帰ってきたイラストレーター、そして着いてきた元彼
この前のサークル参加できなかった同人誌即売会から一週間
俺達は、次の即売会に向けて準備を進めていた。
「ま、準備っていっても、人数が全然足りてないこの状態じゃ、今回もギリギリになりそうだけどね。」
俺が色々と次どうしようかと考えているところに、声をかけてきたのは一緒にサークル活動しているう滝沢だった。
「うるさい!それを言うなよ!俺だって結構傷ついてるんだぞ!ていうか今はその次の事を考えていた所だ。」
「はいはい。とりあえず、どうしよっか。次。」
そう、次はどうするべきか?
最初のイラストレーターは、頑張ります、とは言っていたものの、俺に迷惑をかけまいとしたのかどうかは分からないが、一向に聞いてこず、あまつさえ彼氏がどうのこうのといってやめてしまった。やる気があるというあの言葉はなんだったのだろうか。
そして、次に技術はあるといっていた美大生の二人。先輩であることには変わらないが、人間性が俺達以下だった。まさか、協調性もない二人にやる気が感じられないと言われると思わなかった。俺達以上にやる気がある奴らを俺は知らないんだが?
まずは人材だ。
しかしどうする?
またさっき言ったような、はた迷惑な奴らに引っ掻き回されるのはゴメンだ。
「最後まで責任をもってやってくれて、同人のやる気がある奴どこかにいないかなぁ…」
「そんな人いたら私たちが知りたいでしょ」
「まぁそうだな。」
「ほら、そろそろ授業が始まるよ。」
「へいへい、本当に学生ってなんで勉強するんだろうな。」
「勉強することが本分だからでしょうが…。」
「まぁ、俺はいつものように次出す作品を考えるから、あとでノート見せてくれ。」
「はいはい。」
その後すぐに教師がきて、授業が始まった。
しかし、次か。
もうこの際俺のスキルをフル活用してやるしかないか?
でもそうすると学校に行っている時間すら惜しい。
かといって、出席日数が危うくなると俺が親に殺される。
ほんっと、学生ってなんでこんなにも不便なんだろうな。
「ちょっとー。もう授業終わってるよ?」
また滝沢が話しかけてきた。
「ん、そうか。もうそんなに時間が過ぎていたのか。そろそろ帰るぞ」
「はーい。」
そして俺達は教室を後にした。
下駄箱をあとにして、はやく家にかえって授業中にまとめたこのノートをもとに作品を作らなければ。
「あの…」
はやく、作品を。
「あの!」
さっきから、外野がうるさいな。思考がまとまらないだろうが。
「あの!堀川さん!」
「ん?」
顔をあげたらそこには意外な人物が立っていた。
橘、橘リナ。
第二章で俺のサークルーを身勝手な意味分からない理由で抜けた。俺が出会って史上最悪の人物の一人。
「お前、今更なんのようだ?」
「堀川、どうしたのー?…ってアンタ」
先を言っていた滝沢も橘の姿をみて、察したようだ。
「……話を聞いていただけませんか?」
「今更何を話すことがある。お前が抜けたせいで俺達には時間がないんだ。」
「すみません。そのサークルの事なんです。」
そう聞いた瞬間、俺は頭に血がのぼるのを感じた。
「……ちょっとアンタ、私達が一体どんな仕打ちをアンタにされたか理解してないわけじゃないんでしょ?」
「それはわかってるつもり。」
「だったら、それをアンタがどうこう言う筋合いはないんじゃないの?」
橘が思わずそう口にした言葉の返答は、彼女からはかえってこなかった。
だが、彼女はこういったのだ。
「前の彼氏の件ですが。彼氏とは別れました。やっぱり、私は私の夢を実現させたい、それを阻害するなら捨ててやろう!って思い切って振ったんです。」
………は?
こいつはこいつの夢のために自分の青春を棒に降ったわけか?
青春をすてたやつが青春ものの作品を作れるのか?
