11.東海道四谷怪談

今日はU-MaとJR線T駅Y口にある中華料理屋に入っていた。

餃子でも食べながら紹興酒を飲みたかったからなのだが、U-Maはいつもの如く話し始めた。


 あれは、まだ5歳の頃だったと思う。

何が怖かったのかはもうほとんど覚えてはいないが、ただとても怖い思いをしたことだけを今も覚えている。


 母方の実家に連れられて行った時にたまたまTVで流れていた映画をみんなで見ていたのが「東海道四谷怪談」だった。

四谷怪談と言えば、日本の怪談話でもトップクラスの話だと思う。

「人の怨念」というものの存在、そして死んでも恨みを晴らす姿はスゴイを通り越して天晴でもあると個人的には思っている。

俺自身も何年か前までは人自身を呪うことで生き永らえてきていた身だから理解しやすいんだと思う。


 今でこそホラー系やスプラッター系の映画を好んで観ることが多いが、当時で考えると「よくわからないものへの恐怖」「お化け(幽霊)を画面を通して初めて見た恐怖」そして何より「怖くて嫌がる俺に対して笑いながらムリヤリ押さえつけられながら見させられた恐怖」それらが入り混じってとても怖いイメージとして俺の中に残ったようだった。

というのは、それ以来、しばらく毎晩同じ夢を繰り返し見ることになったからだ。

内容はこんな感じだった。


 5歳の俺が一人で古いアパートらしき建物の前を歩いている。

建物の端まで行くと上に続く緑色の幌がかかった階段があり、それを俺はのぼっていく。階段はどこまでも続いていて、上に行くほどに回りも暗くなっていく。

階段をのぼりながら俺は泣いているのだが、足を止めることなく上へと向かっていく。まるで何かに引っ張られているかのように、長く暗くなっていく階段をのぼり続けるのだ。

そして自分自身の見分けがつかないほど暗い闇に全身が覆われた時、にゅっとどこからか伸びてきた真っ白な2本の腕につかまれて闇の中の部屋らしき空間に引きずり込まれる。

引きずり込まれながら俺は悲鳴を上げている。

とまあこんな感じだったと思うが、寝ながらリアルに悲鳴を上げていたらしく決まって母に起こされていた。

いつからか母も泣きながらムリヤリ「東海道四谷怪談」を見せたことを謝っていた。


恐らくだが、これが俺の人生初の「トラウマ」なんだったと思う。


 今考えると5歳でその状態ってどうかと思うが、この「トラウマ」がなかったら今の俺もいなかったと思う。

幽霊や怪物などの未知のものへの興味や、ミステリーやファンタジーなどへの興味も今ほどはなかったのではないかと思うからだ。

他にも神話や、魔術、呪術、占いなどへの興味もなかったかもしれない。

だから、結果オーライってことで良しとしている。


ただ、今の俺が一番怖いのは今を生きている「人間」かなって思う。

生きている「人間」ってのは、想定外の思考や想像を超える行動をしてくるからだ。

だからそれが逆に面白いって反面、怖いって感じることが多いってことかな。

それに比べたら関わる関わらないはともかく、死んだ「人間」は思考は変わらないし、決まった行動しかしないから、まだ対処のしようはあるし、まだマシってことかな。今の令和じゃ親・親戚のやったことは虐待以外の何者でもないけどなw


私は聞き終えて、ヘラヘラと笑いながら怖いことをいうヤツだと思った。

ただ、U-Maの親は逆にとんでもないモンスターを生み出したのでは?と考えてしまったのだが、口には出さなかった。

とりあえず私は「そうなんだ」と言いながら、紹興酒の香りを楽しみつつグラスを一気にあおった。

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