003:フミカちゃんをガブり。
さて、どうしましょう。
蜥蜴って胴体掴まれたら何もできないんだねー。
うん、本格的にまずい。
『フミカ ベイビールージュドラゴン Lv.7』
この子、強い。
しかもドラゴン。
誰もが知るファンタジーな最強生物、ドラゴン。
なんかすーごい勝ち組な気がするよフミカちゃん。
……私なんて蜥蜴なのに。
……下等生物な蜥蜴なのに。
はー、完全に油断した。
蜘蛛のマサオ君を食べ終わってさー、複雑な思いはあったけどさー、それと同じくらい達成感と満腹で幸せな気持ちだったわけ。
そんな時よ。
狙いすましたかのように現れたこのドラゴンなフミカちゃんにガシッと掴まれて今に至る。
どんどん空高く飛んでいくよー、どうしようー、この高さから落とされたら絶対死ぬって。
とは言っても、とんでもない力で全然振りほどける気がしない、さすがドラゴン。
これがこの子の必勝パターンなんかなー。
高い所まで飛んで落とす。
シンプルでいいね。
確かにこの剛力を持ってすれば、ほぼ安全かつ確実に殺すことができるかも。
毒とか持ってる奴でもこの方法なら何も問題ないし。
意外と賢いかもなフミカちゃん。
だからこの子はすでにLv.7なのか。
それと飛べるのうらやま。
──まあ、それでも死んでたまるかって話だけど。
不思議なんだけどさー、こんなめっちゃ死にそうな状況なのに、私思ったより恐怖を感じてないという。
それは蜥蜴になった影響なのか。
それとも私自身の性質なのかは分からない。
というかそんなことはどうでもいい。
この死ぬかもしれない状況。
ヒリヒリする感覚。
確かに怖いけど、なんだろう、少しだけ『生きてる!! 私!!』って感じがするんですけどそれは…………。
ヤバい!!
結婚できない要素がまた増えた!!
……いや、ね、蜥蜴になったので今更どうでもいいけど。
とりあえず、もはや生きることを諦めた哀れな爬虫類の演技を全力でしておこう。
今無理に暴れて、フミカちゃんのドラゴンな爪とかがくい込んで死んだら笑えんし。
うわー、高ーい。
めちゃくちゃ怖ーい。
でも……やるしかないな。
「きゅい〜きゅい〜きゅいっきゅいっきゅい〜」
コイツ……なんか歌ってね?
いや、は?
なんか凄い殺意湧いた。
「きゅいきゅーいー」
ばいばーい、とでも言ってんのかコノヤロウ。
ちなみに今私は、ドラゴンなフミカちゃんの後ろ右足に掴まれています。
力強すぎて、このまましばらく掴まれてるだけでも死にそうです。
そのお腹への圧迫感が───唐突に無くなった。
そして自由落下を始める私。
ずっと待っていたこの瞬間。
生き残るにはこの瞬間しかない。
フミカちゃんが1番油断するのはこの時だと思った。
だけど、私の手足ではもうどうにでもならない。
だから私は───無駄に長い尻尾を最高の集中力で操る。
フミカちゃんの足の爪に尻尾を巻き付け、それを基軸にしてぴょんっと飛び跳ねる。
いぇあ。
私の尻尾優秀。
「きゅ、きゅいッ!?」
ペタりとフミカちゃんの足に張り付いた私。
良かった、ちゃんと張り付けて。
それを見て少しだけフミカちゃんは驚いたように鳴いた。
うん、まだまだこれから。
私はチョロチョロとフミカちゃんの背中へ移動する。
「きゅぅぅううう!!」
ぎゃぁぁぁああああ。
フミカちゃんは凄く嫌だったのか、高速飛行で私を振り落とそうとする。
凄まじい風圧。
だけど私の張り付きも結構強力。
全然剥がれない。
ヌワぁぁぁあああ。
ジェットコースターとは比べ物にならない怖さ。
試しに私はフミカちゃんの背中に噛み付いてみる。
うん、鱗が硬すぎて牙が通らない。
知ってた。
このチート生物め。
そんな私の気持ちを他所に、フミカちゃんは高速に飛んでは急停止、落下からの急上昇、そして旋回って感じで、いろんな方法で私を振り落とそうとしてきた。
……いや、想定より飛ぶの上手いな。
元人間だしもうちょい下手だと思ってたよやべー……。
あ、でも私も尻尾を手足のように動かせるしおあいこかな。
……ん、普通に飛ぶ方がすごくね?
