007:夜のお散歩は怖くてファンタジー。

 

 よくよく考えたら、外に出ないなんて選択肢は絶対になかったわ。

 だって食料はいずれ尽きるし。

 今のところ冷凍フミカちゃんしかストックないし。

 ……それと、ビーフジャーキーの味がしなかったし……。


 まぁいいやー、考えるのメンドイ。

 外に行くことは決まったんだし、とりあえずれっつごーだわ。


 周囲をめちゃくちゃ警戒しながら、ピョンッ、とベランダから木へ飛び移り、そこから木を伝い壁を伝い、やっとこさ道路へと到着。

 怖いからすぐに道路脇の木とか雑草とかが生えているところに身を隠した。

 〈保護色〉も発動。


 うん、小さいけど意外となんとかなる。

 壁とか歩けるからなんとかなる。

 

 ふぅー。

 雑草の隙間からちょっと顔を出してみる。

 外はとっても静か。

 だけど───その静けさが逆に不気味。


 魔物っていっても元人間っぽいし、寝てるんかな?

 キョロキョロと周囲を見渡してみても、怖いモンスターの姿はない。

 ふ〜、一安心……なんてできない。

 

 だって道路とかボロボロだし、所々に車が激突してたり乗り捨てられてたり、明らかに巨体生物の足跡みたいなのがあったりするから……。

 しかもさ……なんかさ……“何か”を食い散らかした残骸みたいなのがあっちこっちに落ちてんるんですけど……臭いんですけど……。


 《スキル〈恐怖耐性〉のレベルが上がりました》

 

 こっわ!!

 なんかスキルのレベル上がったけど普通にこっわ!!

 ヤバすぎでしょ、何この世紀末も真っ青な街。

 帰ろかな……。

 ……いや、頑張れ私ー。

 むしろここで周囲を調べとかない方が怖い。


 あの足跡の巨大生物が部屋に突っ込んできたらどうすんの?

 こんなか弱いトカゲなんて瞬殺よ?

 よーし、スーハー、スーハー。

 やってやんよ。


 ───と、私が決意したときだった。


 ドシンッ、ドシンッ、という重い足音が遠くから聴こえてきたのだ。

 

 ギャー!!

 なんか聴こえてきた!!

 見つかりませんように、見つかりませんように。

 息を殺しながら、何が現れるのか私は伺っていた。

 すると、しばらくして現れたのは───2mを軽く越える巨躯の赤い肌の化け物だった。


 《スキル〈恐怖耐性〉のレベルが上がりました》

 《スキル〈恐怖耐性〉のレベルが上がりました》

 《スキル〈恐怖耐性〉のレベルが上がりました》


 なんじゃあれはぁぁああ!!

 身体が硬直した。

 スパイダーなマサオ君にも、ドラゴンなフミカちゃんにもここまでの恐怖は感じなかった。

 アレには絶対に勝てない。

 見つかったら間違いなく死ぬ。 

 そんな当たり前の事実に、私はより一層恐怖した。


「ハァッハァッハァッハァッハァッハァッハァッ」


 妙な息遣いが聴こえてきた。

 それに呼応するかのように身体が硬直する。

 私はソイツが何事もなく通り過ぎてくれることを心から願い、震えながら隠れていた。

 

 ドシンッ、ドシンッ、ドシンッ、ドシンッ───


 遠ざかっていくその重い足音を聴きながら、私は心の底から安堵した。

 ふぁぁああああ、ヤバい、ヤバすぎだろアレは。

 あぁ、助かったわー、こっわ、まじこっわ。

 チラり、と遠ざかっていくデッカい背中を見る。

 すると案の定、ソイツの情報が脳内に示された。


『ポチミ オーガ Lv.11』


 …………。


 …………。


 …………。


 なんじゃそりゃぁぁぁああ。

 突っ込み所が多すぎる、多すぎるよ!!

 ポチミってなに。

 キラキラネームすぎだろ!!

 それとオーガって……。

 私の知ってるオーガと違う!!


 私の知ってるオーガはもっとこう……人間っぽいっていうか……理知的でカッコイイっていうか……主人公として選択できちゃったりするというか……。

 少なくともあんな化け物じゃない!!

