021:命を賭けるスリル。


 私と大蛇は睨みあったまま動かない。

 ……というか、動けない。

 瞬きするのもヤバい気がする。

 蛇に睨まれた蛙ってこのことなのか……いや、私はトカゲだけど。

 極限の緊張状態で息もしづらい。


 HPとかが文字化けして見えないけど……正直そんなことを気にしてる余裕はない。

 そういうスキルでもあるんでしょ。

 どうでもいい。


 さぁ、どうやって切り抜けよう。

 この絶対絶命の危機ってやつを。


 ───あぁ、ヒリヒリする。


 私、今最高にヤバい状況だよね。


 《ユ、ユウナ……あの、ワタシ……》


 弱々しいつぐみさんの声が聴こえた。

 なぜだか分からないけど、つぐみさんの動揺が物凄く伝わってくる。

 焦燥、恐怖、自責の念、自己嫌悪……。

 いろんなものが頭に直接流れ込んでくる。

 つぐみさんは自分のせいだとでも思ってるのかね?

 

 落ち着いてつぐみさん。

 これは運が悪かったとしか言いようがない。

 誰のせいでもないよ。

 

 だから今は───コイツを殺すことだけを考えよう。


 《逃げないのですか……?》


 うん、私も逃げたいよ。

 逃げられるならね。

 本能も大音量で逃げろって叫んでる。

 だけど……多分無理。

 その前に殺される。

 背を向けた瞬間に殺されると思う。

 

 《……わかりました。ユウナに委ねます》


 ありがとつぐみさん。


 蛇は静かに私を上から見下ろして動かない。

 すごく不気味で、すごく怖い。

 今すぐに逃げ出したい。


 でも……なんだろう、このヒリヒリする感覚。


 アドレナリンとかエンドルフィンとかが、脳からドバドバと出まくってるのが分かる。

 やべー、私今生きてる。

 凄い生きてるわ。


 うわぁ、どうしよ───やみつきになりそう。

 

 ってか、なんだ?

 全然動かないなこの蛇。

 上からジロジロと観察しやがって。

 こんな小さいトカゲにビビってんのかよ?

 デカい図体して気は小せぇなぁ。

 

 オラ来いよ。

 来てみろよオラ。

 来ないならこっちから行ってやろうか?


 ───なんだろう。

 私今すっごい興奮してんのに、なんか冷静なもう1人の自分がいる気がする。

 つぐみさんのおかげかね?

 まあ、生き残ったら聴いてみよう。

 

 これは感覚なんだけど、戦うときに大切なのって相手が嫌がることをするってことだと思う。

 あとはびっくりするような、予想できないようなことをすること。


 だから私は───自分の感覚を信じて全力で蛇に向かって駆け出した。


 蛇は若干ビックリしたっぽかった。

 だってピクリと身体を震わせたから。

 やったね。

 大成功。


 予想してなかったろ?

 私がどこに逃げるかってことばかり考えてたろ?

 右か、左か、後ろか。

 残念、前でしたー。


 だけどこれはビックリさせただけ。

 相手はめちゃくちゃ格上。

 あくまで『狩る側』はあっち。

 

 私は感覚と本能にまかせて全力で右に跳ぶ。

 ヤバい気がしたから。

 次の瞬間、私のいた場所には蛇のデカい顔があり、地面が抉れていた。

 これは賭けだった。

 分の悪い賭け。

 でも私は賭けに勝った。


 そのまま私は蛇に向かって全力で駆ける。

 そしてジャンプ。

 蛇の体に張り付く。


「キシャァァァァアアアアアアアアアア!!!」


 よっしゃ。  

 めっちゃ嫌がってる。

 ざまぁみやがれ。

 

 硬い鱗。

 牙は通らない。

 ならまずは───

 

 ───〈強刃腐敗爪〉


 ───〈強刃腐敗爪〉


 ───〈腐敗のブレス〉


 ───〈腐敗のブレス〉

 

 ───〈腐敗のブレス〉


 ───〈腐敗のブレス〉


 ───〈腐敗のブレス〉


 腐敗属性の毒を付与した両前脚の爪で鱗を引っ掻きまくり、腐敗のブレスを吐きまくる。


「キシャァァァァアアアアアアアアアア!!!」


 蛇がのたうち回る。

 激しくのたうち回る。

 私も何度も地面とか壁とか商品棚に叩きつけられる。

 超痛い。

 意識が飛びそうになる。

 でも、絶対離れてやんない。

 死んでも離れてやんない。


 《スキル〈打撃耐性〉のレベルが上がりました》

 《スキル〈打撃耐性〉のレベルが上がりました》 

 《スキル〈打撃耐性〉のレベルが上がりました》

 《スキル〈打撃耐性〉のレベルが上がりました》


 HPもたぶんヤバい。 

 あとどれだけしがみついてられるかも分からない。


 だけど───鱗が一部腐った。


 これなら貫ける。


 私はガブりと噛み付く。

 腐った鱗を貫き、肉に爪を食い込ませてさらにガッチリとしがみつく。


 つぐみさん!!

 割合!!


 《麻痺と衰弱を2対2で!》


 了解!!

 

「キシャァァァァアアアアアアアアアア!!!」


 さらに激しく蛇は暴れる。

 麻痺が効いてるとはとても思えない。

 でもつぐみさんがそう判断したならきっと正しい。

 私は信じる。

 

 蛇が暴れまわる度に私も打ち付けられ、HPは減少していく。

 こっからは持久戦。

 私のHPが尽きるのが先か、蛇の動きが止まるのが先かの勝負。


 いいじゃねぇか。

 望むところだわ。


 それから私は何も考えず、ただ必死に噛み付いた牙から麻痺と衰弱の毒を流し込み続けた。

 あと爪から流し込み、MPが回復する度にブレスを吐いた。


 ───『HP:3/147』


 どれだけそうしていたかは分からない。

 でも気づいたら、蛇は動かなくなってた。


 私も意識が朦朧とする。

 つぐみさんがなんか言ってるっぽかったけど、よく聞こえない。

 へへ、でもやってやったぜー。

 最高の気分。

 生まれてから今までで一番最高の気分。


 あ、でも、まだ終わってない。

 麻痺で動きを止めただけだ。

 私は麻痺毒を流し続けながら、今度はふつーの毒を流し始める。

 こいつが魔石に変わるまで。

 絶対にやめない。


 ……あ、やべ。

 意識飛びそう。

 

 つぐみ……さん…………あと、は……………………お願……………………………………。


 

 ++++++++++


 

 《本当に凄いです、ユウナ》


 《わかりました、あとはワタシが引き継ぎます》


 《ユウナはワタシが絶対に死なせません》


 《少しだけ身体を借りますね》


 《ゆっくり休んで下さい、ユウナ》

 

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