013:腐敗の殺戮と大型アップデート。
視界良好。
風向きよし。
今、私は2階の天井のエアコンのそばで息を潜めている。
そして目の前には寝袋で寝ている10人くらいの集団。
顔だけ出ててイモムシみたい。
ちょっとウケる。
いろいろありすぎて忘れてたけど、今ガッツリ真夜中だったね。
普通の人は寝る時間なんだわ。
3階から下りてきたら電気消してめちゃくちゃ寝てるもんだからビックリしたよ。
当然電気消えてるから結構暗いんだけど……余裕で見える。
これが爬虫類の力……いや、魔物になったおかげなんだろうか。
まあどうでもいいや。
それにしてもコイツらやっぱ強いな。
全員『戦士』か『狩人』だから、あの恐ろしい姉妹みたいにレアジョブって感じではないんだけど……レベルが高い。
Lv.5、Lv.6、Lv.7のどれかだよ皆。
最初は分からなかったけど、多分ここの戦力なんじゃないかなコイツらって。
だって絶対魔物狩りまくってるでしょこの人たち。
あー怖い。
やっぱ人間怖い。
ちなみに1階で寝てる人たちはほとんどLv.1だった。
完全にただの避難民でしょ。
こうしてみると改めて思うんだけどさー、やっぱ魔物不利だよね?
だって人間は協力することができるんだよ?
それに比べてトカゲにされた私は……強制ソロプレイ……。
魔物も人間も両方敵。
…………。
ふざけんなぁぁああ!!
あんまりだぁぁああ!!
───ふぅ。
さて、そろそろやりますか。
えっと、突然ですが、私は今からこの人たちを殺そうと思います。
怖いわ〜私。
何が怖いって、全く罪悪感みたいなのがないことよ。
それどころか殺したいって思ってるから本当にヤバいよねー。
でもなー。
やっぱこれチャンスなんだよねー。
私死にたくないし。
生き残るには強くなるしかないっぽいし。
これは楽に強くなれる絶好の機会なんじゃね?
普通に戦って強くなるなんてほぼ無理よ。
私、弱小蜥蜴だから。
スパイダーなマサオ君とドラゴンなフミカちゃんにはなんとか勝てたけど、できればもう勘弁。
───よし、殺そう。
殺したらすぐに逃げよう。
いい加減帰りたい。
考えたんだよね私。
どうやったら一気に楽に殺せるか。
どうもさっきの恐ろしい姉妹の話から、毒には耐性がありそう。
でも───『腐敗』の耐性はあるのかな?
私みたいに状態異常特化な人間なんていないでしょさすがに。
まあ、居たら居たでダッシュで逃げるだけなんだけど。
その時はその時ってことで。
今から私がするのは、エアコンの風にのせて〈腐敗のブレス〉をブッパすること。
これ結構良くね?
いい感じにエアコンの当たる位置にいるし。
〈腐敗のブレス〉を草にかけてみたら、黒くなって枯れたんだけど……人間にかけたらどうなるんだろ……。
あぁ怖い。
でもやろう。
もうやるって決めたし。
よし、やるぞー。
私は息を大きく吸い込む。
そしてスキルの発動を感じる。
あ、ブレスでる、腐敗のブレスでるよヤバいよ、って感覚があるのよ。
不思議だね。
────〈腐敗のブレス〉
口から薄い靄みたいなのが出てきて、それがエアコンの風に運ばれていく。
MPが5減ってる。
ちゃんとできてる。
……そのはずなんだけど。
…………。
…………。
…………。
あれー?
何も変化がない。
えー、なんでだろ。
足りない?
もう1回やってみるか。
私はまた息を吸い込み───
───〈腐敗のブレス〉
───〈腐敗のブレス〉
───〈腐敗のブレス〉
───〈腐敗のブレス〉
───〈腐敗のブレス〉
5連続でブレスしてやったぜ。
MPが半分消し飛んだ。
うー、やっぱ変化がない───ん?
すると、ジュゥゥゥ、っていう熱々の鉄板にお肉を置いたときみたいな音が聴こえてきた。
最初は小さかったんだけど、その音はどんどん大きくなってくる。
そして───
「アガァァァアアアアア!!!」
その悲鳴を皮切りに次々と苦痛の叫びを上げ始めた。
あっという間に阿鼻叫喚。
すんごいカオスになった。
「ギャァアアアァァァアアア!!」
「がおがぁぁ、がおがぁぁ」
「びえない、だぁぁ、びえない、ダズゲェェェ」
「ナニガァァァ、ナニガァァァ」
「オボォォオオオオォォオオオオオオ!!!」
……あぁ、ヤバい。
本当にヤバいどうしよう……。
───めっちゃ楽しい。
《スキル〈腐敗のブレス〉のレベルが上がりました》
《スキル〈腐敗のブレス〉のレベルが上がりました》
《スキル〈腐敗のブレス〉のレベルが上がりました》
《スキル〈腐敗のブレス〉のレベルが上がりました》
《スキル〈腐敗のブレス〉のレベルが上がりました》
うわぁ……でもかなりグロいなぁ。
なんか顔が黒くなってグツグツしてる……。
言葉通り腐ったバナナって感じ。
匂いもヤバい。
私が天井から苦しむコイツらをしばらく見ていると、タッタッタッという音が聴こえてきた。
多分3階にいる恐ろしい姉妹達だ。
よし逃げよう。
楽しいけど欲は出しちゃダメ。
私はすぐにエスカレーターの手すりまで移動して、1階に行き、バリケードの隙間を通って外に出た。
そしてすぐに草むらへと向かう。
もう後戻りできないなと思いながら。
遅れて聴こえてきた長いアナウンスを耳にしながら。
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《カルマ値が大幅に下降しました》
《カルマ値が僅かに上昇しました》
《各種能力値が上昇しました》
《種族値が一定に達しました。スキル〈全癒脱皮〉を獲得しました》
《種族値が一定に達しました。スキル〈自己再生〉を獲得しました》
《種族値が一定に達しました。スキル〈HP自動回復〉を獲得しました》
《種族値が一定に達しました。スキル〈MP自動回復〉を獲得しました》
《新たに称号『殺戮者』を獲得しました》
《新たに称号『虐殺者』を獲得しました》
《新たに称号『暗殺者』を獲得しました》
《新たに称号『断罪者』を獲得しました》
《新たに称号『無慈悲』を獲得しました》
《新たに称号『外道』を獲得しました》
+++++++++
はぁー、疲れた。
私は道路脇の草むらを歩いている。
早く帰りたい。
めちゃくちゃ遠いよぉ。
……あぁ。
本当にヤバい。
めっちゃ殺しちゃった。
でもなんでだろー、クソ達成感あるんだけど。
何なのこのやってやったぜ感。
あんなことをした後なのに全然落ち着いてるよ。
うん───完全に魔物になったんだな、私。
妙に冷静な頭でそんなことを考えながら、私はとぼとぼと歩いていた。
そんな時───
───それはあまりに唐突だった。
《ワールドアナウンス》
《システムの適合値が一定に達したことを確認》
《システムの不具合の検索を開始します》
《検索中───検索中───終了》
《不適合個体数───3023762》
《融合失敗個体数───723458》
《想定数を越えないため問題ないと判断》
《第2フェイズへと移行します》
《接続中───接続中───成功》
《融合中───融合中───成功》
《これより大型アップデート『夜明けのワルキューレ』を実施いたします》
《衝撃に備えて下さい》
……へ?
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