「いやまぁ、俺も青春を謳歌してるわけじゃないから、想像でしか書いてないが。」
「え?今なにかいいました?」
「あ、いや。なんでもない!」
…あぶねえ。思わず口に出してしまっていた。
でもこいつはそしたらどうだっていうんだ?別れたからサークルに復帰させてほしいとでもいうつもりか?
「で?別れたから何?アンタ、まさか別れたからサークルに復帰させてほしいって言いにきたわけじゃないよね?」
滝沢がいったー!っていうか、コイツの顔みたら、静かに怒ってやがる!
まぁ迷惑一回かけられてるんだし、信用できないのは当然だよな。
「……滝沢の言うとおりだ。だからどうしたっていうんだ?お前はどうしたいんだ?」
「私を、サークルに復帰させて欲しいんです!」
俺達の予想通りの返答がきた。
前に俺達にあんな仕打ちをしておいてよくもまぁこんなことが言えるよな。
俺だったら普通に考えて、おいそれと言えないわ。まだ数ヶ月しかたってないわけだしな。
「それで、俺達が許すと思ってるのか?誠意ってのが足りないだろ。前みたいなことされたんじゃ、正直困るんだけど。」
「それはわかっています。でも夢のためには、やっぱり堀川さんのサークルで作品を作りたいなって思ったんです!」
そう聞いた瞬間、滝沢が激怒した。
「アンタ、だからそのサークルを一回しょうもない理由でやめてるわけ!それをそんな理由で復帰したいってどういうつもり?!答えによっては私は一生許さないけど!?」
「本当にあの時の私はどうかしてました。でも本当にどうしてもやりたいんです!お願いします、チャンスを下さい!」
チャンスっていってもなぁ。どうしたもんか。とりあえずどうしたいかだけでも聞いておくか。
「滝沢はこういってるけど、橘を再度入れる事には俺は正直なところ問題ない。ちゃんとやることをやってくれるんであればな?だが、それだけじゃ不十分だ。誰か有能な人材か、他に私でも役にたてますよっていう証明をしてくれないと、おいそれと許すわけにはいかない。無償で許すわけないだろ?何事も誠意ってのは大事だよ。たとえそれが同人っていうものであっても、一回俺達を裏切ってるんだから。」
「そうですよね。だから私も一人、人材を連れてきました。」
「人材?」
滝沢が首をかしげた
人材か。橘は知らないから無理ないけど、つい最近その見ず知らずの人材に迷惑をかけられたばかりだからな…。
「橘、すまないが、人材っていっても俺はその人材に最近裏切られたばかりでさ。ちょっと今は新しい人は…。」
「あ、その人、私の元彼です。」
「「は?」」
俺と滝沢の声が重なった。
いや、いやいやいや。
この子は何いってるの?何言っちゃってるの?
ばかなの?うんきっとばかなんだろう、っていうかばかだよね?
一体どこの世界戦に、自分が振った奴をサークルにいれようなんて思うんだよ!
単なる地獄でしかねえよ!
「アンタ、それ完全に地雷女だよ?」
滝沢お前えええええええええ!!!もっとオブラートに包めよ!せめてなんかこう!
あー、ダメだ!言葉が出てこねえ!
