第35話 二代目魔王の後日譚

 魔王の座を継いでから、五年の月日が経過した。


 ハスィンは、こちらが手を出すまでもなく内部から崩壊し、生き残ったわずかな人々の内、罪なき市民には、船を造らせて大陸から放逐。それ以外の者は、処分するか魔族の遊び道具にした。





 そして、当面の目標であった大陸統一を果たした後は、魔族の希望に沿って、大陸各地に集落を建設。集落毎に代表を定めさせ、あとは自由にさせた。人間と違って、細々とした決まりなど必要ない。


 知性を持つ魔族同士が、小競り合いをすることはあったが、それについては俺が間に入って仲裁した。


 最近の俺の仕事といえば、そういった調停業務の他に、先代から受け継いだ権能による魔族の生成。自主的に沿岸を巡回する部隊からの報告の取りまとめ、そして、大陸の外へと飛び出していった魔族との定期的な交信くらいだ。


 魔族の中には、戦いを好むものが一定数おり、当初は武闘会のような催しを行ってそれをコントロールしていた。しかし、それでは物足りないと感じた一部が、大陸外への遠征を希望した。


 俺は、一切の助力をしないという条件をつけてこれを承認。一週間ごとに、リーダーを務めていた魔族と交信し、無事を確認していた。


 この交信という、魔族相手にのみ使えるテレパシーも、魔王の権能だ。向こうからこちらに繋げることはできないため、定期的にこちらから連絡を取っているという次第だ。





 余談だが、俺はペソリカと婚姻の儀なるものを交わして、彼女を魔王の妻として迎えていた。魔王の力を得た今となっては、ペソリカの熱烈なアプローチに応えるのもやぶさかではなかったからだ。


 今は、かつての魔王が使っていた居城で、自主的に世話を焼いてくれる侍従の魔族数人を交えて暮らしている。


 ・・・侍従を務める彼女達の真の目的が、魔王たる俺の愛人になることであるため、ペソリカからの視線が時折痛いのだが。


 あと、隙あらば既成事実を作ろうとして襲い掛かってくるのは止めていただきたい。


 そして、その現場をペソリカに見つかって、血で血を洗う争いにまで発展しそうになるのはもっとやめていただきたい。





 そんな、平和かと言われれば首をひねって考え込んでしまうような日々を過ごしていたある日。


 遠征組の魔族たちと連絡が取れなくなった。権能に対して、物理的な距離は障害とはならないため、これが意味するところは彼らが死亡したということだ。


 それだけなら、その死を悼んでやるくらいで済む話だった。遠征に出たのも、そこで戦って死んだのも、彼らの自由意思によるものだからだ。自業自得とまで言いたくはないが、彼らも覚悟の上だろう。


 だが、事態はそれだけで収まらなかった。


 大陸西岸をパトロールしていた一隊から、城へと伝令が駆け込んできたのだ。


 曰く、人間が乗っている軍用船や輸送船が、西岸へと多数接近しているというのだ。





 その報を聞き、俺は急遽各地の集落の長に交信を飛ばして挙兵を命じた。


 しかし、彼らが到着する前に戦端は開かれ、瞬く間に海岸付近を制圧された。


 海岸に通じる道すべてに戦力を配し、いくつかの戦術を試してはみたものの、敵に痛打を与えることは叶わず、ついには魔王城の近辺にまで接近を許すこととなった。





 事ここに至り、俺は全戦力を投入しての決戦を決意。数ではこちらが勝るため、向こうが小細工を弄したりする前に、数で押しつぶそうという考えだった。


 だが、敵は小細工を弄したりなどしなかった。だが、数に数で対抗しようともしなかった。


 幾人かの突出した個の力で、こちらの主力を粉砕してしまったのだ。





 その幾人かだが。


 一人は、この世界には存在しないはずの魔術を操る、フードを被った女。


 一人は、大槍を軽々と振り回し、自分の三倍の体躯を誇る魔族を相手に、力で上回る女。


 一人は、同じくこの世界には存在しない治癒術式を行使し、条件付きで蘇生すらやってのける男。


 そして最後の一人は、不可思議な光を放つ剣を振るい、時には魔術をもって軍勢の一角を吹き飛ばす男。





 それら、尋常ではない力を振るう四人は、今俺の目の前に立っていた。





 並び立つその姿には、既視感があった。昔読んだ英雄譚、あるいは、かつての世界で流行っていた転生モノの登場人物のそれと重なる存在。





 彼らは、まごうことなき勇者だった。

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