第三章 ひらきなおったクリエイター

第二章終盤の、その問題の始まりとなった今日。

今日はそんなふたりと打ち合わせをする日だ。

まだ、この時は平和だった。

普通に自己紹介をして、お互い何をやるか決めた。


ロゴデザインをしてくれるのは、富岡沙絢さん。

キャラクターを描いてくれるのは、黒木絵里さん。


自己紹介の後、そのまま打ち合わせをしてどうしていくかを決めた。その内容はこうだ。


『お互い学校やバイトで忙しいから、週一で進捗を確認する』

前回、色々とまだ?まだ?って、聞きすぎてたから、まずは向こうのペースでやってもらおうって思ったからこうした。


べ、別に逃げてるわけじゃないぞ!

コミュ障って理由で逃げてるわけじゃ決して、決してないんだからな!

勘違いするなよ!


とりあえずそんな感じで打合せは終わって、俺たちはいつも通り過ごしていった。

学校行って、部活して、バイトいって、作業して寝る。

そして金曜から土曜にかけて、打合せという名の進捗確認も行った。


前回とは違って、全然全く何も知らないってわけでもないし、大丈夫だろう。

俺はそういう風に思っていた。


こちらから指示を出してないというのもあり、こちらのルールというのはないに等しい。

やり方は全部あちらにお任せしていた。


いや、全部じゃないか。

サークルカットのサイズやらなにやらを指定したり、こういうのを作ってますっていうのを伝えたり、必要なものは全て教えたつもりだ。


そしてこういう感じがいいというのも伝えた。これで最高の作品が作れるはずだ。

縛りすぎると萎えちゃう事とかもあるからな。

……まぁ、第二章の事件については、むしろ彼氏の方に問題があったような気がしないでもないが、それを理由にして自分のやりたい事を投げ出したんだから同罪か。

所詮リアルなんてものは、自分の都合のいいようにはいかない。

さっき言ったようにな。

だからといって、選択次第ではできることなのに、まわりの意見を理由にして逃げるのは最低の行いだ。

少なくとも俺は、そう思っている。


イヤイヤ作った作品、妥協した作品そういったものが面白いわけがない。

なぜなら自分たちは納得してないから。


そんなものが他人に評価されるわけがない。

だから常に全力でぶつかっていく。

向こうも全力でぶつかってくる、そしてお互いの意見を取り入れよりいいものに仕上げていく。

それが創作活動だと俺は思ってる。

片方が妥協したり遠慮したりしたら、それはもう自分の作品とはいえないんじゃないか。

単なる消化作業になってしまうんじゃないかと、毎日怯えながら生活する羽目になる。


「えっと、モノローグ垂れ流してるところ悪いんだけど、自分が学生だってこと忘れてないよね?」

………急に声をかけられて、俺はそこがどこかも自覚しないまま大声をあげた。


「こら、うるさいよ。堀川、今は授業中。」

そうだった、今は授業中だった。プロットを書かなければ……


「だから真面目に授業うけろっていってんの!まったくもう……」


あ、もちろんその後担当教師からこっぴどく怒られました。



───放課後


「ったく、あの先生思いっきり叩きやがって……」

「いや、あれは堀川が悪いから。」

「だって仕方ないだろう!やっと出来ると思ったことが、橘のせいで頓挫しちゃって、代わりのやつを作ろうってなって、何を作る?ってなったら、もう時期的にまたボイスドラマCDを作るしか道は残ってなくて!」


「そこは確かに仕方ないけど、だからって授業中に作業はやめてよ……」

「何を言ってるんだ!頭に浮かんだものを書きおこしてないとあとから忘れたとかになったら洒落にならないだろう!」

「あーはいはい。まったくもう、本当に堀川ってとことんバカだよねぇ……」

「これに関してはバカになってもいい!だってそっちのほうが楽しいからな!」

「皮肉だってば。真面目に返してる私までバカみたいじゃん…」

「滝沢もバカになろうぜ!そして面白いものをいっぱい作ろう!」

「面白いものや楽しいものは確かに作りたいけど、TPOはわきまえてもらわないと困るんだけど……他の人たちから変な目で見られちゃったじゃん。私、目立ちたいって思いはあるけれど、悪目立ちするのはちょっと……」

