どうしてこんなに頑張っているのにその努力は報われないのだろうか

ジョリアン

第1話 序章

「はぁ。どうしてこんな事になったんだろう。」


俺は、横に置いてある段ボールの山を見て盛大に溜息をつき、そして、目の前の画面に映し出されている共有フォルダの中にあるいくつもの企画書を見て、余計にげんなりした。


企画書、というからには、何かの小説のプロット原稿だったり、何かのテレビ番組の概要をまとめたものだったりすると思うだろうけど、目の前にあるこれは違う。


この数々の企画書は、俺たちの、今は俺だけになってしまった同人サークルの成れの果て。

言わば残骸だ。


「まぁ、流石に私もここまでひどい結果で終わるなんて思わなかったなぁ…」

「うるさい!俺はあいつらの、やってみたい、っていうその意気込みで始めたんだ!俺は被害者だ!」

「まぁ、取り敢えずなにがあったのか話してよ。何かアドバイスできるがしれないしさ。」


そして、俺の愚痴に付き合ってくれてるのは、宮本千春さん。

従兄のお嫁さんで、何かあったら相談に乗ってくれるいいお姉さんだ。


「わかったよ…ったく。とりあえず最初から順を追って話すよ。そうだな、とりあえず4年前の3月、一人の女の子から同人をやってみたいって言ってからが始まりだった。」


そう、始まりはそこ。

4年前の3月。

いつものように滝沢とMMORPGをしてた時、滝沢が、一緒にやってみたいって子がいるんだけど、パーティに入れてもいい?って、入れてきた女の子のある一言から始まったんだ。


っと、その前に俺の自己紹介もまだだったな。

俺の名前は、堀川ナオキ。20歳。バイトをしながら色々とクリエイティブな活動をしている。

それが4年前、だから俺が高校一年の時だな。

その頃はまだ、ちまちまとSNSとかに絵とか動画サイトに自分が作った動画を上げてるとかだけだったんだが、入ってきて、しばらく3人で狩ってた時、その子は突然こう言い出した。


「私、ホリカワさんのファンです!今、ホリカワさんと一緒にゲームしてるって、チサトのツイートをみて、思い切って声をかけてみました!」

「えっ?」

突然のことに俺は驚いた。

俺がイラストや動画をあげても、何も無かったし、たまにイイね等リアクションがくるくらいで、ファンなんて人、いないんじゃないかと思ってた。

こんな身近にいたなんて…


「滝沢、お前が強引に俺を誘ったのってコレが理由か?」

「えへへ、ビックリしたでしょ。いつもリアクション薄いからさ。ちょっと脅かしてみたくなっちゃった。大成功だね!」


顔は見えないが、声色からしてやったりという顔がありありと想像できた。


「はぁ…そういうことなら事前に教えておいてくれよ。普通のゲーマーな人かと思ったじゃないか。まさか、ファンだなんて。反応に困るよ……」

「堀川はいつもそうやって、人の顔色ばっかり伺うよね。ちょっとは、素直に反応してくれてもいいと思うんだけどなぁ…」

「俺が人の顔色ばっかりみて、観察して反応するのは生まれつきだ。別にわざとじゃない。」

「はいはい。分かりましたよ〜だ。ごめんね。こんな奴だけどがっかりした?」

「いえ!SNSでも特に自分をあまり出さない人だなぁとは思ってたので、逆にホッとしたくらいです!たまにいるじゃないですか!ネットとリアルの人格が全く違う人!あれ本当に怖いんですよねぇ…」

「あはは…まぁ、そういうことならよかったよ。キミ……あっ、そういえばキミ、名前は?」


「あ、すみません!私、橘リナって言います。滝沢とは同じバイト先の仲間で、ファンだって言ったら、通話に誘ってもらえることになって、ちょっとワクワクしてました!」


橘リナさん、か。

ちょっと元気すぎるなぁ…。疲れないのかな。


「そっか。俺は堀川ナオキ。まぁ、機会があったらこれからもよろしく。」


「はい!ところで、ちょっとご相談があるんですけど…堀川さんって、同人サークルってやったことあります?」


初対面でいきなり何言い出すんだこの子は。そんなこと聞いてどうするんだ?

もし、やってますー、って言ったらどうなる?押しかけにでもくるつもりだろうか。

ファンあるあるだが、いきなり目の前にこられて、嬉しいは嬉しいのだが、次の人も待ってる中、イベントで長時間喋られるとちょっときつい…


「いや、やってないけど…」

俺は無難にそう返した。すると、滝沢が、は?と声を出して、

「何言ってんの。この前の冬コミだって私と一緒に売り子したじゃん。」

と、とんでもない事を口に出した。

「ばっ……!」

バカザワ〜〜〜!!!どうしていつもいつもナチュラルにぶっ込んでくるんだ!リスクってのを知らないのか!?高校生なんだよ!俺は!!!


お前ら、同じバイト先の仲間って事で、橘さんも高校生なんだろうけど、いくらなんでも身バレのリスク考えてなさすぎだろう!


「ってか、待てよ?俺のツイート見てるんだっけか。」

「ファンですから!」

「あー、そっか。なら、コミケにサークル参加してるって事も知ってるのか。じゃあ、そもそも聞かなくても……」

「いえ、イラストレーターって、作品は作るけど、売り子とか、サークルの運営周りって他の人がやることが多いって聞いたので。ちょっと気になって…」

「なるほど…。」


確かに橘さんの言うことは一理ある。でもそれは有名なイラストレーターや、お金がある人の話だ。

俺は、はっきり言うけどそんな人間じゃない。

そもそも高校生の分際で、そんなことしてるのは、いないんじゃないだろうか。


「いや、そんなこと出来るのは本当にお金がある人だけだよ。俺は普通に滝沢と同人サークルをちまちまとやってるだけさ。」


「わぁ!そうなんですね!二人で同人サークルやってるってなんかすごいです!」


別にすごくない。やってることはいつものように同人音声作って売ってるだけだ。

簡単に言ってるように聞こえるけれど、二人でもこれは大変なんだ。


「あの!よろしければ、私も仲間に入れてもらえないでしょうか。」

「いや。別にいいけど、橘さんって、何かやったことあるの?」

「ないんですけど、何かお役にたてないかな、って。」

「うーん、何かやってみたい事ってある?」

「そうですね。しいていうならイラスト、でしょうか。」


イラストか、まぁ、俺以外にもイラストを描いてくれる子がいるってのはありがたい。


「あと、シナリオ。でしょうか。」

「へぇ!シナリオにも興味があるんだ。正直な話すると、流石に二人で同人音声作品とか作るのも大変だったからさ。すっごい助かるよ。じゃあ、それでお願いしてもいいかな?何か分からない事があったら、全然聞いてくれてもいいから。」

「はい!最初はご迷惑おかけする場合もあると思うんですけど、精一杯頑張りますので!よろしくお願いします!」

そんな調子でシナリオとイラストに挑戦してみたいって子がきて、この先どんな事が出来るようになるだろう、と俺は一人心の中で心を踊らせていた。


「あ、話おわった?私そっちの方面の知識はないから、話についていけなくてごめんね。」

ずっと黙っていた滝沢がこっちの話し合いが終わったのを悟ったのか話に入ってきた。


「ああ、終わった。待たせて悪かったな」

「全然。アプリ弄ってたし。」

「アプリ?何のアプリやってたんですか?」

「あ、別にリナが思ってるような、市販に出てるアプリじゃないよ。」

「え?どういうこと?!違法アプリってやつ?!チサト、アンタ…」

「変な事想像してんじゃないわよ!このサークルで作ってるゲームアプリよ!」

「え?このサークルってゲームも作ってるんですか?」

言い合っていた矛先がいきなり俺の方に向いた。

「べ、別にいいだろ!俺はゲームを作ってみたいって思ってこのサークルを立ち上げたんだよ!でもなかなか集まらなくて、同人音声サークルみたいになっちゃってるけど、でもいずれは……」

そこで言い淀んでしまった俺を見て、何を思ったのか、橘はいきなりこんなことを言い出した。


「じゃあ、ゲームを作りましょう!私、シナリオとイラストを担当します!」


その時、全世界が停止したのかと思ったくらい長い時間が過ぎたように感じた。


「あの、何か反応してくれませんか……?」

「あっ、いや、あの、ちょっと驚いただけだから…。まさか三人でゲームを作るって発想俺の中になくてさ。一体何を言ってるんだろうこの子って思ったとか…」

「失礼な事思ってたんですね!?とにかく!この三人でやってみましょうよ!私がやってみたいってのもありますけど、なにより堀川さんの夢でもあるんですから!」

「まぁ、俺もやりたいってのはあるんだけどさ、できるの?シナリオとイラストの兼任なんて難しい事。俺ですら、結構大変だと思ってたからちょっと置いてたのに…」

「そんな事言ってると、いつまで経ってもやりたいことできないじゃないですか。一旦やってみましょうよ。私も頑張りますよ!」

「君は本当に同人初心者なのか…?」


そんなことを思いつつも、俺は心の中で心底喜んでいた。

今すぐに、踊りだしたいくらいだ。


「滝沢もそれでいいか?」

「別に、リナができるって言ってるんだからやってみようよ。私もちょっと楽しみだしさ」


念のため滝沢にも確認をとってみると、ちょっと声が弾んでいるようにも思えた。

こいつなりにちょっとでも喜んでくれていると分かっただけで、俺もうれしい。


「よし!じゃあ、改めて、これからもよろしく頼むよ、橘さん。」

「はい!やったことないからちょっと時間かかっちゃったりするかもしれないけど、頑張ります!」


そして三人はお互い、これからのことが楽しみで仕方ないと思い思い思いながら眠りについた。


そして、俺はこの時気づけなかった。

この後、とてつもないことが起ころうとしてることに。

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