001:ドラ〇エみたい。


 ちくしょうが。

 なんだってんだ。

 なんだって私は蜥蜴にされたんだ。

 もし、私が何者かの手によって蜥蜴に変えられたのだとしたら、だとしたら……。


 絶対にソイツはぶち殺してやる。


 はぁ。

 とりあえずこの溢れる殺意は心の奥にしまっておこう。

 うーん。

 私は改めて鏡に映る姿をまじまじと見る。

 見たこともない蜥蜴。

 黒い。トゲトゲしてる。

 全体的に鎧っぽい。小さい。

 危険生物に指定されてそう。


 なんだこれー。

 こんなん見たことないよー。

 いや、そもそも爬虫類に詳しいわけではないけど。

 少なくとも日本にはいない気がする。

 外国産か。

 外国産の蜥蜴にされたんか私。

 ふざけんな。


 私が一周まわって冷静になった頭で、現状を分析していたとき───突然、脳内に情報が提示された。



 名前:ユウナ

 種族:ロワーリトルバジラリザード

 LV:1

 属性:中立

 カルマ:0

 ランク:E 

 【スキル】

〈毒牙Lv.1〉〈毒爪Lv.1〉〈毒耐性Lv.1〉〈孤独耐性Lv.3〉

 【称号】

『孤独』『獰猛』

 


 …………。


 ドラ〇エみたい。

 え、何コレ。

 何コレマジで。

 ドラ〇エみたいなステータスでたぁ。


 んー。

 やっぱりドラ〇エは『9』が1番好きだなー私は。

 いや、もちろん全て神ゲーであることには変わりないけど。

 ……って、現実逃避してる場合じゃない。


 なんだろこれ。

 今も鮮明に見えるこれはなに。

 やっぱあれか。

 ステータスなのか。

 誰かが世界をドラ〇エみたいにしたの……?

 ……ヤバくね。


 それ普通に人間ができることじゃなくね?

 何が起きてんのこの世界……。

 どうなっちゃったの私……。


 あ、どうなったかは分かる。

 私は『ロワーリトルバジラリザード』にされたんだろう。

 うむ、わからん。

 『リザード』が『蜥蜴』なのは分かる。

 やっぱ蜥蜴なのだ、私。

 

 ロワーはたぶん『lower』かな。

 意味は確か“下等な”……。

 ……私、下等生物。

 誰が下等生物だコラ。

 

 リトルはリトル。

 バジラに至っては意味不明。

 どうやら私は、ロワーでリトルでバジラなリザードらしい。

 ん、種族名長い。

 

 そして次はスキル。

 最初に思ったのは毒々しいな、ってこと。

 〈毒牙Lv.1〉に〈毒爪Lv.1〉に〈毒耐性Lv.1〉って。

 やっぱり害悪生物だった、私。

 毒々しいよ。 


 ……でもさ、〈孤独耐性Lv.3〉って何?

 なんでこのスキルだけ既にLv.3なの。

 喧嘩売ってんの?

 あと称号の〈孤独〉と〈獰猛〉って何?

 やっぱ喧嘩売ってるだろこのやろう。

 

 辛くないもん。

 独身だからって別に辛くないもん。

 結構満喫してるしー。

 なんならー、一生独身でもいいかなーなんて思ってるしー。


 …………。


 それと私は獰猛でもない。

 いや、失礼すぎないかこの称号。

 一応、レディーなんですけど私。

 レディーに獰猛はないでしょ、獰猛は。


 はぁー。

 さてさて。

 不思議な世界になったもんだなー。

 これからどうすればいいんだろ。

 私は蜥蜴として生きていかなくてはならないのか……。

 

 地獄かっ!!

 人間に見つかったら絶対駆除されるよ。

 外来種許すまじな奴らに狙われ続ける人生、いや蜥蜴生。

 くそったれ。

 

 ん、そういえば───こうなったのは私だけなのかな?