 ……もう嫌や……。

 アイツ……オーガはどっかに行ったのかな……。

 ここに居たら危険かもだわ……はぁ……。

 外に出てこんなにそっこーで心を折られるとは。

 恐るべしって感じ。


 それにしても……ポチミって。

 犬につける名前にしても───って犬?

 そういえば、人間は魔物になった奴とそうではない奴がいるっぽいけど、動物はどうなったのだろうか?


 ……うわー、怖いわー。

 確実に魔物になってるやん。

 街の中をライオンが徘徊してるようなもんやん……。

 しかもライオンよりも恐ろしい可能性大やん……。

 

 ───私は1匹の野良猫を一瞬思い出したけど、すぐにそのことについて考えるのをやめた。


 …………。

 

 よし、気持ちを切り替えてお散歩再開ー。

 怖い怖いお散歩再開ー。


 テクテクと草木を分けながら進んでいく。

 魔物の姿は見当たらない。

 ……あーもう、草が鬱陶しい!!

 怖いからここから出はしないんだけど。

 

 でも──ちょっとだけ新鮮。


 こんな視線から街を見るなんて初めてだから少しだけ楽しい。

 その何倍も怖いけど。

 雑草をこんなに近くでこんなにデカいものとして見る日が来ようとは……誰が予想できようか。


 ファンタジーだな〜という感想を抱きつつ、やたらと大きく見える草木を分けてどんどん進む。

 とりあえず、コンビニでも見に行ってみようかなーと思っていた時───他とは少し違う、青みがかった雑草が目についた。

 

 とは言っても、たかが雑草。 

 へぇー少し違うなーくらいで私の興味は消えた。

 ……だけどこの世界は、それだけで許してはくれなかったというね……。

 その雑草の情報が唐突に脳内に示された。


『ヒポポグラス:HPとMPを少し回復できる。ポーションの材料の1つ』


 …………。


 なんかファンタジー感半端ない草が生えてるぅぅううう。

 え、何これ、いやマジで何これ。

 食べてみる?

 ……いや、やめておこう。

 草食べるほど人間やめてない。


 確かにさー、私は植物に詳しいわけではないよ?

 でもね、さすがに私もHPとMPっていう謎のものを回復する草が、道路脇に生えてなかったことは知ってる。

 東京……ファンタジーになっちゃったよ……。

 ってか、HPとMPってなに。

 ドラ〇エでおなじみのあれでいいの?

 でもそんなもんステータスになかったんですけど。


 そう思い、私はステータスを確認してみた。



 ++++++++++

 


 名前:ユウナ

 種族:リトルバジラリザード

 LV:1

 HP:37/37

 MP:53/53

 状態:正常

 属性:邪悪

 カルマ:-203

 ランク:D-

 【スキル】

〈強刃毒牙Lv.1〉〈強刃毒爪Lv.1〉〈孤独耐性Lv.4〉〈脱兎Lv.2〉〈恐怖耐性Lv.7〉〈気絶耐性Lv.3〉〈打撃耐性Lv.2〉〈獰猛化Lv.1〉〈強刃腐敗牙Lv.1〉〈強刃腐敗爪Lv.1〉〈混乱耐性Lv.1〉〈竜操術Lv.1〉〈保護色Lv.ー〉〈毒吸収Lv.1〉〈毒調合Lv.1〉〈解毒牙Lv.ー〉〈毒のブレスLv.1〉〈腐敗のブレスLv.1〉〈毒無効Lv.ー〉〈麻痺無効Lv.ー〉〈腐敗無効Lv.ー〉〈酸無効Lv.ー〉

 【称号】

『孤独』『獰猛』『人類の敵』『最初の蜘蛛殺し』『竜喰い』『悪辣』『悪食』『残虐』『最初の竜殺し』『大物喰らい』『大胆不敵』『ドラゴンライダー』『人殺し』『毒姫』『災禍』


 

 ++++++++++



 なんか増えてた……。

 何故だ……。


 …………。


 よし、コンビニに向かおーっと。

 

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