「まったくしょうがないな……。じゃあ朝のホームルーム前とか昼休みとか放課後とかにやるようにするよ。」

「ねぇ、話聞いてた?授業中だとかそうじゃないとかじゃなくて、私は悪目立ちは嫌、って言ったんだけど?」

「よし!家に帰ってさっそく作業を開始するぞ!富岡さんと黒木さんに任せっきりじゃ悪いし、こっちもこっちでできることをやろう!」

「つまり、私の意見何も聞いてなかったってことだね………」

───何か、滝沢が言った気がするが、前回の失敗をしない。それだけが俺の内心を埋め尽くしていた。


そして金曜日。

「どうも、打合せ以来ですね。それで今日の進捗なんですけど、ラフとかを書いてきたんですけど、どうでしょうか?」

そういって、まずは黒木のほうからラフを見せてきた。

「なるほど、確かに作品のコンセプトはマッチしてる。浴衣なのもいいね!チョコバナナがいい味出してると思う!滝沢はどう思う?」

「私はイラストのことはあまり良くわからないんだけど、かわいいと思う。でも、ちょっと子供向けっぽい、とは思うな。私たちの作る同人CDって多分だけど中高生向けでしょ?それなのにこれだとちょっと小学生がターゲットになってるっていうか。」

「さっすが滝沢、イラストのことはよくわかってなくても、的確にターゲット層を意識してきたな。コンセプトは悪くないんですけど、線が多いからかな。なんか絵本チックな感じがします。だから滝沢もいったように、キッズ向けだと捉えられてしまうのかも。」

「つまり、方向性はいいが、描き直し、だと?」

「いや、これはまだラフなんですよね?であればここから線画していく段階で線を削って、大人びた感じの表現にしてくれると多分見栄え的にも魅力はアップすると思うんですよ。

なのでその方向でお願いできますか?」

「まぁ、分かりました。じゃあその方向でやってみます。」

「お手数をおかけして申し訳ないですが、よろしくお願いします!」

「じゃあ、次は私の番ですね。私は言われた通りロゴデザインを作ってみました。どうですか?」

黒木さんが終わって入れ替わりで富岡さんが話に参加してきた。


「なるほど、これは多分滝沢も同意見だともうので私から述べさせていただくんですけど、昭和な感じがしますね。古いというか。今のロゴではない感じがします。」

「年代?それがなんだっていうんですか、こう見えて私たちは美大に通ってデザイン会社の就職まで決まってるんですよ!つまりこのデザインは会社から認められているんです!」


「それは自己紹介の時にも聞きましたけど、作風に合ってないのは事実です。黒木さん同様、やり直してください。これをそのままロゴとして採用することはできません。そうですね、今チャットにお送りしたロゴとかが私たちの作品のイメージに似合いそうだなというものでして、それを参考にしてもう一度お願いできますか?」

「まって、好きなように作らせてもらえるって言ったじゃない!」

「好きなようにというのはこちらの作風を捻じ曲げてまで、ということではないで。そんなことを許容してしまえば、それはもう俺達の作品じゃなくなる。暗黙のルールってやつですよ。」

「だったら最初からそう言ってくださいよ!」

「いや、コンセプトはこうだ、と言ったつもりなんですがね。カラーはこう、グラデーションも欲しいとか、そういったものはお任せしてますが、コンセプトに関しては伝えたはずです。」

「富岡さん、ログに……」

しびれを切らしたのか、黒木さんがそう言った。

「あっ。」

黒木さんもそれに気づいたらしい。

「とにかく、俺達が作りたい作品はこれです。これにあったものをあなたたちのやり方で作ってきてください。それが依頼です。」

「くっ、この!」

「わかりました、とりあえず一旦富岡と話してみます」

「ちょ、黒木!」

「いいから、これ以上迷惑はかけられないでしょ」

「わかった…。」

そしてふたりとの通話は終わった。

「ふぅ……前回のを反省してこちらからあーだこーだ言わなかったからちょっと誤解させちゃったかな、でもこれで意図は通じたはずだ。」

「そうだね、お疲れ様。ちょっと疲れた?」

「疲れたなんてもんじゃないよ、やっぱり知らない人ってのは緊張するな…。」

「堀川らしくないね。」

「うっさいな、滝沢はほとんど喋ってなかったじゃないか。」

「だって本当にデザインに関しては私分からないんだもん。でもあそこまでちゃんと伝えたんだし、今度こそ大丈夫でしょ。」

「あぁ、そうだといいな。」

「ってか、明日ってコミティアじゃないの?堀川寝なくて平気?なんか色々と見に行くんじゃなかったっけ。」

「そうだった!悪い、滝沢。俺そろそろ寝るわ。」

「うん、おやすみ。」


そして滝沢との通話も切り、俺は布団にもぐった。


そしてついたコミティア会場。

こういうところに来ていつも思うのは、やっぱり創作は楽しいってこと。

当たり前だよな。楽しくなけりゃこんな事はやらないし、こない!


「さて、とりあえずいつもどおり挨拶周りしたりして終わったら、チェックして気になったサークルさんを回るとするか。」


───そして夕方

「いやー、今日もいい刺激になるものがたくさんあったな!帰ったら、さっそく読んだりプレイしたり、聞いたりして感想を送ろう!」

───ピピッ

「ん?」

急に携帯の通知音がなった。

「なんだ?」

そこに表示されていた文字を見て、俺は顔をしかめた。

書かれていた文字、それは。


─黒木さんがこのグループから退室しました─

─富岡さんがこのグループから退室しました─


「え?は?なに?えっ?」

俺は彼女たちのメールアドレスも知ってたから、ダメ元で連絡してみた。

が、結局その日は返事はなかった。


「なにかいったんじゃないの?」

翌日、学校に行ったら出会い頭に開口一番滝沢が話しかけてきた。

「いや、俺は何もしてないし言ってない。ていうかそれを言うならお前なんじゃないのか?俺は昨日はイベントに行ってたのは、お前も知ってただろう。」

「そうだけど、じゃあなんでいきなりあのグループから抜けるなんてことになったのか、分からないじゃん。連絡はしてみたんだよね?」

「ああ。でも返事がこなかった。このまま返事がこなかったらどうしよう。」

「また、堀川がイラストを描くしかないかもね……。また部活をサボることになっちゃうかもだけど。」

「流石に連絡くらいはよこすだろう。なにせあっちは社会人になるっていう人たちだぞ。それくらいの常識は持っているはずだ。」

「そういった常識持ってる人達なら、無断で何も言わずにグループを抜けるなんてことしないはずだけど…」

「まぁ、確かにな…。」

そんなことを言っている間に朝のホームルームになった。

しかし、このタイミングでこの行動は痛い。まさかまた逃げられるとは。

でもなんで逃げた?俺達は、どこかで行動を間違えたのか?一体何が………

─ブーブー

「!?」

携帯が震えた。まさか……!

俺は思い切り携帯を開いた。案の定、黒木さんからの返信だった。そこにはこう書かれていた。

「あなたたちのやる気が感じられないから、富岡さんに相談して一緒に抜けようってことにしました。すみません」

………は?やる気が感じられない?どこが?ホワイ?なぜ?意味がわからん。

授業も始まるから一旦携帯はしまって、昼休みに滝沢にそのメールを見せた。

「は?なにこれ、あの人たちは私たちがやる気ないって思ったこと?」

「どうやらそうらしい。まったく反吐が出る。これが新社会人になったと思うとな。俺達はこんな大人にならないよう気をつけよう。」

「待って、これで終わるつもり?」

「なわけあるか、ちゃんと返事もしたさ。ほらみろ」

「えっとなになに?『やるきがないということですが、それを言うなら無断でグループから抜けて、サークルの活動に多大な迷惑をかけるのはいいのでしょうか?まがりなりにも一度請け負った案件ですよね?それを代案もなしにとんずらをするのはいかがでしょうか?抜けるにしたって一度ご連絡いただきたかったです。』ってこれ…。堀川、アンタ…」

「間違ったことは何一ついってない。いきなり抜けた奴に礼節なんてものはいらないだろ。」

「で、返事は?」

「お前に話しかける前きてた。ほら。」

「えっと、『無責任だと思われてもいいです。申し訳ありません。』って、相手何も言い返せなくなったってことは、自覚しての行動ってこと?そこまでして…」

「なんにせよ、逃げたってことには変わりないんだ。なんとかするしか…。」

「大丈夫なの?結構量たまってるけど…。」

「なんとかなる。学校もやすむかもしれない。その間の授業のノートとかはあとで写させてくれ。」

「はいはい。結局こうなるんだね…」


そうして結局全てやり直したのだが、結論からいうと

同人誌即売会には出れなかった。

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