019:食物連鎖と効率道中。


 ダダダダダダダッと、絶え間なく響く銃声。

 凄まじい速さで逃げるように飛ぶ一機のヘリコプター。

 そしてそれを追う、推定全長2mはあると思われる氷の造形のような蒼く美しい怪鳥。

 だが、その目に宿るのは野生の獰猛性。

 どちらが『狩る側』なのかは、火を見るより明らかだった。


「た、隊長ッ!! 速すぎて照準定まりませんッ!!」


「ヒュゥゥゥウウウウウウイ!!!!」


「クソッ!! このままでは追いつかれるぞッ!! もっとスピードはでないのかッ!?」


「す、既に限界ですッ!!」


「ちくしょう、なんだってんだッ!! あんなものまでいるのかッ!! こんなことならもっと高火力な武器の使用許可を───」


「───隊長ッ!! 化け物のエネルギーが膨れ上がっていますッ!! 〈危機察知〉にも反応アリッ!! 何かきますッ!!」


 怪鳥の口元に強烈な青い光が収束していく。


「ッ!? 離脱だッ!! 全員パラシュートを───」


 しかし、全てがもう遅い。


「ヒュゥゥゥウウウウウウイ!!!!」


 収束したエネルギーが一気に解き放たれる。

 それは一筋の蒼い閃光となり、『自衛隊』である彼らの乗るヘリコプターに襲いかかった。

 

 次の瞬間には───ヘリコプターは氷の塊と化し、自由落下を始めていた。


 「ヒュゥゥゥウウウウウウイ!!!!」


 怪鳥は、轟音と共に墜落した氷の塊をはるか上空から見下ろし、しばらくすると興味が失せたようにどこかへ飛び去っていった。


 …………。


 …………。


 …………。


 そして、その光景の一部始終をアパートの屋上から見ていた私。

 

 ……ねぇ、つぐみさん。


 《はい》


 私は少し浮かれていたと思う。

 つぐみさんっていうチートな存在を味方につけて、まだまだ弱いけどちょっとは強くなったんじゃねーの? とか思ってた。


 《はい》


 でも違う。

 今私はこの世界の真理を見た気がするよ。

 頭悪い私にも分かる。

 これはアレでしょ。

 食物連鎖ってやつなんでしょ。


 …………。


 つまり、私みたいな食物連鎖の最下層にいるような弱小トカゲは……もう食べられるしかないんだぁぁああああ!!!

 いやだぁぁあああ!!

 怖い、怖いすぎるよこの世界!!

 理不尽に満ちてるよこの世界!!


 《いずれユウナも強くなれます》


 いや、冷静。

 つぐみさん冷静すぎる!!

 強くなる前に食べられるかもしれないんだよ? 

 あのでっかい鳥みたいな化け物に!!


 《嘆いていても仕方ありません。レベル上げに行きましょう》

 

 …………。


 もうッ!!

 分かったよ!!

 こうなったらやってやんよ!!


 《それでこそユウナです》


 私は内心でつぐみさんへの愚痴を吐き、聞こえてますよとか言われながら、誰にも気づかれないようにコソコソと道路へと下りた。


 

 ++++++++++



 とりあえずコンビニの方に向かうことにした。

 例のごとく道路脇の草むらを歩いてる。

 〈保護色〉〈隠密〉〈気配遮断〉〈魔力隠蔽〉〈無音〉を全力発動させながら。

 今のところモンスターは見当たらないけど、夜行性なんかね?

 行く宛てもないしコンビニでも向かうかってことで歩いてるんだけど……前回と違うことが一つある。


 《ユウナ、その草を食べてください》


 はいよー。


 パクパク、ムシャムシャ。


 まずー。


 《スキル〈毒吸収〉のレベルが上がりました》


 《スキル〈毒調合〉のレベルが上がりました》


 時々つぐみさんから指示が出て、私はその度に毒草を食べてる。

 私の視界を通して判別してるんだって。

 今更だけど、ファンタジーないろんな毒草が結構生えてるわー、驚き。

 もうかれこれずっとだから、いつの間にか〈毒吸収〉と〈毒調合〉がレベル4まで上がっちゃった。

 

 うん、なんかつぐみさんって感じ……。


 《スキル〈毒調合〉により、〈猛毒Lv.6〉〈麻痺毒Lv.1〉〈衰弱毒Lv.1〉の生成が新たに可能となりました》


 《スキルの変換を行います》


 《スキル〈麻痺毒〉が〈強刃麻痺牙〉〈強刃麻痺爪〉〈麻痺のブレス〉に変化しました》


 《スキル〈衰弱毒〉が〈強刃衰弱牙〉〈強刃衰弱爪〉〈衰弱のブレス〉に変化しました》


 は、半端ないねつぐみさん。

 

 《状態異常はユウナの最大の武器ですから、このくらいは当然です。それよりユウナ、時々ブレスを吐いてください。当然、『牙』と『爪』も発動したままでお願いします》


 う、うん、了解。


 ───《毒のブレス》


 ───《腐敗のブレス》


 ───《麻痺のブレス》


 ───《衰弱のブレス》


 《ありがとうございます。すぐに《MP自動回復》にて回復を図ります。それと、ユウナの脚は4本ありますので、それぞれの爪には全て別の属性の毒を付与してください。ちょうどユウナの扱える毒も4種類ですので》


 あ、はい。

 

 ───《強刃毒爪》


 ───《強刃腐敗爪》


 ───《強刃麻痺爪》


 ───《強刃衰弱爪》


 おー、割とできるもんだね。


 《『爪』のスキルはデメリットなしに発動できるのがいいですね。次は『牙』です。ユウナには上下に合わせて4本大きな牙がありますよね。どうやらスキルの判定があるのはこの4本のようです。全て別の属性の毒を付与してください》


 か、かしこまりました……。


 ───《強刃毒牙》


 ───《強刃腐敗牙》


 ───《強刃麻痺牙》


 ───《強刃衰弱牙》


 本当に発動できたよ、爪と合わせて一気に8つも。

 牙と爪からダラダラといろんな液体が垂れて、地面に落ちる度にジュウジュウ鳴ってるけど……。


 《スキル〈索敵地図〉及び〈危機察知〉により周囲の警戒はワタシが行いますので、ユウナはスキルのレベル上げに集中して下さい》


 うんうん、りょーかい。

 

 …………。


 って、効率厨すぎるわぁぁあああ!!

 もはや狂気だよつぐみさん!!

 

 《早く強くならなければなりません。このくらいは当然です。それよりユウナ、その草を食べてください》


 うぅぅ。

 ……もう、食べるけどね!!

 

 パクパク、ムシャムシャ。


 あーまずい!!


 そんなこんなでしばらく歩いてると、ようやくコンビニが見えてきた。

 おー、やっと着いたわー、とか思いながら近づていくと───すぐに気がついた。

 


 “何か”が居ることに。

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