24.お前になら殺されてもいい

 昔からそうなんだが気にいた人ができて,その相手を認めるようになると決まって夢を見る。

内容からして確かにおかしいと思うんだが,毎回同じような内容になっていて奇妙な面白さがあるんだよ。

こんな天邪鬼な俺には似合いな感じだと思うんだが,恐らく俺自身の素直な気持ちの表れなんあろうと思っている。

それにかなりのリアリティ感があってスリル満点な感じなんだよ。


 やや興奮気味にU-Maは話をしている。

今日はJR線K駅近くの焼き鳥屋に入っていた。

二人とも焼き鳥をつまみながら日本酒をすでに五合以上飲んでいた。

私も寄っているのがわかる程度なのでまだ少しは大丈夫だろうと思っているが,U-Maは嬉しそうに話を始めたのだった。


 さて肝心の内容はこんな感じだ。

時間的には大体夕暮れ時,いや逢魔が時でこの時間が変わることはない。

場所は毎回変わったりするが,時々同じ場合もある。

もしかしたら他の人もそうなのかもしれないが,必ずこれは夢を見ているって自覚があるんだよ。

ただいつも色もはっきりしていて,おまけに痛みまでリアルに感じるんだから,これまたたまらないって感じだ。


…痛み?


私は夢で色がはっきり見えていたり,痛みを感じるとはと,すでに異常な話を聞き始めてしまったことにやや後悔をする。

そんな思いとは別にU-Maは楽しそうに話を続ける。


でもまあ,時間帯や場所自体には大した意味はないと思っている。

その後の展開も大体一緒なんだが,最終的にはその気に入った相手に俺が殺されるんだよ。


U-Maは珍しくも無邪気な笑顔でそう言った。

私が口に運ぼうとしていた焼き鳥の串を止めるには十分な内容であった。

私には違和感しか感じられなかったが,当の本人であるU-Maは嬉々として話を進める。


いくつか例を挙げてみるとだな…。


1.俺が夕暮れ時に河原の土手を歩いている。

  すると前の方から今回の主役Hさん(仮)が歩いているのが見える。

  最初はボンヤリと,だが少しずつ八キルト見えるようになると,

  手には得物(日本刀)を持っているのがわかる。

  Hさんは怪しげな表情で笑みを浮かべながら歩いているんだが,

  そのうち俺と目が合う。

  それを合図に得物を振り上げると俺に向かって走ってくる。

  その時点で遅いんだが,俺は驚いて後ろに向かって逃げ始める。

  すぐに追いつかれてしまい,太もものあたりを斬られて転んでしまう。

  転んでからHさんを見ようと振り返った途端に得物で腹を刺される。

  Hさんは狂気に満ちた笑みを浮かべたまま,ニヤニヤと得物をグリグリと回す。

  真っ赤な血が腹からも溢れ出て土手に拡がっていく。

  苦痛に耐えながらも俺は止めてもらおうと手を上げるとHさんは素早く得物を

  引き抜くと横に一閃する。

  ドサッと俺の横に腕が落ちて,斬り落とされたことに気づく。

  なくなった腕に心臓は血を送ろうとしてるようで,勢いよく斬られた箇所から

  血が噴き出す。

  少し経ち,噴き出していた血の勢いが収まった頃,得物が俺の喉に深く刺されて

  俺は絶命する。

  と同時に目が覚める。


2.俺が夕暮れ時に近所を歩いている。

  すると後ろの方から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

  俺が振り返ると紺顔の主役Mさん(仮)が俺を呼びながら走ってきているのが

  見えてくる。

  そして両手には大きな得物(死神の鎌)を振り回している。

  俺は急いで逃げ始める。

  なぜから俺を呼ぶ声は後ろから聞こえているのにMさんは横道から出てきたり,

  前から現れたりするのだが何とか俺は逃げている。

  そのうちに大きな道路を渡る歩道橋まで辿り着き,歩道橋を渡ろうと階段を

  上がり始めた俺の右肩にザクっと獲物が刺さる。

  そしてMさんはそのまま斜めにじわじわと斬っていく。

  ゆっくりと確実に俺が痛みを感じるようにジュクジュクと大きな刃が進んで

  いく。

  腰のあたりまで進むと刃が外れて,そのまま階段の途中で倒れてしまう。

  背中の痛みに耐えながら,それでも逃げようと這った状態で歩道橋の階段を

  少しずつ上がっていく。

  すると右足の脹脛に得物が刺され,そこから左足の脹脛も同じように刺される。

  背中と両足からはドクドクと血が流れ出ている。

  まだなお生きている俺は逃げようと何とか最上段まで着くと手すりに捕まり

  ながら立ち上がると歩道橋を渡り始める。

  ちょうど真ん中あたりまで進むとすさまじい力で獲物が真一文字に振られ,

  俺の体は上半身と下半身とに真っ二つに斬られる。

  下半身はほんの少しの間,前に進もうとして先決を吹き出しながら倒れると

  ピクピクと痙攣しているが,そのうちにそれも収まる。

  上半身は苦痛と驚愕の表情を浮かべながら斬られた勢いで道路に落ちていき,

  そのまま通りがかったトラックに轢かれる。

  グシャリと耳障りな音が響き,そのまま上半身はバラバラになりながら

  巻き込まれていく。

  と同時に目が覚める。


3.俺が夕暮れ時に公園のベンチに座っている。

  するとすぐ後ろから今回の主役のSさん(仮)が抱き着いてくる。

  振り返ろうとした瞬間,Sさんが手に持っていた得物(包丁)で喉を掻き

  切られる。

  斬られた喉と口から鮮血が流れる。

  そのままSさんは得物を持ち替えると今度は胸や腹のあたりをメッタ刺しに

  する。

  得物が刺し抜かれたところから新たな血が溢れ出る。

  とどめとばかりにSさんは得物を高く上げると首の後ろ側をめがけて思い切り

  突き刺す。

  と同時に目が覚める。


 とまあ,こんな感じに俺は次々と気に入った人に殺されるんだ。

多いときは一人だけで五回以上殺されることもあるんだが,一方的に殺されるし,とにかくとても痛い。

でも不思議なことにほとんど得物は刃物と決まっていて,銃などの飛び道具はまずない。

ただ目が覚めた時には決まって気分は悪いし,実際に出血していることはないんだが,やられたところはちょっと耐えられない痛みが残っている。

とはいえ,これも俺の思いの一つなんだろうと思っているんだがな。


私は「まあ,そうだろう」と思った。


やや興奮はしているものの,いつも通りに淡々と話していることに私は胃のあたりが寒くなる。

ただ酒を飲んでいるとはいえ,食事の最中に話すような内容ではないと思う。

夢の中でとはいえ,自分が殺されるのを楽しそうに話しているU-Maが羨ましくも今は嫌だった。

そしてU-Maは笑顔で続けた。


「つい昨夜も殺される夢を見たんだが…その相手はお前さんだったよ。」


やや気分が悪くなったが,私は強がってこう口には出した。


「そいつは光栄だね。

 ただ食事中には合わない話かもな。

 じゃないとユッケを美味しく食べられなくなりそうだよ。」


U-Maは屈託のない無邪気な笑顔で続けた。


「そんな奴だからお前さんのことを気に入っているのさ。」


私は暗い気持ちを抑えることができず,そうかとつぶやいた。

そして会計を済ませるとその日は解散をした。

駅で別れるまで何気ない会話をしたような気もするが,頭には残っていなかった。

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