19.Sの悪魔
今日はU-MaとJR線S駅東口近くにある沖縄ソーキ蕎麦屋に来ていた。
U-Maの知っている店らしく、20年以上前からあるらしい。
今ではその近辺に何店舗が並んでいるのが見えて、結構繁盛しているのだろと私は思った。
とりあえずビールとつまみの食券を買って、カウンターに並んで座った。
今では懐かしい瓶ビールが来ると、お互いのコップに注ぎ、乾杯をする。
何杯目かのビールを空けると、ここSにはいろいろと思い出があるんだが、と話し始めた。
一九九十年代、ちょうど二十七歳くらいの時だったと思うが、俺はネットの知り合いから「Sの悪魔」という通り名で呼ばれていたことがある。
とはいえ、ネット界隈のごく一部の間の話だがな。(笑)
ただ何てことはない、オフ会で頼まれて占いをやっていただけなんだが、占った相手が言うには悪い内容の的中率が100%だったから「Sの悪魔」が仲間内で定着したって訳だ。
もともとは演劇の師匠に占いをやった時にたまたま付けられたものだったが、当時「Sの母」なる占い師が流行っていたこと。
それに女神転生好きであるため「悪魔」の響きが結構気に入っていたのもあり、使っていた感じだった。
中学生の時に人間に対して良くわからない絶望を抱いていた俺は、その反動だったのか、人間そのものじゃなくて人間の可能性に微かな希望をもって占いに興味を持った。
高校生になってから勉強し始めて二十五年ほど続けていたのだが、あることがきっかけで気付いた。
・人を恨んでも過去には戻れないこと
・過去だけを見ていても変われないこと
・今のままではいつまでも未来につながらないこと
に気付き、何故か何事も前向きに考えるようになった。
それからは占いをぱったりとやめてしまった。
歴は長いものの趣味でやっていたものだし、他にもやりたいことができたことも大きかった。
知り合いには「それだけ当たるんだから、占いで生計を立てたら?」と言われたこともあったし、一時期はインターネットを使って依頼者を募ったりしたこともある。
俺の言い分としては、
・無償だし素人なので占いの結果に責任を持ちたくなかったこと
・何となくお金をもらうことに気が引けていたこと
・既に定職についていて生活が安定していたこと
だったこともあった。
それに人間に対する怨みで始めたことだった事もあって、仕事として受け入れたくなかったのかもしれない。
ああ、どうやって占いをしていたかというとタロットカードを使っていたよ。
全部で78枚あるカードから、大アルカナと呼ばれる22枚のカードを使って占いをしていた。
これは俺の主観だが、タロットカード占いの魅力は占う側が並べたカードの意味と位置や方向によって読み取っていくところだと思う。
如何に配置されたカードをリーディング(読み解く)して相手に伝えるかが、人によって変わるところが面白いと思った。
俺が本を読んで学んだ占い方は2つ。
「ホロスコープ法」と呼ばれる13枚のカードを使った占いで最近の全般的な状況を見るものと、「ギリシャ十字法」と呼ばれる5枚のカードを使った問題解決を行うものだった。
そういえば、一度だけタロットカード占いの禁忌を破ったことがある。
それは出た結果を改ざんすることで、要は並べたカードの位置を故意に変えてしまうことかな。
占う相手は女性だったんだが、普段からよく飲みに行く人で仲が良かったのもあって、結果だけ伝えることにして一人で占いをしたんだが…。
並べた結果は良くない内容でこれを伝えたくないと思ってしまったんだ。
だから何度やっても同じような結果になったカードを1枚方向を逆にして、内容を改ざんして良い結果として伝えた。
その後、その女性は元々出ていた占いの結果よりも悲惨な状態となってしまい、二度と会えなくなってしまった。
俺自身もひどく体調を崩してしまい、一週間は寝込んでしまった。
確かに占いの本にも「出た結果を変えてはいけない」ような記述もあったし、何度か頼まれてその場でやり直しなどもやったことはあったが、より悪い結果しか出なかったと思う。
ただ、まさか自分の浅はかな行動がとてもひどい結果を招くとは想像していなかったから、驚いた以上に彼女には本当に申し訳ないことをしてしまった。
この結果はカードの魔力によるものなのか、俺の異常な能力のなせる業なのか、あるいは目に映らない何者かの作為だったのか、今となっては知る由もないし、知りたいとも思ってない。
でもまあ、人生なんて一度きりなのだから「人生は自分で切り拓くもの」って方が楽しいよな。
そう言ったとき、一瞬U-Maの存在が薄くなったような気がした。
ぎょっとなり見直したが、やはり気のせいだったらしい。
私の動向には知らぬ素振りで、U-Maはお奨めは普通のソーキ蕎麦だと言って、自分と私の分を頼むべく食券を買いに行った。
食券を買っているU-Maの姿を見ながら、何やら得体のしれない感覚に襲われているのだった。
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