「大丈夫だよ!あの人、私は使ったことないから良くわからないんだけど、カクヨム?ってサイトに登録して小説を書いてるんだってさ。だからシナリオライターとか色々台本とか書いてって言ったら、わかった。って。」
「いやちょっとまって、なんでそんな事になってるの?っていうか、なんでそんな流れになったの!?ツッコミどころが多すぎてもう何がなんだか分からないんだけど!」
思わず、モノローグにためておこうと思っていたのが、口から出てしまった。
「それがその、お恥ずかしい話なのですが、私が夢に向かって走りたいから、別れようって話を切り出したんですけど、それでも君のそばにいたいと言われまして。」
「いや、それただのストーカー…」
「滝沢、ちょっと黙って」
「う、うん…」
「それで、私の夢はイラストレーターって言ったんです。そしたら彼が『えっ、イラストレーター?へえ、リナってクリエイティブな活動しようとしてたんだ。付き合ってた時は何もしてなかったから、気付かなかったよ。実は俺もカクヨムってサイトで、書いててさ。』って話が広がってしまって…。」
「……なるほど、それで復帰するその見返りとしてそいつをシナリオライターとして連れてきたい、と…」
「簡潔に言うとそんな感じです。」
「いやぁ。でもなぁ…。」
「それに実はもう彼も今日一緒に来たんです。」
「「は?」」
また滝沢と重なった。
「ほら、挨拶しなよ。」
そう背後に呼びかけて、校門から俺達の方に歩いてきた人影をみて、俺達は再度『えっ?』と、声を上げた。
彼の顔には見覚えがあった、俺達が参加している同人誌即売会でよく顔を見かけるホストだった。
「アンタの彼氏ってホストだったの!?」
「ホストだったんですか!?」
聞いたはずの橘がびっくりしてその彼氏に聞いていた。
「いや、それはまぁなんというか成り行きで…」
ソイツは顔に苦笑を浮かばせながらしぶしぶ肯定していた。
「いや、ていうかアンタ彼氏が何やってるか知らなかったの!?」
「彼とは本当に遊びに行ったりしてて、バイトやってる、くらいしか聞いてなかったから。」
「えぇ…」
滝沢が絶具していた。ていうか俺もそれを聞いて絶句していた。
普通付き合って何やってるか分からない人っているの・・・?
いやまぁとりあえずそれはそれとして、だ。
「勢いで流されそうになっちゃったけど、そちらのホストさんは────」
「あ。俺、本条友和って言います。あなた方の事はイベントでよくお見かけしていましたが、まさかリナのご友人だったとは。」
「いや、堅苦しいのはやめてください。びっくりはしましたけど、俺たちのほうが年下ですし。」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて、さっきリナからも話を聞いたと思うけど、カクヨムで小説を書いてたこともあるから、もしかしたら役にたてるかもしれない。どう?」
どう?ってそんないきなりフランクに言われてもな…。そもそも俺達は橘をゆるす、許さないって話を…
「君たちは作品を作りたい、人は多いほうがいいはずだよ。俺も頑張るから、リナを許してやってくれないか?」
「いやまぁ。うーん。滝沢はどう思う?」
「いや、もう私なんか頭痛い…」
「俺もだ…」
そんなことがあって、橘は無事復帰し、そして新たに本条というホストがシナリオライターとしてサークルに参加することになったのだった。
「そうだ、どうせならやる気がある人を勧誘してみたら?」
軽い挨拶を済ませたあと、本条がそんなことをいってきた。
「勧誘?どこで。」
「教室で。」
「アホか!恥ずかしいわ!ていうか社会的に殺す気か!」
「大丈夫だって、やりたいっていう人がもしかしたら声をかけてくるかもれないよ?」
「その前に先生に声をかけられて終わりだろうが!」
「別に教室で、って言ったけど、教師がいる前でなんて言ってないよ。要はタイミンかな」
「っていっても、そんな簡単にいくかなぁ。」
「騙されたと思ってやってみなって。」
「もし本当にうまくできたらいいけど、赤っ恥かいたらお前一回殴らせろよ…?」
「ああ。別にかまわないよ。家に帰ったら早速どんな感じにいうか、設定を考えてみよう。」
「入った瞬間、グイグイくるねお前…ていうかホストはいいのか?」
「ホストはホスト、こっちに迷惑はかけないようにするよ。」
「なにか不都合があったらお前は即刻退場だからな?」
「分かってるよ。それじゃ、いい感じの文章が思いついたらまた連絡するね。それじゃ、ウチこっちだから。」
「わかった、それじゃあな。」
翌日、まさかあんな奴が来るとは、この時の俺は思ってなかった。
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