進化くんの?

 密かに楽しみにしてんのに。

 つぐみさんわかる?


 《申し訳ありません、ユウナ。その情報はありません》


 そっかー。

 なら仕方ないね。

 ひたすらレベル上げしよう。

 それしかない。

 レベル上げは嫌いじゃないのよね私。

 魔物を狩るのって割と楽しいし。

 

 《……割と》

 

 ……なに、つぐみさん?

 

 《いえ、なにもありません》


 良かった。

 つぐみさんとはこれからも相棒として上手くやっていけそうだよ。


 《…………》


 というか、最近は元人間な魔物見ないね。

 みんな隠れてるのかな。

 

 ……なんて思ってた時。


 久しぶりの元人間な魔物を見つけた。

 私はコソコソ草むらを移動して近づく。

 

『モモカ クレイ・ゴーレム Lv.9』

『状態:正常 HP:462/462 MP:0/0』


 身長170cmくらい。

 モデルじゃね? って思えるほどスタイル良くて美人な…………土人形。

 なんだろう、超一流の芸術家が作り上げた最高傑作って感じ。


 うわー。

 私の知ってるゴーレムと全然違う。

 もっとゴツゴツしてるもんじゃないのゴーレムって。

 めちゃくちゃスレンダーなんですけど。

 というか、完全に人間をそのまま土人形にしたって感じだよねあれ。


 ちなみに、ゴーレムなモモカちゃんは今3匹のゴブリンに囲まれてる。


 《ユウナ、危険です》


 わかってるよつぐみさん。

 どんな風に戦うのかちょっと見るだけだから。


 《ユウナは好戦的なので不安です》

 

 ……そ、そんなことないよっ!

 さすがの私もそこまで野蛮じゃない……うん。


 ───《急所感知》


 ふーん、『胸』の奥か。

 核みたいのがあるっぽいね。


 《戦おうとしてますよね》


 してません!

 一応だよ一応っ!

 何があるか分からないから備えてるのっ!

 それにさぁ、アレはたぶん私の天敵だよ?

 毒の類一切効かなさそうだし。

 そんな奴に無策で挑むほど私も命知らずじゃないよ。


 《…………》


 信じてよつぐみさん。

 ほら、そろそろ動くっぽい。


「ギシシ」


「ギグシ」


「ギィギィ?」


「…………」


 ゴーレムは喋れないんかね?

 

 ただ、その動きはめちゃくちゃ洗練されてた。

 

 モモカちゃんは静かに半身になり、腰を落として構えた。

 

 うわー。

 なんか明らかに武術の心得がありそうなんですけど。

 何あれ、空手かな?


「ギィギィギィッ!!」


「ギシシ」


「ギググギッ!」


 ゴブリンが一斉に飛びかかる。


 モモカちゃんはまず正面の奴に正拳突き。

 物が潰れるグチャッという音とともに、ゴブリンの頭が面白いように吹っ飛んだ。

 まるで思いっきり蹴り飛ばされたサッカーボールみたいに。


 そしてそのまま、モモカちゃんは流れるように残り2匹に回し蹴りを放つ。

 ゴキッ、グキッという音。

 そして壁に激突する激しい轟音。

 ゴブリンが死んだのは明らかだった。

 

 まさに瞬殺。

 しかも華麗で圧巻。

 私は言葉を失った。


 …………。


 ……な、なんだあれぇぇ。

 怖すぎ、怖すぎるんですけどぉぉ。

 武術の達人×ゴーレムってここまで凶悪なんかぁぁ。

 

「───フッ、弱イナ」


 しゃ、喋れんのかい……。

 モモカちゃんはゴブリンの魔石を回収し、ガリガリと食べ始めた。

 やっぱ食べるんだ……。


 《ユウナ、あれはワタシたちにとって天敵です。ある種『ザルヴァ・アングイス』よりも脅威です》


 うん、言われなくても分かるよ……。

 私の最大の武器は毒。 

 どんなヤバい敵でも、毒が効くなら逆転の目はあると思ってる。


 だけどアレは……無理でしょ。

 土の塊に毒が効くとは思えない。


 絶対に戦うべきじゃない。

 子供でもわかる。


 なんだけど…………。


 ちょっとだけ試したいことができちゃった。


 《ダメです。やめてください、ユウナ》


 わかってるよ。

 めちゃくちゃ馬鹿だよね私。

 ただ、いつかこういう敵と戦わないといけない時が来る気がする。

 だから今の私がそういう敵にどのくらい通用するのか試してみるのはそう悪くはない……と思う。

 

 ───ってのが建前かな。


 《……分かりました。必要なリスクと判断し、ユウナの意見を尊重します。戦闘時のスピードから推察するに、素早さはユウナの方が高いと思われます。逃げることは可能でしょう》


 ありがとう〜つぐみさんっ!

 ヤバくなったらすぐ逃げるから。

 それにアイツからは〈危機察知〉の反応がない。

 相性なんだろうね、やっぱ。

 一撃で死ぬなんてことはないと思う。


 だったら試せる。

 昼間このスキルの検証をしたときから、今の私が出せる最大火力物理攻撃を思いついちゃったんだよねー。

 その時から試したくてウズウズしてた。

 

 まあ、ただ思いっきりタックルするだけなんだけど。

 うん楽しみ。

 ゾクゾクしてきた。

 どれくらい通用するんだろう。

 

 《周囲の警戒は任せてください。どうせやるなら思いっきりやりましょう》


 お、つぐみさんいいねぇ。

 なんかノリ良くなってきてない?

 もしかして、私に影響されてる?


 《……わかりません。そうなのでしょうか? ですが、嫌ではありません》


 嬉しいこと言ってくれるじゃんっ!

 

 んじゃ、いっちょやりますか。


 覚悟しろ、モモカちゃん。

 

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