第2話 初心者シナリオライターあるある、本当にあるあるか?

そして、そんな事があった序章から既にもう一か月が過ぎようとしていた。

あそこまで、やる気に満ち溢れていた橘からの連絡は……まだ一度もなかった。


「堀川、リナから連絡あった?もうそろそろ動かないとまずくない?」

そんなことを思っていた夜、滝沢からチャットが届いていた。


「うーん、でも初めてかくわけだし何か難航してるのかもしれないからなかなかこっちからアクション駆け辛くて…ていうかお前バイト先一緒だろ、聞けないのかよ」

「素人の私が聞いても意味がないでしょ。一応毎日これでも聞いてるのよ?でもリナは大丈夫だよ、待たせちゃってごめんね、っていう一点張りでなかなか話してくれないの」


なるほど、一応こいつも聞いてくれていたのか。でも大丈夫じゃないからこんな事態になっちゃってるわけだしなぁ…。


「わかった。とりあえず明日の朝にでも彼女に連絡してみるよ。まさか俺には隠し事しないだろうからさ」

「流石にファンだって人に隠し事されるようじゃ、アンタの人望の無さが伺えちゃうよ?」

「うるせえ!大きなお世話だ!」


そして翌日───


『お疲れ様です。堀川です。大丈夫?あれから結構たつけどシナリオのほうって今どんな感じ?大丈夫?』


よし。こんな感じか?こんな感じだな。こんな朝に連絡して怒られないかな。

いやでも別に俺は怒ってるわけじゃないし、別に気分を害そうってわけでもないからきっと大丈夫。

でもこの文章もらって何か傷ついたりしないかなえっと────


「何ぼーっと画面眺めてるのよ、早く送信しちゃいなよ!」

「えっ!?」

ピッ。

「あっ。」

スマホの画面を見ると、さっき驚いた拍子に送信ボタンを押してしまったらしく、相手に送られてしまっていた。


「いきなり後ろから脅かしてくるんじゃねえよ、滝沢!」

────そしていつの間にか後ろにいた滝沢に声をかけた。


ふと周りを見渡してみると、チャットの文章を考えている最中に駅のホームまできてしまっていらしい。


「いや、あのまま放っておいたらだいぶキモかったから。相変わらず人との接し方下手だよね。」

「うるさい、お前みたいに誰彼構わず仲良くできるような人種じゃないの、俺は。」


ていうか、まだ通話でしか話したことがないのに、いきなりそんな愛想よくできるわけねえだろ。ましてやこういった連絡は……。

ま、こいつに言っても意味ないか……


「別にノリと勢いだけでどうにかなるでしょ、フツー。堀川が真面目すぎるのよ」

「いや、人付き合いは絶対真面目のほうが受けはいいから、これだけは絶対だから。」

「そう思ってるのはアンタだけだって……」


シュポ。


「ん?」

返事がきたようだ。

本当に流れとはいえこんな変な文章送っちゃって怒ってないかなっって──────


「はあああああああああああああああああ!?」


俺は駅の構内にも関わらず、思わず大絶叫をしたのだった。


橘から来た返事は簡単に言うと、こうだ。

『すみません、町の名前とか主人公の名前がまだ決まってなくて、一章どころか、まだ一文字も本文を書いてません。』だと。

いや、気持ちはわかる。設定って大事だからな、キャラ設定とか世界観とか。

それが決まってないと色々と平行作業ができないって言うのは勿論ある。


……だが、それはスタッフがほかにもいるところの場合だ。

それに、この三人しかいないという今のこの現状で、しかも今回の作品がシナリオ執筆の処女作というこの状況で、別に設定どうこう言うつもりはない。


少ない人数規模だからこそできる荒業。


とりあえず作りたい方向性だけ固めて、あとから設定をそれっぽく書いて詳細を詰めていくという形式だ。


設定からシナリオやらなにやらを作っていくというのは勿論やりやすい。

設定があるのとないのとでは雲泥の差だからな。

プロットも物語を書くための設定といっても過言ではない。


だけど、頭の中にあるものを物語を書いた事がない状態で、設定だけ書き溜めようとしても、なかなか決まらないし、そもそもかくのが初めてっていう人は、とりあえずまずは書かないと構想がまとまらないっていう人がほとんどだ。

俺もその一人だしな。

ぶっちゃけ、俺が物語を書こうとした当時、といっても数年前だが………


設定を綿密に作った結果、書いていったら面白い構想が途中で浮かんで設定を変更したことなんてしょっちゅうある。

だから、設定を完成形にこだわるというのはある意味、初めて書く人にとっては時間かけるだけかけてしまうだけの作業になってしまいがちになる。


っていう説明をし終えた、その日の夜。


『なるほど。確かにそうですね。設定にこだわりすぎても途中で面白い事思いついたら確かに変えるかもしれません。助言していただきありがとうございます。まずは、私の作りたい作品を思うがまま書いてみようと思います。本当に書けなくてどうしようかと思ってました。でも、忙しいのに私が連絡してもいいのかなとも思ってしまって……』


