009:連行されたシゲユキ君。


「コイツ……ゴブリンだよな……。なんで喋れるんだよ……」


「離セ 離セ オレハ人間ダト言ッテルダロ 名前ガ見エナイノカ」


「何言ってんだコイツ? 名前? お前名前あんの?」


「見える……とはなんのことでしょう」


「まさか、ステータスのことか? 魔物にもステータスがあるのか……いや、考えてみれば当然か」


「なあなあ、速くそいつ殺してくれよ……。気持ち悪くて吐きそうなんだけど」


 へぇ。

 人間には魔物の『ステータス』が見えないっぽいな。

 逆にゴブリンなシゲユキ君は普通に見えてる感じ。

 なんじゃそりゃ。

 魔物にだけ見えるのか。

 意味不明だけど私は黙って受け入れることにした。

 そういうものなんだと。

 

 物分りはいい女なんだよなー私。

 こんな意味不明な世界だし。

 あれこれ考えず受け入れる方がいいっしょ。


 ちなみに、私は今天井からこの様子を観察している。

 縄で縛りあげられたシゲユキ君可哀想だなーとか呑気に思いながら。

 こんな近くにいるのに気づかれないってのは少し楽しいんだが、どうしよ……。

 保護色有能すぎ。


 あ、あと当然私にもメガネ君たち人間のステータスも見えるよ。

 例えばメガネ君のステータスは───


『ユキヒサ 盗賊 Lv.3』

『状態:正常 HP:102/102 MP:58/58』


 うん、『盗賊』って。

 まさか『ジョブ』か……。

 ジョブなのかー、あー、うらやま。

 うわー楽しそー。

 完全にゲームやんかー。

 

 …………。


 なんで私は蜥蜴なんじゃぁぁああ!!

 私も人間サイドが良かったぁぁあああ!!


 はぁ……。

 〈毒のブレス〉を吐いてやりたいんだがどうしよう。

 〈腐敗のブレス〉でもいい。

 その欲求を抑えるのが大変。

 そっとゆっくり吐けばバレないんじゃね?

 ブレスって言っても火をボォーって感じじゃなくて、霞んだ霧を吐き出すって感じだし。

 わけもわからず苦しんで死ぬんじゃないだろうか。

 え、何それすごく見たいんだけど面白そう。


 ……とか考えちゃう自分が嫌いです。

 

 でも我慢せねば。

 コイツらたぶんどっかに拠点みたいなのがあって、そこから来ましたって感じだし。

 ここには食料を取りに来ただけなんだろうな。

 ならコイツらについて行けば人間の拠点が分かるっしょ。

 

 にしし。 

 楽しそう。

 そっちの方が断然楽しそう。

 

 ……そうじゃなくて!!


 えっと、人間の動きを知らないのは危険。

 ここで人間の拠点を突き止めて、戦力を確認した方が私の生存率が上がるの。

 だからこれは必要なこと。

 生きるために仕方なくなのよ。


 …………。


 はぁー。


「あーもう、コイツうるさいな。ガムテープ貼っとけ」


「あいよー」


「ンー!! ンー!!」


「それでどうする? あらかた食料は車に詰め終わったけど。このゴブリンは殺すか? それともユリさんに見せるために連れ帰るのか?」

 

「僕としては連れ帰るべきだと思います。喋れる魔物というのは初めてです。何か情報が得られるかも知れません」


「反対!! 反対!! 反対!! 俺は断固として反対!! こんな気持ち悪い奴を連れていくとかどうかしてんのか!? 頭沸いんのか!?」 


「静かにしろタケル。魔物を呼び寄せたらどうする」


「あ……悪い。でも俺の意見は変わらないぜ。こんな気色の悪い生き物を俺は連れていきたくない」


「いえ、やはり連れて行きましょう。幸いこのゴブリンは弱い。殺すならいつでもできます。情報を引き出してからでも遅くはないでしょう」


「は!? 正気かユッキー!? お前────」


「いいかげん黙れよタケル。これはお前の我がままで決めていいことじゃない」


「……分かったよ。悪かったな」


「決まりですね、では急ぎましょう。あまり悠長にしてはいられないので」


 あーあ。

 連行されちゃうわシゲユキ君、可哀想に。

 4人は車のトランクにシゲユキ君を入れた。

 そして自分達も車に乗り込む。


 だから私もトコトコと走って車に飛び乗り、ルーフの辺りに張り付いた。

 着いて行っちゃおーっと。

 振り落とされないか心配だな。

 コイツらの運転原始人だし。


 よーし、レッツゴー……とか思ってたら───ガチャりとドアが開いた。

 にゅるっと索敵メガネ君が出てきて、キョロキョロと周囲を見渡す。

 ビクッと心臓が跳ね上がった。

 

 え、バレた?

 逃げるべき?

 いや、動かない方がいいか。

 私は息を殺し、気配を殺した。


 《新たにスキル〈気配遮断〉を獲得しました》

 《スキル〈隠密〉のレベルが上がりました》

 

「どうしたユキヒサ? なんかあったのか?」


「いえ……僅かにですが〈索敵〉に反応があったものですから。……気のせいだったみたいですね」


「そうか、なら速く行こうぜ。あまり遅いと怒られる」


「そうですね。すいません、急ぎましょう」


 ガチャりと再びドアが閉まるのを確認し、私はふぅーと息を吐き出す。

 〈保護色〉てめぇ……。

 優秀だと思ったらこれか……。

 動いたらそっこーバレたじゃねぇか!!

 あくまで保護色ってわけだなクソめ。

 

 次からは注意しなきゃ───


「キキキィィィィイイイイイイイ!!!」


 ぎゃぁぁああああああああああ!!!


 唐突に爆走し始めた車。

 私は絶叫を上げながら、必死にしがみついた。

 いつかこの悪夢が終わることを信じて。


 だ、誰か止めてくれぇぇええええ!!


 

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