 もし私だけ蜥蜴にされたのだとしたらなんの嫌がらせだろうか。

 そのときは本気で神を呪おう。

 毎日必ず2時間は呪いを捧げて生きていこう。

 

 外の様子が気になった私はトコトコとベランダに向かう。

 試しに全力で走ってみる。

 すると、元から四足歩行だったんじゃないかというほど違和感なく走れる。

 慣れたのかな。


 まあ運動は元々嫌いじゃないし。

 ってか、意外と速く走れるな。

 なんだか楽しくなってきた。


 私はベランダに向かう前にリビングをぐるぐると走り回ってみる。

 予想外に速く動く身体にテンションが少しだけ上がった。

 これなら駆除されないように逃げ回れそう。

 いぇーい。

 

 あ、そういえば壁とかも歩けるのだろうか。

 そういう種類はいるよね、たぶん。

 まあ壁の材質とか関係あると思うけど。

 試しにやってみよーっと。


 ペタペタっ。

 ペタペタペタっ。

 

 おー歩ける、というか登れる。

 凄く重力は感じるけど。

 すごーい、すごーい。

 感動感動。

 また少しだけテンション上がった。


 さーて、そろそろ外見てみようかな。

 しばらく壁を歩き回ってから私は地面に下りる。

 そしてベランダへと続く窓に近づいた。

 こんなにデカかったのか。

 驚きだわ。

 

 カーテンの裏に回り込んで、鍵を開ける。

 それだけでも一苦労だ。

 小さいって大変だなー。


 ……うむ。

 どうやって窓開けよう。

 今の私、小さい蜥蜴だってこと忘れてた。

 無理じゃね?

 部屋から出ることすら出来なくない?

 うわー。

 一人暮らしの戸締りスキルが裏目に出たー。

 今の私からしたらここは脱出不可能な監獄なんですけど。

 

 これ、詰んでね?

 ま、まあ、落ち着こう。

 ダメもとで窓開けられるかやってみよう。


 ぬわああああ。

 ほんのちょっとだけ開いた。

 あれ、これ意外といける?

 意外と力持ちだ私。


 ぬわああああ。

 はぁ、はぁ。

 よし、これくらいの隙間があれば十分か。

 私はなんとか開けることができた窓の隙間から外へ出る。


 ただ、小さくなってしまった私ではまだ外の景色を見ることができないのでペタペタと壁を登る。

 そしてようやく───



 ───なんだこれは。



 私の視界に映ったのは、天高く聳える壁。

 見渡すかぎりの壁である。

 なに……これ。

 もしかしてこの壁、『東京を囲んでいる』のだろうか。

 

 本当に何が起きているんだ。

 これは一体なんなんだ。

 もはやわけがわからん。

 いや、蜥蜴になってる時点でだいぶ意味は分からなかったけど。


 そして、私は不意にすぐ近くを走る道路に視線を落とした。

 ……あっ。

 何人か人間が倒れて……………………


 ぴょんっ、と私は跳んだ。

 うちのアパートの庭から生えている木に飛び乗る。

 それから全速力で木を駆け下り、壁を伝い道路脇に倒れている一人の人間の元へと到着。

 

 そして───


 ───ガブッ


 その人間の首筋に噛み付いた。


「痛っ! うわっ! な、なんだコイツ!!」


 な、何やってんだ私はぁぁぁあああ!!!

 

 私が噛み付いたことで意識を覚醒させたその人間は、慌てて私をはじき飛ばした。

 器用に着地した私は全力で逃げる。

 いやマジで何やってんの私。

 噛みつかずにはいられなかった。

 抗えないほどの欲求だった。


 《カルマ値が下降しました》

 《新たにスキル〈脱兎〉を獲得しました》

 《スキル〈毒牙〉のレベルが上がりました》

 《スキル〈脱兎〉のレベルが上がりました》

 《新たに称号『人類の敵』を獲得しました》

   

 なんか声が聴こえた。

 でも今はそれどころじゃない。

 高速でうちのベランダへと戻る。

 やばー。

 人間を見る時は今度から気をつけないと。

 なんじゃこれは。

 人間を襲いたい欲求が半端ない。

 

 私が噛み付いた人間は、周囲をキョロキョロと見渡してすぐさまどこかへ駆けていった。

 うん、それでも私の視界にはまだ数人倒れている人間が映っている。

 ガブッとしに行きたい。

 でも我慢しよう。

 人間のヘイトをかってあの蜥蜴を殺せーってなったら困るし。


 ──ん?

 その時、爬虫類となり広くなった視界の端に1匹の蜘蛛がいるのが見えた。

 私の右後ろの当たり。

 毒もってますよーって感じの紫色の蜘蛛。

 あー、蜘蛛だー。

 なんて思っていたらその蜘蛛は───私に飛びかかってきた。

 

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