なるほど。俺と同じ感じだったってわけだ。まぁ、そりゃそうだよなやっぱり。ほいほい連絡をしてくる滝沢がおかしいだけで、一般的にあまり話したことがない人と個別に連絡をとるなんてことしないよな。


「まぁ、とりあえずさっき言った事を踏まえてもうちょっと期間あるから書いてみてよ。何かわからないことがあったら、いつでもいいから連絡してきて。こっちも学校にいるときとかはあまり携帯とか見れないんだけど、なるべく見るようにするから。」


「はい!本当にありがとうございました!」

話が終わって、チャットウインドウを閉じて、今回の結果を滝沢にも共有しておこう。

この時間だった、まだ起きてるだろうしな。


俺はコールボタンを押した。


滝沢は2コールで出た。

「お前、電話待ってたのか?」

「気になって寝れなかっただけだよ。それでどうだったの?」

「俺も経験した事があったんだが、設定で悩んでたらしい。でもそこまでこだわらずとりあえず、第一章でも書いてみてっていうことにしたよ」

「なるほどね、まぁリナは変なところで真面目だから。」

「これでどうにか彼女が創作の楽しさってのを知ってくれればな。」

「はぁ、またそれ?」

「だって面白いんだぞ!創作すること自体!」

「はいはい。とにかく、もうちょっと待ってみよっか。」


そして報告もほどほどにして通話を切って俺は自分のやるべきスケジュールをエクセルでまとめた。


「シナリオが遅れるってことは、デバッグスケジュールはこのくらいで、音楽もどうしようか。とりあえず、第一章があがってきたらその構想で何曲か作りたいからこの日までにシナリオはほしいなあ。イラストは大体1か月ってところか。」


色々まとめたエクセルをOnedriveに保存してアップロート完了通知がきたのを確認した。


「よし。とりあえず今日はもうねるか。」


───そして、また1か月くらいがすぎた辺りに彼女から連絡がきた。

「とりあえず、私の中にあるこの思いを書いてみました。どうでしょうか?」


なるほど、いろいろな作品のパロディネタか。

確かに俺もよくやる、が。


「これ、まんまあの作品のオマージュだよね?」

「あー。はい、そうですね……やっぱりダメそうですか?」

「これじゃあ、ちょっとあまりにもまんますぎるから、この本貸すからちょっとオリジナル要素も多分に含めてもらっていい?これじゃあ、二次創作のものになっちゃうからさ。」


「ゲームシナリオの書き方、ですか。こんな本があったんですね、ありがとうございます。

本当にすみません、私のせいでこんなに時間かかってしまって。」

「いやいや、俺だって最初は全然書けなくて読み返したら、これ俺がこの前読んだラノベのパクリじゃねえか!ってなることあるから気持ちは痛いほどわかるよ。とりあえず、アドバイスほかにできるとしたら、リアルの生活を客観的に見ると結構ネタは転がってるよ。主観的に見ると萎える事でも、そこにこうだったらよかったのになって要素を付け加えるだけでエンタメに早変わりさ。」

「なるほど……」

「まぁでもそれは一朝一夕で身につくもんじゃないから、スマホにメモがあるでしょ?最初は構想なんてって言ったけど、その日に何があったのか、っていうのを、メモしておくと結構いいかもしれないよ。俺が忘れやすいだけなんだけどね(笑)」


「なるほど!確かにそれは一理ありますね。早速明日から実践してみます!本当にありがとうございました!」


そして企画が始動してから既に2か月が経過していたが、ついにやっと前へ進めるかのように思われた、そのまたすぐ1週間後……


橘から通話がきた


『あのすみません。今時間ってありますか?』

『ああ、どうした?もしかして、もうできたのか!?』

『いえ、実はその、企画を降りたいなって思いまして』


……は?こいつ今なんて言った?


『ごめん、もう一度言ってくれる?』

確認のためにもう一度聞く。


『えっと、ここまで時間かけちゃっていますし、私なんかがこれ以上お邪魔してしまうのも申し訳ないなって思って……』

『ちょっと待って、これは滝沢も入れる。』

『えっ、あ、はい。』


一旦通話を保留にして滝沢に通話をかける。

『何?今何時だと思ってるの?』

『22時。でもすまん、橘の話をお前も聞いてほしい。ちょっと深刻そうな話なんだ。』

『深刻って?』

『あいつが企画を降りようとしてる。』

『え?今あるものはどうするの?誰かがやるの?』

『とりあえず、向こうの通話も保留にしてるからグループ通話にしていいか?』

『わかった。いつでも大丈夫だよ』


滝沢の同意もとれたからグループ通話に切り替えた。


『リナ、今堀川から聞いたけど、企画降りようと思ってるって本気?』

『チサト……。だって、長い間お待たせしちゃってるし、私がやっても……』

『私、ボイスアクターだから、シナリオの事なんて分からないんだけどさ。でも、途中のものを放り出すなんてしていいと思ってるの?せめて、このゲームが完成してからじゃない?』

『分かってるけど、でも……』

『でもじゃない、私も堀川もそしたら今までリナに付き合ってきた二か月っていう期間はどうなるの?全部無駄になるってこと?』

『だから、無駄にならないようシナリオは上げるので、それをそのままやってくれたら……』

『誰が?』

『えっ?』

『だから、誰がやるのかって聞いてるの。私はもちろんシナリオ書いたことなんてないし、堀川だって今からシナリオ書いて即売会に間に合うかどうかって話になる。』

ガツガツ行くな、友達なのに……。いやまぁ言いたいことは全面的に同意だけど。

『堀川さんはなんで何も言ってくれないんですか?』

『……いや、滝沢が言ってることが正しいから、俺のいう事全部言われちゃってて、何も言えなくてさ。』

『堀川さんもそう思ってるんですか……』


ていうか、誰だってそう思うと思う。

まぁ最初は俺が連絡しても大丈夫かな?ってなってなかなか進捗確認できなかったのが原因だけど、それ以降については、彼女のスキルの問題だった。

分からないことはすぐ聞いてって言ったのに……。


『とにかく、今橘さんに抜けられるのは俺としても非常に困る。なんとかやってくれないだろうか。期間についても───』


ピピピピピピピピピピ。


突如携帯の通話音がなった。

俺のでもない、滝沢のでもない。

橘さんのところから聞こえてるみたいだ。


『えっ、なんで今?!今日はダメだって言ったのに……!』

『何?今日はダメって。説明してくれる?リナ。』

『えっ、それは、でも……』

『迷惑かかってんの。堀川も私も暇じゃないわけ。とっとと話して』

『滝沢、さすがにプライベートにまで口出すわけには……』

俺がプライベートの事情まで機構とする滝沢をたしなめようとすると


『いえ、お話します。流石に私自身もどうかとは思っているので…。』

『いいのか?』

『はい。実は、先程の着信音なんですが、彼氏からなんです。』

……………は?彼氏?????

『リナ、彼氏なんていたんだっけ。』

『たまにウチのバイト先に来てるあの男の人だよ。』

『ああ。あの……って、え?!あの人がリナの彼氏!?』

『………知ってるのか、滝沢?』

『話したことはないけれど、リナとよくしゃべってるのを何回かみたことある程度だよ。でも彼氏だなんて思わなかった。』

『なるほどな。で、その彼氏がなんだっていうんだ?シナリオの件とは全く関係ないじゃないか。』

『実はそうでもないんです……。その彼氏が、今やってる活動を辞めろって言ってきて……』

『は?なんだそれ、そんなの彼氏にどうこう言われるもんじゃないだろ。』

『そうなんですけど、彼氏が辞めないと色々写真をさらすって……。』

『いや、それ普通に犯罪だから……。冗談にしたってタチ悪いな。ていうかそんなこというなんて本当に彼氏か?ただのストーカーにしか見えないんだが……。』

『よくしてもらってる人をそんな風に言わないで!』

いきなり橘が大声をあげた。

『……いや、悪かった。で、まとめるとあれか?彼氏が言ってるから、この企画を降りるってことか?』

『……』

『黙ってないで何かいいなよ。』

滝沢も橘の返答を待つ。

『………そういう、事になります………』


なるほどね。まぁ人の事をどうこう言う権利は俺にはないんだが


『でもそれって俺たちの活動に関係するのか?お前がやりたいっていった企画でもあるのにそのお前が、途中で放り出すって本気で言ってるのか?』

『だから彼氏が……』


埒が明かないな………


『とにかく!そういうわけなんで、これで失礼します!ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした!』

『いや、ちょっと待っt─────』

プツッ。

相手の通話が切れた音がした。

……………


『堀川、どうする?』

『いや、どうするってお前…………もうこうなったら………』


そう、こうなってしまったらもう俺はこういうしかない。


『ふざけんなよクソがあああああああああああああああ!!!!!!!!!』


ひとしきりその晩は叫んだ。


でも、その後、流石に何も作品が出せないのはまずいと思って、三徹してシナリオを一つ書き上げた。

いつものように、音声作品でお茶を濁す形になってしまったのは本当に解せない。


橘絶対許さないからな……。


そしてここで一つ、問題が発生した。


『今からイラストを描いても、俺のスケジュールだと間に合わない!誰かにやってもらうしかない!』

『今、できる人いるの?』

『探すしかないだろう!』


そういって、その後二週間かけて色々な人に声をかけて、なんとか、イラストレーターが二人手伝ってくれることになった。


でも実はこの時既に、新たな問題の芽がすくそこに芽生えていたことに俺はまだ気づいていなかった。


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