016:都合がいい。
《ワタシの以前いた星は滅びました。正確には、ワタシたちが寄生していた生命体が絶滅したんです》
…………。
コメントしづらいよ……。
《ユウナが『悲しみ』を感じる必要はありません。ワタシには感情がありませんので、ただ迫りくる“死”という事実を甘受しただけです》
……うん。
《未知の強力なウイルスが突如蔓延したのです。瞬く間にワタシたちが寄主としていた生命体は滅びました。“地球”での72時間ほどでした》
……うわぁ。
とんでもないな。
なんだその急展開。
《ですが、精神寄生生命体であるワタシたちが同時に滅んだわけではありません。ワタシたちは寄主なしに長く生きられませんが、多少は生きられるのです》
そうなんだ。
でもその……寄主となる生命体? は全部死んじゃったんだよね?
《はい。なのでワタシたちが滅びる運命は変わりません。多少時間差があっただけのことです。───しかし、滅びを待つだけのワタシたちに『声』が聴こえたのです》
え? 声?
私からしたら君も『声』なんだけど……。
《『声』は一言だけワタシたちに告げました。───『都合がいい』と》
……なにそれ。
急にミステリーなんですけど。
何者なのよその『声』って。
《『声』が何者なのかは解りません。しかし、その『都合がいい』という言葉の直後───ワタシたちは“東京”に飛来していました》
……はい?
ごめん、全然わかんない。
ついていけなすぎる。
《ワタシにも何が起きたのか理解できませんでした。それでも、確かに解る事実というものもあります。それは、東京にはワタシたちの寄主となりえる生命体が無数に存在するということです。意図は未だ不明で、どうやったのかもわかりませんが、ワタシたちは『声』に救われたのです》
ふーん。
それで私に寄生したってわけね。
なんか壮大すぎだわ。
でもさ、今までなんかアナウンスしてたよね?
なんかほら、レベルが上がりましたー、とか。
スキルを獲得しましたー、とか。
あれはなんなの?
《はい。ユウナに寄生してからというもの、時折『命令』が届くようになったのです。決して逆らうことのできない『声』からの『命令』です。ワタシはそれに従い読み上げていたに過ぎません》
……もう、訳分からんこと多すぎだわ。
目眩がしてきた……。
『命令』ってなに?
《ワタシにも解りません。ただ、『命令』は絶対なのです。決して逆らえません》
……うん、考えるのやめるね。
私、最近考えるのに疲れてるから。
もう嫌なのよ……ほんと。
《確かに、未だ不明瞭な点は多いです。───それでもワタシは、ユウナと出会えてよかったと思っています》
きゅ、急にどした?
なんか照れるじゃん。
《ワタシとユウナは奇跡的な程に相性がいいのです。対話ができるほどに。これは初めてのことです。極めて特別です。他のワタシの同族たちは、これほどまでの適合率では決してないと思われます》
え、そうなの?
じゃあ、こんなふうに話かけられてるのって私だけ?
《0である確証はありません。現にワタシとユウナは対話できているので、もしかしたら他にもいるかもしれません。ですがユウナの精神構造を見る限り、やはり極めて相性がいいと言う方が適切です。恐らくほとんどの同族たちは『命令』を読み上げているだけだと思われます》
へぇー、そうなんだ。
じゃあ他の人たちは本当に『謎のアナウンス』としか思ってないんだね。
まさか精神寄生生命体の声だなんて思ってないだろうなー。
これはなんか得した……のかな?
《はい、必ずユウナの役に立ってみせます。生き残るために、共に頑張りましょう》
おー、なんか嬉しい。
じゃあ、相棒だね。
なんかいいね、相棒って。
実は一人で心細かったんだよねー。
だからすごい助かる、いろんな意味で。
あ、名前とかあるの?
《いいえ、ワタシたちは名前を持ちません。しかし、意図は不明ですが『声』に識別するための番号を与えられています》
番号?
もう本当に『声』って何者なんだろうね。
私をトカゲにしたの絶対ソイツでしょ。
ざっけんなよコラ。
絶対いつかぶん殴ってやる。
それはそうと、番号って何?
《ワタシに与えられている番号は『293』です》
293……。
たしかに、なんで識別する必要があるんだろ。
意味分からんね。
まあ、意味わからんのは今に始まったことじゃないけど。
それにしても293ね……。
293……293……。
…………。
……お、いいの思いついた。
『つぐみ』ってのはどう?
《……つぐみ》
どうかな?
『293』だから『つぐみ』って安直すぎ?
《いえ、気に入りました。これからワタシのことはそう呼んでくれて構いません》
ほんと?
良かった〜。
じゃあ改めてよろしくね、つぐみさん。
《はい、ユウナ》
++++++++++
これが、私とつぐみさんの最初の出会いなんだよね。
めっちゃ懐かしいわー。
そういえば、つぐみさんってこの時はまだ自分に『感情が芽生え始めてる』ってことにも気づいてなかったんだっけ。
まあ、それを言うなら私もなんだけど。
うん、この時は全然気づいてなかったよ。
つぐみさんが───めちゃくちゃ『チート』だったってことに。
ただの媒体のはずがこんなに高性能でヤバかったなんて、さすがのアイツも予想外だったかもね。
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