モンスターで獰猛な優奈さんは魔物蔓延る東京で荒れ狂う

黒雪ゆきは

新宿編

000:くたばれ神このやろう。

 

 うわー、なんか落ちてくるわー。 

 あれ隕石?

 いやミサイルか?


 その時私は仕事終わりのビール片手に胡座をかきながら、部屋の窓からの光景を見てそんなことを思った。

 仕事終わり、帰宅して風呂に入って冷蔵庫からビールを取り出しているんだぞ。

 つまりそれはどういうことかわかるよな?

 

 最高にリラックスモードだったというわけだ。

 だからビールの最初の一口目を飲み干し、幸せな気持ちでぷはぁと呑気な声をあげながら“それ”が落ちてくるのを見ていた私を誰が責めることができようか。

 いーや、できない。

 つか、させない。

 

 ……あれ、私死ぬんじゃね?

 

 頭では分かっているような分かっていないようなフワフワした感じだったが、私のなかでは正直現実味があまりになかった。

 そんなことがあるわけないと心のどこかで思い、現実を見れていなかったんだ。

 

 いや、それが普通じゃないか?

 こちとら平和に慣れきってんのよ。

 友達が次々と結婚していき、親からもその荒い言葉遣い直さないとアンタ一生結婚できないわよとか小言を言われて、まだ26歳と自分に言い聞かせながらも若干の焦りを感じつつ日々を必死に生きてんの。


 平和の中で生きる私にとっての悩みなんてこんなもん。

 それが何?

 いきなり隕石だか、ミサイルだかが落ちてくるのが見えて死ぬかもしれないって?

 んなわけねぇだろがぁぁあああ!! って思うでしょ絶対。

 日々のストレスや未だ結婚の気配すらないという焦りが見せた幻覚だと思うでしょ絶対。

 

 でも───現実はどこまでも現実なわけで。


 次の瞬間には強烈な轟音と光が私を包み込み、尋常ではない衝撃波が私を吹き飛ばした。


 「うぎゃッ!」


 窓とかが割れたわけではない。

 今考えればめちゃくちゃ不思議。

 それでも、確かに衝撃波のような何かが私を吹き飛ばした。

 私、その時超リラックスモードだったの。

 めちゃめちゃ無防備だったのよ。

 当然抗う術などない。


 無様に頭から壁に激突して……ってところまでが私の覚えていること。



 そして現在─────



 ここどこよ。

 真っ暗なんですけど、停電?

 というか妙に狭い。

 どれだけ意識を失っていたかも分からない。

 不安、不安すぎる。

 ……もしかして、誰かに拉致られて監禁されてる?

 

 いやー、ないわー。

 どこぞのお嬢様でもない26歳独身の私を拉致ってなんのメリットがあるんだか。

 どうせ攫うならもっと若い子攫うでしょー。

 ………なんか悲しくなってきた。


 じゃあここはどこだろう。

 頭にカサカサと当たるこれは何?

 肌触りは悪くない……というか柔らかいな、なんだこれ。


 こんな意味不明な状況なのに自分でも驚くほど冷静だった。

 そんな私カッコよ〜とかふざける余裕すらあった。

 まあ、それに対して若干違和感を覚えはしたんだけどそこまで気にならなかった。


 とりあえず、出口探しますかねー。

 私はゆっくりと歩きだした。

 手さぐりしながら、恐る恐る。

 

 そして───すんごい不思議な感覚を味わった。


 身体が動かしにくい。

 なんじゃこりゃ。

 なんだろこれ。

 自分の身体じゃないかのような、今まで体験したことない不気味な感覚。

 

 打ちどころが悪かったのかな。

 うん、病院行こ。

 これはなんだか不味い気がする。

 

 言い表せないような恐怖にとらわれた私は、少しだけ歩調を早める。

 急に不安になってきたー。

 やばいやばい。

 大丈夫かなほんと。

 でも歩けてはいるし、そんなに深刻ではないかな。

 

 そんなこんなで歩いていると、出口は意外とすぐに見えてきた。

 あ、光だ。

 良かったー、とりあえずまずは病院…………に…………。


 ようやく暗闇を抜け、私の視界に広がったのは見慣れた私の部屋だった。

 あまりに見慣れすぎたアパートの一室。

 その光景を目の当たりにした私は安堵したか───否。

 

 むしろ逆。

 混乱しすぎて爆発しそうになった。

 それはなぜか。

 

 目に入る物全てが───デカかったのだ。


 めちゃくちゃデカい机。

 めちゃくちゃデカい冷蔵庫。

 めちゃくちゃデカい零れたビールの缶。

 

 あぁ、なんだ。

 ここは巨人の住居か。


 …………。


 …………。


 …………。


 ぬわああああぁぁぁああああああ!!!!


「キキイイイイィィィイイイイイイ!!!!」


 なななななんだこれはははは。

 ひーひーふー。

 ひーひーふー。

 なんだか妙に視界も低いし。

 というか今変な鳴き声聴こえたんだけど、怖っ!!


 ……ん、私の口から出なかったか?


 いろんな感情が濁流のように押し寄せ、私は思わず後ずさる。

 すると足に何かが触れて振り返る。

 え、これって、私がさっきまで着てた…………服?

 

 ふぅー。

 これはつまり、なんだ。

 私は自分の服の中から……出てきたのか。


 …………。


 首が上手く動かせない。

 だけど……私の視界の端にはバッチリと映った。

 トゲトゲしい爬虫類の足が。


 …………。


 ぬわああああぁぁぁああああああ!!!!


「キキイイイイィィィイイイイイイ!!!!」


 なんじゃこりゃぁぁあああ!!

 ざっけんなっ!!

 ざっけんなよマジでっ!!


 そういえば、私めっちゃ四足歩行になってるぅぅうう。

 あまりに自然過ぎてきづかなかったよ。

 何コレマジで。

 なんの呪い?

 なんで私がこんな目にぃぃいいい。

 私が何したってんだぁぁあああ。


 もしかして夢…………んなわけねぇだろ!!


 このリアルさで夢とかありえねー。

 そもそも私、夢なんてまったく見ないし。

 

 ちょっと動いてみる。

 思い通りに動いた。

 

 うむうむ。

 私はトコトコと歩いて、姿見のある場所へと向かう。

 そしてそこに映ったものを確認する。

 

 うむうむ。

 おおいに予想通り。

 めちゃくちゃ蜥蜴だった。













 くたばれ神このやろう。

 

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