「きゅい!! きゅい!! きゅいぃぃいい!!」
あれー、だいぶイラついてるなフミカちゃん。
まあ、それでも剥がれてやらないけど。
私のいじめっ子心みたいなのがうずくよ。
こんな状況なのに。
それから私は、振り落とされないようにめちゃくちゃ注意しながら、チョロチョロとフミカちゃんの首まで移動する。
私が観察した限りでは、こんなファンタジー最強生物にも弱点はある。
それはこの子がまだ『ベイビー』のせいか、手が発達してなくて短く、首筋にいる私まで届かないということ。
だから這い寄る私を振り落とすために、フミカちゃんは首を振ることしかできない。
しかも首も細いので、私は尻尾を巻き付けてさらに身体を安定させる。
うん、さっきより全然安心できる。
「きゅきゅきゅきゅぅぅうううう!!!」
いえーい、嫌がってる。
でもまだこれからだよ。
さらなる地獄を見せてやるからなこのクソやろう。
私も死ぬかもしれない賭けだけど、生き残るためにはこれしかない。
この子の身体は鋼のように硬い。
多分どこにも私の牙も爪も通らない。
───“あの部位”意外は。
私はフミカちゃんの長い首をさらによじ登り、そして───“目”に噛み付いた。
「きゅぐぅぅううぅぅうぅぅうううう!!!!!」
牙が通った感触アリ。
ざまぁみやがれクソが。
蜥蜴だと思って甘く見やがって。
《スキル〈毒牙〉のレベルが上がりました》
《スキル〈毒牙〉のレベルが上がりました》
目に噛み付いてから、フミカちゃんの飛行がより一層荒々しくなる。
それでも私は噛み付くことを止めない。
むしろ顎に力を入れる。
それからしばらく必死に耐えていると、少しずつ下降し始めた。
うん、明らかに弱ってるねフミカちゃん。
あれ、毒効いてる?
ドラゴンにも効くんだ毒、よかったー。
って、ぎゅぁぁぁああああ!!!
おちるぅぅううううう!!!
うぬあぁぁぁああ、は、死んだかと思った……。
フミカちゃんはまだ死んでいない。
落ちそうで落ちないのがその証拠。
まだギリ飛ぶ力が残ってる。
「きゅう………きゅきゅ…………きゅ…………」
よし、確実に弱ってるな。
毒最高。
くたばれクソドラゴン。
こ、この高さならもう落ちても死なない……かな?
って、なんだかんだココってうちのアパートの屋上じゃね?
どんな確率だよ。
暴れ回ってるうちに元居た場所に戻ってくるとか。
まあいいや。
トドメさしてやる。
ガブリ
私はフミカちゃんの目を───かじった。
ムシャムシャ。
んーマサオ蜘蛛の方が好きなお味。
《新たに称号『竜喰い』を獲得しました》
《新たに称号『悪辣』を獲得しました》
《新たに称号『悪食』を獲得しました》
《新たに称号『残虐』を獲得しました》
《カルマ値が大幅に下降しました》
「きゅぎゅぅぅぅうううう!!! ぎゅぅぅうううう!!! ぎゅうぎゅうぎゅううううう!!!」
地面が近づいてきた。
タイミングを計って、ぴょんっと跳ぶ。
ピタッと着地。
……いや、本当はちょっと痛い……。
強がった。
でもさすが私。
さすが爬虫類。
それとほぼ同時に、ドサッ、とドラゴンなフミカちゃんが落ちてきた。
しばらくピクピクと動いていたから観察していたら、すぐにフミカちゃんは動かなくなった。
それを確認して、私の緊張の糸はようやく切れる。
ふぅ。
疲れた。
……ん、待てそういえば、フミカちゃんにはこういう瞬間を狙われたんだ。
はやくお家戻ろっと。
あ、一応フミカちゃんの死体もお持ち帰りで。
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《個体名『ユウナ』のレベルが上がりました》
《レベルが一定値に達したため進化が可能です》
《カルマ値が下降しました》
《新たにスキル〈恐怖耐性〉を獲得しました》
《新たにスキル〈気絶耐性〉を獲得しました》
《新たにスキル〈打撃耐性〉を獲得しました》
《スキル〈恐怖耐性〉のレベルが上がりました》
《スキル〈恐怖耐性〉のレベルが上がりました》
《スキル〈気絶耐性〉のレベルが上がりました》
《スキル〈気絶耐性〉のレベルが上がりました》
《スキル〈打撃耐性〉のレベルが上がりました》
《新たに称号『最初の竜殺し』を獲得しました》
《新たに称号『大物喰らい』を獲得しました》
《新たに称号『大胆不敵』を獲得しました》
《新たに称号『ドラゴンライダー』を獲得しました》
だーうるさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます