4.初めての経験

JR線U駅近辺のU公園でレモンサワーの500ml缶を片手に夜桜見物をしている時に,U-Maは思い出したかのように話し始めた。


ふと今までを振り返るとこういった経験をし始めたのは,いつの頃からだったろうかと思うにいたった。

別に何てことはない,高校三年生になって家族で抽選で当たった県営住宅に引っ越した後からだ。

鍵付きではなかったものの,初めて自分の部屋を割り当てられて嬉しかったことを覚えている。

確か家の中心から見て北西の位置で夕方には西日が入ってくる洋室だった。

窓の外を見るとJR相模線が走っており,最初はその走行音で眠れなかった。

ちょうど線路と県営住宅の間にH川が流れていた。


初めてそれらの現象に気付いたのは,引っ越してから約一か月経った頃だろうか。

真冬の夜だというのに窓を開けて寝ていると,H川の方から何やら聞こえてくる泣き声に目が覚めた。

その鳴き声は赤ん坊のようだった。

か細く,儚げに,誰かを呼んでいるような鳴き声。


時期は真冬で今は真夜中,ふと時計を見ると二時を少し回った頃だった。

自分の部屋は四階で窓を開けているとはいえ,大きな声で泣いていないとここまで声が届くはずはない。

泣き声はH川から聞こえてくるのだが,H川自体はコンクリートで改装されていて人が立ち入る場所でもない。

時間帯はともかく,この部屋まで聞こえてくる泣き声なら周りも気付くはずだ。

眠い目をこすりながら窓の外を見てみたが,泣き声が聞こえるだけで周りには人が誰もいなかった。

仕方がなく窓を閉めたが,赤ん坊の泣き声は続いている。

とはいえ,どうせ泣き声だけだし,気にしないようにしてその時は寝ることにした。


翌朝,夜中の出来事を家族に話したが,誰一人赤ん坊の泣き声を聞いた者はいなかった。

その後,時々だが夜中に泣き声が聞こえるようになった。

とりあえず,いつも無視するようにしていたが。(笑)


それから何週間か経った後,部屋で漫画を読んでいた時,いきなり車の急ブレーキ音,ドンという衝撃音,続いて女性の悲鳴が立て続けて耳元に入ってきた。

急な音にびっくりして回りを見たが,今では見慣れた自分の部屋でしかなかった。

すぐに家族にあったことを話したが,信じてはもらえず,悶々としているとしばらくして遠くで救急車のサイレンが聞こえた。

翌日の朝刊で地域欄を見ると,音を聞いた時間に数キロメートル離れた交差点で,女性が車にはねられた事故が書かれていた。


それは引っ越した部屋のせいなのか,俺自身に何らかの変化があったのか,それとも別の理由があるのか,自分でもよくはわかっていないが,

意図してそうなった訳でもなく,なりたかった訳でもないのだが,いわゆる霊現象?に会うようになってしまったようだった。

それが幸せなのか,不幸せなのか,未だ決めかねている。


そう話を閉めると,U-Maは何かつまみでも買うかとU公園内の売店におでんと酒の補充をするために向かっていった。

私はこの話だけでも十分つまみになるなと舞い散る桜の花びらを見ながら思っていたが,ご相伴には預かろうと思って後を追った。

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