プレゼント貰っちゃいました。

 プレゼントを買った時には、時刻はお昼を過ぎていて、私達は建物の中にあるレストランで昼食をとることにしました。

 オムライスとハンバーグ定食をそれぞれ食べながら、ふと気になった事を聞いてみます。


「彼女さんとはもう、付き合って長いんですか?」

「……ああ、まあね。もう二十年近く一緒にいるかな」


 二十年も⁉ と言うことは、幼馴染みなのでしょか。それじゃあ私が先輩と出会った時にはもう、二人は付き合っていたと見て良いでしょう。本当に最初から、チャンスなんてなかったんだねと、改めて思い知らされます。

 だけどそんな気持ちは態度に出さずに、笑顔を作ります。


「そんなに長い間仲良しだなんて、羨ましいです。先輩のことですから、きっとその子を大切にしているんでしょうね」

「どうかな。よく女心が分かってないって、よくダメ出しされてるし」

「そんなこと無いですよ。先輩は優しいですし、きっとわざと意地悪を言ってるだけですって」

「俺は結構、的を射てると思うけどなあ。実際、全然分かってないって、自分でも思うし」


 先輩はそう言ってるけど、私にしてみればやっぱり優しくて、細かいことによく気がついて。最初は笑わなくて怖い印象があったけれど、今日は笑っている所をたくさん見ることができて。

 ああ、きっぱり諦めようって思っているのに、なんだかこれじゃあ、ますます好きになっちゃいそう。

 そんなことを考えていると、先輩は「そうだ」と言って袋を取り出してきました。


「これ、今日付き合ってくれたお礼」

「え、いいですよ。そんなつもりで手伝ったんじゃないんですから」


 慌ててそう言ったものの、押しに負けて。結局包みを受け取ってしまいます。

 そっと中を開けてみると、そこにはさっきアクセサリーショップで見ていた、猫をモチーフとしたブレスレットが入っていました。


「これは……」


 先輩、私がこれを見ていたこと、気づいていたんだ。

 お手頃価格の商品だったけど、きっとあまりに高い物なら受け取ってくれないと言う、先輩なりの配慮があったんじゃないかって思う。

 どうしよう、すごく嬉しい。ブレスレットもそうだけど、先輩が私の様子に気づいて買ってくれたと言うことが、余計に嬉しかった。けど、これって受け取ってもいいのかな?


「あの、本当に良いんですか?」

「ああ、お世話になったからね。気に入ってもらえないなら、無理はさせられないけど」

「いいえ、全然そんなこと無いです。とても……嬉しいです」


 ブレスレットを手にして眺めてみると、輪っかの向こうにホッとしたような永井先輩が見えます。

 そんな顔されちゃ、やっぱり貰えませんなんて、もう言えないじゃないですか。いえ、そもそも断るなんて、私じゃ無理だったのかも。


 だけど少し、引っかかってしまいます。

 お礼とはいえ彼女がいるのに、他の女の子にこんなものを贈るってどうなんでしょう? 勿論先輩にお礼以外の意味なんて無いのでしょうけど、彼女さんはどう思うでしょうか?

 先輩がさっき言っていた、女心が分からないの意味が、少しだけ分かった気がする。こんなことをされたら私、調子に乗っちゃいますよ。そもそも今日の買い物だって、下心が全くなかった訳じゃ、無いんですからね。


 そんなわけで心中は複雑ですけど、結局ブレスレットは受け取ってしまいます。やっぱり、欲望には勝てませんでした。


「……ありがとうございます」

「こっちこそありがとう。今日は助かったよ」


 永井先輩はにっこりと微笑んでくれました。


 その後お昼を食べ終えた後、建物を出て。最初に会った駅まで、二人して歩きます。

 端から見れば私達は、どんな風に映っているでしょう? もしかしたら、カップルなんて思われちゃってるかもしれません? それとも身長差があるから、兄妹みたいに見えちゃってる? 頭の中がフワフワしていて、ついそんなことまで考えてしまいます。

 歩く時は常に、先輩が車道側にいて。それが偶然なのかいとしてやっているのかは分かりませんけど、守られてるって気がして、無意味な優越感に浸ってしまいました。


 だけどそれも、ほんの一時のこと。駅まで戻ってきて、これで永井先輩とはお別れ。夢の時間は、これでもうお終いです。シンデレラの魔法だってもう少し長く続いたのに、所詮現実はこんなものです。


「今日は本当にありがとう。泉さんのおかげて、いい物が選べたよ」

「私の方こそ、こんなものを頂いちゃいましたし。それに……」

「それに?」


 デートみたいで楽しかったです。一瞬、そんな事を言おうとしました。

 彼女さんのための買い物に付き合っただけなのに、なんて馬鹿な事を。出かかった言葉を飲み込むと、笑顔を作って先輩を見上げます。


「色んなお店を見て回れて、楽しかったです。私の方こそ、ありがとうございました」


 深く頭を下げて、感謝の気持ちを伝えます。腕に抱えた、ブレスレットの入った袋を、強く握りしめながら。


 永井先輩から貰った、初めてのプレゼント。望んだ形とは違っていだけれど、それでもこのブレスレットは大切にしたいです。だって好きな人からの、プレゼントなのですから。

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