18.変な臭い

今日はU-Maを連れてJR線S駅付近にある牡蠣が食べ放題の店に来ていた。

私は牡蠣は好きな方なので、たまに食べたくなるとこの店に来ていた。

やはり牡蠣には日本酒が合うと思いながら、ささやかなひと時を楽しんでいるた。

牡蠣の焼ける臭いがいいなとつぶやきながらU-Maが話し始めた。


 10年ほど前だったと思うが、近所のアパートで自殺者が出たと家族から聞かされた。

確かに帰り道に現場近くを通った時に変な刺激臭が鼻についたことを思い出した。

亡くなったのは一人暮らしの方で、塩素系洗剤を使用しての自殺だったらしい。

本人はそれで本望だったのかもしれないが、近所に住んでいる方にはとっては、かなりの迷惑行為でしかない。

追い詰められて正しい判断ができなかったのだと思うが、仕方ないで済まされる話でもないだろう。

数日間は現場となったアパート近くを通るたびに変な臭いが鼻についた。

イヤな臭いだとは思ったが、亡くなった方はどんな思いを秘めてこの臭いと自信の苦しみに臨んだのか、少し引っかかるものがあった。

とはいえ、そんな疑問を知る術もないし、その後、すぐに忘れてしまったのだがな(笑)。

何か月か経った後、その部屋は何もなかったかのように知らない誰かが住んでいた。

当然、事故物件と知って住み始めたのだろうが、ほんの少し複雑な気分だった。


 そういえば話しながら思い出したんだが、子供の頃、家から少し離れた林で遊んでいた時のことだったと思う。

ちょうど風下にいたのだろうが、何か腐ったような、変な臭いがすることに気づいた。

気になって臭いをたどると真っ白な毛をした猫が横たわっていた。

遠目に見た時は猫が横たわっているように見えたのだが、正確には猫の死体が横たわっていたのだった。

そして、見つけなければ良かったと思った。


 猫は死んでしばらく経っていたのだろう。

白い毛の間にびっしりと蛆が湧いていて、もぞもぞと蠢いているのだった。

そのもぞもぞと動いている様子は、今の俺が見ても引いてしまうほど気色悪いものでしかなかった。

腐臭とその光景は子供の俺にとっては恐怖足りえた。

鳥肌が立ったかと思うと、胃の方でも色々と込み上げてしまい、猫の上に吐いてしまった。

さらにイやな臭いも加わった上に猫に湧いている蛆の動きも激しくなり、ある意味地獄に等しかった。

にも関わらず、俺は目が離せないでいた。

気持ちとしては早く逃げ出したいのに、身体は動かずにいる。

何かに魅入られたかのように、じっと猫の死体に群がる蛆の動きを見ていた。

しばらくしてぶぅーんという蜂らしい羽音で我に返り家へと逃げ帰った。


 それからしばらくの間、と言っても10年以上続いたのだが、一か所に虫が群がっているのを見ると、鳥肌が立ち、吐き気を催すようになった。

例えば、港近くの防波堤にあるテトラポットに張り付いているフナムシが一斉に動く様子などはダメだった。

今でこそ平気にはなかったが、見かける機会自体も減ったのもあるのだと思う。

ただ腐臭だけは今でもダメなままなんだよな。

あ、それは結構普通かな。


そう言うと店の中の臭いを堪能しているのだろうか、目を瞑り鼻を引くつかせている。

私はというと聞いた話を想像してしまい、少しイやな気分になったが口に出してはこういった。

「私は焼けてる臭いは苦手だから、食べるなら生の方がいいかな。」

ふとU-Maは目を丸くして私を見ていたが、ニヤリとするとその方が楽でいいとまた臭いを堪能し始めた。

私はその姿を見て深く考えるのはよそうと思った。

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