1-3 長い夜
エルドは、木で作られた小さな小屋に、両親と共に暮らしていた。今は夕食を食べ終わり、寝る前の夜の時間を過ごしているところであった。
ドアを開け、外の空気を吸いに出た。昼の出来事が、頭から離れなかった。草むらの上に座り、じっと星空を眺めた。脚に、暖かいものがくっついてきたことに気づいた。
「あーあ、また来てくれないかなぁ、あの子」
エルドは、自分の側に横たわる彼女の頭を優しく撫で、語り掛けた。
「なあ、レスティア」
エルドは、森の動物たちとは例外無く仲が良かった。けれど、ひと際彼に懐いている者がいた。それは、美しい黒い毛並みを持つ、紫色の瞳をした、レスティア、という名の猫であった。
数年前、エルドは森の近くで、人によって傷つけられたとみえる彼女を見つけ、抵抗されながらも手当てをし、怪我が治るまでの間保護をし、逃がしてやった。ところが、いつの間にか、この森に住み着くようになっていたのである。なんとも気難しい娘だ、と両親と笑いあったのを、よく覚えている。
「レスティア」という名は、「光」と言う意味の言葉だった。人に傷つけられ、光を失ったその瞳が、もう一度、輝きを取り戻すようにと願い、エルドが彼女に付けてあげた名前だった。レスティアは、その名前を気に入ったようで、エルドや、彼の両親がその名を呼ぶと、にゃあ、と可愛らしい声で返事をするのであった。
エルドは、レスティアと両親におやすみと告げ、自分の部屋のベッドへどさっと寝転んだ。そして、布団に入った。夜はそれなりに冷え込み、彼の家で手に入る程度の、簡易な炎による暖房器具による暖かさにも限界がある。白い布団の中にでエルドはうずくまり、眠りにつこうとした。
けれど、昼間の出来事が、リベリカルテスターを名乗ったあの少女のことが、頭から離れなかった。しばらく眠りにつくことができなかったけれど、なんとか、眠ることができた。
たぶん、夢に彼女のことを見てしまうだけなのであろうが。
オルティスの中心地も、夜を迎えた。
リベリカルテスターはようやく、彼女を管理と言う名の支配下に置く、王子の元を離れられた。そして、夜には、枢密院の魔法使いたちによって、城の地下へと連行された。例の呪術まがいの儀式、もとい、上層部連中の娯楽の時間だった。
アリステッドは、リベリカルテスターへと行われるその行為に、至って無関心だった。そもそも、彼は夜間に、リベリカルテスターの管理とは別の任を与えられていた。
夜にオルティスのどこかで異変が起きた際に、アリステッドと、オルティスの兵団である彼の部下たちが、それらの制圧に向かうことを命じられていたのである。しかし、妙なことに、夜になると何も起こらないのであった。一般に、犯罪件数の増加、魔物の活発化は夜に起こることは多いというのに、なぜかオルティスではその例外を辿っていた。
ゆえに、意味をなしていない役割である。力を振るう場所を与えられなかったアリステッドは、行き場を無くした憤りを、相も変わらずリベリカルテスターに向かって振るい続けるのであった。
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