012:怖い姉妹。


 うむ……困った。

 入れない。

 私は今、『staff only』と書かれた扉付近で非常に困っている。

 それは何故か。

 この扉が押して開けるタイプのドアだったから。


 ぬわー!!

 身体が小さいことが恨めしい!!

 なんだろう。

 全然開かない、開く気がしない。

 これがもし引くタイプならいけたんだけど、押すタイプだとどうも力が入らなくて開けられない。


 はぁ……。

 どうしたものか。


 ──ん?


 エスカレーターから2人の女が上がってきた。

 1人はLv.16のヤバい魔法使い、サキちゃん。

 そしてもう1人が───


『ユリ 掌握者 Lv.6』

『状態:正常 HP:241/241 MP:54/54』


 噂のユリちゃん。

 私と同じ歳くらいの髪の長い女。

 けっこうな美人さん。

 まあそれはサキちゃんもだけど。

 レベルは大したことない。

 いや、うん、私からしたら凄く高いんだけど、サキちゃんを見た後じゃあまり驚けない。


 そうなんだけど……何?

 めちゃめちゃヤバい感じがするんですけど。


 《新たにスキル〈危機察知〉を獲得しました》

 《スキル〈危機察知〉のレベルが上がりました》


 やっぱりー。

 私の直感は正しかったー。

 まずジョブ。

 何よ『掌握者』って。

 怖っ!! なんか怖すぎるよ!!


 ダメだ、これは危険すぎる。

 本能がやばいと叫んでる。

 私は天井から壁を伝い、商品棚の隙間に隠れた。

 〈保護色〉〈隠密〉〈気配遮断〉を全力で発動させて。


「それにしてもその杖は羨ましい。私も早くそのようなアイテムが欲しいものだ」


「姉さんが欲しいならあげる」


「ふふっ。サキは物欲が無さすぎるぞ」


「そういうわけじゃない。でも姉さんが欲しいならあげる」

 

「まったく、どう違うんだか。気持ちだけもらっておこう」

 

 カツカツという音とともに近づいてくる。

 早く通り過ぎてくれー!!

 怖い、怖すぎる!!

 バレないよね?

 これ大丈夫だよね。

 見つかったら多分死ぬんですけど。


 《スキル〈隠密〉のレベルが上がりました》

 《スキル〈気配遮断〉のレベルが上がりました》


「あぁ、どうしよう。こんな世界になってしまったというのに、楽しんでしまっている私がいる」


「……私も、少し楽しい」


「ふふ、血は隠せないな」


 とんでもない戦闘狂姉妹なんですけどー!!

 それとも何?

 私みたいに心が変わっちゃったのか?

 いや、根っからの戦闘狂に見えるのは気のせいでは無いはず……。


「それで、どのくらい毒耐性スキルは取れた? 私の認識では19人は取得できていると思うが」


「合ってる。まだ、スキルポイント足りない人多い」


「そうか……毒は危険だからな。今のところ耐性しか逃れる術がない。……『吉田事件』は繰り返したくないものだ」


「……ん」


 ……へ?

 スキルポイントって何?

 もう嫌だ。

 分からないことが多いよ!!

 そして『吉田事件』ってなに?

 どうも毒で死んだっぽいな。

 気になる。


 …………。


 ん?

 ちょっと待てよ。

 私は自分の称号の一つ『人殺し』を思い出した。

 そして、初日に思わずガブッとやっちゃった人間……。

 それ……犯人まさか私じゃないよね?

 私の牙、めっちゃ毒あるけど私じゃないよね?

 ……考えないようにしよう。


「それにしても、面白いゴブリンが見つかったな。……ふふっ、自分を『人間』だと言っていた」


「……あのゴブリンは隠すべき」


「あぁ、分かっているさ。これがもし事実なら、絶対に知られてはならない。───暴動が起きる」


 もう嫌だこの姉妹。

 怖すぎる……。


 カツカツという音がかなり近くまで来た。

 そして、ようやく2人は『staff only』と書かれたドアの前までたどり着く。

 そのままドアノブに手をかけ───


「───ん?」


「どうしたサキ?」


 私の隠れている方を振り向いた。

 心臓が握り潰されたようだった。

 思わず目をつむる。


 《スキル〈恐怖耐性〉のレベルが上がりました》

 

「ううん。ちょっと、魔力の気配があるように感じただけ。でも気のせい」


「そうか。あまり待たせても悪い、急ごう」


 ガチャりという音ともに、恐怖の姉妹は扉の向こうへと消えていった。

 身体の力が一気に抜けた。

 ふぁぁぁぁぁ。

 死んだと思ったぁぁぁぁ。


 魔力ってなんだよ。

 そんなよく分からもんのせいで気づかれたら死ぬに死ねないわ。

 

 さて、もう帰ろう。

 ここは怖すぎる。

 お化け屋敷の比じゃない。


 …………。


 いや、ちょっと待てよ。

 あの怖すぎる姉妹はいない。

 これはチャンスなのでは?

 人間は怖すぎるから今のうちにできるだけ殺しておいた方が、ゆくゆく私の生存率向上に繋がる。

 

 私も早くレベルアップして強くなりたい。

 サキちゃんを怖がらなくてすむくらい。

 うーむ。

 迷いどころだな。


 私は天井をぺたぺたと歩き、反対側のエスカレーターに乗って、とりあえず下に向かうことにした。

 ろくでもないことを考えながら。

 


 ++++++++++



 名前:ユウナ

 種族:リトルバジラリザード

 LV:1

 HP:37/37

 MP:53/53

 攻撃力:21

 魔法力:32

 防御力:24

 対魔力:21

 素早さ:186

 状態:正常

 属性:邪悪

 カルマ:-203

 ランク:D-

 【スキル】

〈強刃毒牙Lv.1〉〈強刃毒爪Lv.1〉〈孤独耐性Lv.4〉〈脱兎Lv.2〉〈恐怖耐性Lv.Max〉〈気絶耐性Lv.3〉〈打撃耐性Lv.3〉〈獰猛化Lv.1〉〈強刃腐敗牙Lv.1〉〈強刃腐敗爪Lv.1〉〈混乱耐性Lv.1〉〈竜操術Lv.1〉〈保護色Lv.ー〉〈毒吸収Lv.1〉〈毒調合Lv.1〉〈解毒牙Lv.ー〉〈毒のブレスLv.1〉〈腐敗のブレスLv.1〉〈毒無効Lv.ー〉〈麻痺無効Lv.ー〉〈腐敗無効Lv.ー〉〈酸無効Lv.ー〉〈隠密Lv.4〉〈気配遮断Lv.3〉〈危機察知Lv.2〉

 【称号】

『孤独』『獰猛』『人類の敵』『最初の蜘蛛殺し』『竜喰い』『悪辣』『悪食』『残虐』『最初の竜殺し』『大物喰らい』『大胆不敵』『ドラゴンライダー』『人殺し』『毒姫』『災禍』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る