23.いつも寄り添うもの
今日はJR線Y駅近くのドイツビール専門店に来ていた。
とりあえず今日は珍しく二人とも酔っぱらっている。
「ペットって好きなんだよな。
ちゃんと面倒を見ることができないから手が出せないんだけどな。」
やや苦笑いを浮かべながらU-Maはジョッキに残っていたビールを煽った。
「しかも俺は猫の方が好きなんだけど,犬に好かれやすいみたいなんだよ。」
流石にビールだけとはいえ,一リットル単位で三杯も空けていれば大体の人は酔っぱらうだろう。
私はややふらふらする頭で何となく思っていた。
この時,なぜかペットの話になって昔話に盛り上がっていた。
昔は蛇やトカゲを捕まえて帰って怒られたことや,ザリガニを何十匹も捕って帰ってタライに入れて一晩明けたら共食いをしていてほとんどいなくなっていたことなど,小さい頃の話に花を咲かせていたのだった。
そのうちU-Maがポツポツと話を始めた。
先ほどとは打って変わって昔を懐かしむように淡々と…。
俺が小学生の時は五軒並んだ長屋に住んでいたんだ。
O府S市だったが意外と自然が多くて,池や川や森に林,田んぼ,畑と遊ぶには十分なほど色々と揃っていた。
だからさっきも言った通り,蛇や蜥蜴なんかも捕まえたりできたんだと思う。
そんな中,母親が餌をやっていた野良犬が長屋の軒下に住み始めたんだ。
雑種の真っ白い犬だったから,みんな「シロ」と名付けて呼んでいた。
ただ飼っていたわけじゃないから首輪もつけなかったし,散歩に連れていくこともなかった。
シロも野良犬らしく,日が昇ると何処かへ行ってしまい,餌をやる夕方になると軒下に戻ってくる感じだった。
意外と賢い犬だったんだと思う。
今のご時世じゃこういったことも難しいだろうが,昔はそんなのもアリだった。
それに結構人懐っこい犬だったから,俺も可愛がっていたんだ。
たまにおやつを分けてやったり,頭を撫でたりしたが,嬉しそうにしっぽを振っていたっけ。
しばらくしてシロは軒下に戻ってこなくなった。
突然戻らなくなったことには驚いたが,母親も特に何も言わなかった。
今にして思えば,事故に遭って死んだか,保健所に捕まったのかだと思うが,当時の俺はシロは野良犬だからまた何処かに行ったんだろうと素直に思っていた。
その後,O府からK県に引っ越し,十年以上も経つと俺の中でもシロのことは思い出の片隅に積まれている状態だった。
そんな中,陰陽系の霊能者と知り合いになり,ふと予期せぬ会話で思い出すこととなった。
「あの,もしかしたら突然犬に吠えられることとかありませんか。」
その霊能者は俺を見るなり,そう話しかけてきた。
「確かにありますね。たまにですが…。」
と俺が返すと,
「そうですよね。
あなたの後ろに白い犬がいるので,気になった犬があなたを吠えるようです。
害はないと思いますが,外しましょうか?」
そう聞いた途端,驚きとともに朧気ながらだがシロの姿が目に浮かんだ。
「いや,別に害がないなら大丈夫ですよ。
あのシロがね。
教えてくれてありがとうございます。」
俺自身はわからないが,俺にはいつもシロという犬が憑いて回っているらしい。
ふとその時思ったんだ。
何がではないが,誰かに好かれるのはいいもんだなってな。
そういうとU-Maは満足したように眠りに落ちてしまった。
私は流石にまずいと思い,急いで店員を呼ぶと会計を頼んだ。
精算を済ませてからU-Maを起こすのが,その日一番の大変な仕事だったことはヒミツである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます