1-4 夜は明け、朝日は舞い込む

 オルティスに朝が訪れる。眩しい朝日が、城下町を照らす。湖の中心にそびえたつブラッドフォード城は、明るい陽光の中にも、厳かな美しさを擁していた。


 リベリカルテスターは、いつものように、牢に投げ出された状態で、目を覚ました。夜のことは、思い出したくない。思い出したくなくとも、嫌でも、あの苦しみが刻みつけられていた。


 今日は、ほんの少しだけ違った。けして、その苦痛を気にしなくなったというわけではない。


 呪文のように、自らに向かって、見張りに聞こえないように、唱えた。


「いつでも、ここに来ていいからな」


 毎日、毎日流していたはずの涙は、今日初めて、姿を現さなかった。




 今日も、森に異変がないかを探るべく、また、町に売りに行くための資材集めも目的として、青年は家を出た。


「絶対、また会えるよな。今日はだめでも、きっといつか……」


 エルドは、明るい声で自分にそう言い聞かせ、暖かな木漏れ日の射しこむ森の中へ、歩き出した。白い花畑にさしかかり、あるものが目に飛び込んできた。


「……」


 リベリカルテスターだった。


「え」


 エルドは、驚いた。本当の、本当に、驚いた。


 呆然とする青年の目の前に佇む、純白の白い衣をまとった少女は、黙って、俯いて、もじもじと、手を後ろにやっていた。


「……久しぶり」


 少女なりの、あいさつのようだ。


 彼女は俯くのをやめ、エルドの方を、真っすぐに、じっと見た。鮮やかな紫色の瞳は、太陽の光を受け、きらきらと、透き通っていた。その一瞬だけ、なぜか彼女は、顔を真っ赤にし、緊張しているようで、歯を食いしばっていた。


 このようなあいさつさえも、彼女にとっては、精いっぱいであるということが、よく分かった。


「い、いや、昨日会ったばっかりじゃないか!」


 一日千秋、とはまさに、このことなのだろう。


 昨日出会ったときのような、青白く、冷たく、生気のない顔は、そこにはなかった。再びエルドから目を背けているが、少女は、微かに口元を緩ませ、白い頬をほんのりと赤く染めていた。


 何気ない一言が、誰かの心を変えてしまうことは、よくあることだ。エルドは、それを痛感させられた。でも、エルドは、この時は口に出さずに、思っていた。


 ――おかえり、と。

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