011:変わっちゃった私。
私はエスカレーターの手すりに乗り、自動で運ばれながらまた3階へと戻ってきた。
やっぱ電気生きてる、不思議。
うーん。
慎重にコソコソと天井を歩きながら確認したんだけど、ここにいるのはたぶん42人かなー、見落としがなければ。
どういう理由かは知らんけど、1階に30人、2階に12人って感じで住み分けてるみたい。
なんとなくだけど1階が怯えてる奴らで、2階の数人が生き生きしてる奴らって感じがする。
2階には何人かヤバそうなのもいたし……。
なんで分けてるんだろうね。
てかさ……少なくね?
この辺り一帯の人は多分ここに集まってるよね?
もしかして他にもあるのか?
ここみたいな拠点。
いやいや、それにしても少ないよ人間。
なんだろう。
魔物にならなかった人間の方が珍しいのかな。
えー、なんだそのレア感! うらやま!
私なんて……私なんて……うぅぅ。
しかも、全員がジョブ持ってたし。
大半が『戦士』と『狩人』だったけど。
あの『盗賊』のメガネ君はレアなんかなー。
ちくしょー、ほんと私も人間サイドが良かった。
とかなんとか考えていると、3階に到着。
速攻で天井に移動。
安定すぎるよ天井、安心感が違う。
それにしても、やっぱ荒れてんなー店内。
マジで世紀末かよ。
……さて、これからどうしよう。
私は今2択で迷ってる。
一つがこのまま何もせず帰るって選択肢。
そしてもう一つが───できるだけ人間を殺してから帰るって選択肢。
…………。
うんうん。
わかるよ?
お前ヤバいよって思ってんでしょ?
そりゃ結婚できないわ。
いや、そもそも結婚以前にサイコすぎんだろ……とか思ってるっしょ?
……私も自分が怖いわ。
誰か助けてくれーまじで。
でもなんか考えちゃうんだよ……。
自分でもわけが分からんわ……。
さすがにさー、もともとこんなヤバい奴ではなかったと思うよ私も?
人を殺そうなんてさすがに思ったことないわ。
だけど……今は普通に思っちゃう……という。
ヤバいわー本当に。
自分が自分じゃないみたいでちょっと怖い。
たぶんだけど、この蜥蜴の身体になったことで心も変わっちゃったんじゃないかな。
殺すことへの忌避感みたいのがなくなった気がするし……。
だからさ、もう前の私と今の私では別人なんだよきっと。
頭良くないから難しいことは分からないけど、変わっちゃったんだね私。
…………。
───って、なんか暗くなっちゃったけど、私の中では割ともう整理がついてるんだよなー。
これで良かったんじゃね? とかむしろ思っちゃってる。
だってさ、考えてみてよ。
助けなんて来ると思う?
東京の周りが、余裕で空まで届いてるすんごい高い壁で囲まれてたんだよ?
……正直、あんなの人間ができることじゃないって。
もうね、完全に地球じゃないって感じだよ。
凶悪なエイリアンだらけの未知の惑星に、か弱い私だけポツンと置き去りにされたようなもんじゃん。
元の生活に戻るなんてことはきっと出来ない。
変わってしまったこの世界で、いろんなもんに必死に抗いながら生きていくしかないなんて……普通の26歳独身の女ならとっくに発狂してると思わん?
絶対正気じゃいられんでしょ。
でも私はなぜか多少動揺しただけで、けっこう落ち着いてる。
それどころか、今ここで人間は殺しておいた方が私の生存率は上がるんじゃね? とかくっそ冷静で冷酷なことまで考えてる。
イカれてるよ、私。
でも、こんな世界で生き残るにはまともじゃダメだと思うんだよ。
平和が当然の世界で生きてた元の私では、絶対にこんなヤバすぎる東京で生きてはいけない。
だから、私は変わっちゃったけどそれで良かったのかなって。
まじ意味わからん世界だけど死にたくないし。
なんならこのまま人間に戻れなくても、蜥蜴として天寿まっとうしてやるとか思ってるからね私。
絶対に死んでたまるかっての。
どんなに汚くても生きて生きて生き延びてやる。
そんなわけで、もう別にいい。
多少変わっても私は私だし。
強く生きていこうと思いまーす。
……ん?
なんか声が聴こえてきた。
小さいけど、3階に上がってきてる。
「ンー!! ンッンッンー!! ンンンー!!」
「あぁ、本当にうるさいなコイツ」
あ、これは連行されたゴブリン、シゲユキ君の声だ。
今まで見かけなかったけどどこ行ってたんだろ。
私はすぐに柱の影に隠れる。
〈保護色〉は発動してるけど一応。
念には念を。
「それにしても、なぜユリさんはわざわざ3階の休憩室に集まることにしたんでしょう。まあ、このゴブリンのことだとは思いますが……」
「確かになー。妙に上機嫌だった。……正直俺はあの人苦手なんだけど……何考えてるか分からん」
「……それには全面的に同意です。ときどき怖すぎる表情しますよね……」
「あぁ……めっちゃわかる。うわー、思い出したらちょっとブルッときたわ。あとあれもヤバくなかった? ほら俺たちが────」
そんな会話をしながら、シゲユキ君たちは『staff only』と書かれた扉の向こうへ消えていった。
私は天井でそれを聴きながら、チョロチョロ動いてみたりしたんだけど、あの索敵メガネ君は気づかなかった。
なんでだろ。
〈気配遮断〉とか〈隠密〉のスキルのおかげかな。
まぁいいや。
ちょっと面白そう。
バレないみたいだし、私も行ってみよーっと。
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