22.窓に映る顔
何日か寒い日が続いたので,JR線A駅近くのもつ鍋屋に入った。
もつ鍋とつまみに刺身の盛り合わせを頼み,待つ間に熱燗をチビチビとやっていた。
U-Maは壁にかかっていた「翁」と「おかめ」の面を見ながらいつものように話を始めた。
数年前の話,当時の会社で女性の新入社員から相談を受けたものだ。
その新人は会社から準備された社員寮に住んでいた。
社員寮といっても職場からそう遠くない場所に会社名義で賃貸マンションを借りて,家賃の一部を社員が負担する形式を取っていた。
相談の内容は何でも「住んでいるマンションで怖い現象が起きるから一緒に来て見てほしい」ってことだった。
俺は特に霊能者でも霊媒師でもないが,困っている新人を放っておくほど冷血漢でもないと思うので快諾して一緒に行ってみることにした。
場所は東京メトロC線のK駅で徒歩数分のところにあるマンションだった。
ちょうど大きめの道路に面したマンションで,一階がコンビニだったので酒とつまみをいくつか買って山塊にある新人の家にお邪魔させてもらった。
まあ,部屋の状態についてはコメントを控えることにした。
人を呼ぶつもりがあるならもう少しは…とも思ったが,本人もそれだけ切羽詰まっていることなんだろうと思うことにした。
とりあえず酒とつまみをあけて話を聞きながら飲むことにした。
新人からは怖い現象は家に着いてからしばらく経つと妙な音が聞こえたり,変な視線を感じるとのことだった。
確かに玄関から部屋に案内されたとき,微妙な違和感や影のようなものを感じたが気にするレベルのものではなかった。
仕事のアドバイスをしながらビールを空けてしまい,つまみも無くなりかけた頃,確かに誰かに見られているような気配がした。
新人も気が付いたようで目配せで俺に訴えてきた。
いったん落ち着くように新人に伝え,俺は視線を感じる方向,ちょうど俺の背中側の方に振り返って見てみた。
果たして俺の目に入ってきたのは明り取りの窓から真っ白な面のような顔がじっとこちらを見ている光景だった。
当然の如く無表情で虚ろな目をしていた。
しかも顔だけが見えていて他は見えず,悪意は感じられなもののとても不気味だった。
この部屋は三階にあり,角部屋となっているので普通ではありえない光景だった。
幸いにも新人にはこちらを見ている白い顔は見えていないようだったので少し嘘を交えて伝えた。
無理に怖がらせる必要もないと思ったからだ。
「確かにそこの明り取りの窓から視線は感じるものの,悪意はなさそうだから
とりあえずは安心していい。ただそれでも気になるなら俺の知っているところの
御守りを買ってくるといいよ。」
と…。
それで安心したのか,新人から感謝の言葉を投げかけられた。
後日,新人から俺の教えた御守りを買ってみたら変な現象は起きなくなったと報告してくれた。
その後,プロジェクトが変わって引っ越したと聞いたが,今はどうなっているかはわからない。
あの時の白い顔といったら本当に面のようだったから,白い面を見るとついその時のことを思い出しちゃうんだよ。
彼は笑っていたが,良い話ではないと思った。
その時にちょうど鍋が運ばれてきたので,私は追加の熱燗を頼んだ。
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