第34話 ある魔王の結末
『・・・勇者ツボミ』
・・・誰だよ、俺を呼ぶのは。化身か?
俺は今、死という最初で最後の体験に浸っているところなんだ。邪魔しないでくれよ。
死んじまった俺に、もう用なんざないだろう?間違っても転生なんて御免だからな。
『生憎だが、化身とやらではなく魔王だ』
なんだ、魔王か。どうやって俺に語りかけているのかは知らないが、こんな人でなしに弔いなんざいらねえよ。大陸統一まで面倒見れなかったのは残念だが、ここまでお膳立てすりゃあ、あとはなんとかできるだろう。
『そうだな、お前は人でなしだ』
否定でなく断定と来たか。ま、それだけの事をしたという自覚はあるが・・・
『なぜなら、お前は今から魔王として生きていくのだからな』
・・・what?
『お前の努力と采配のおかげで、我が魔族はこの大陸に確固たる礎を築くことができた』
あー、俺は手伝いをしただけだ。やったことといえば、情報収集と口出しくらいさ。
『私にはできなかったことだ。お前は、魔王たる私よりも上手く魔族達を導いてくれた』
自分が思うままに好き勝手やっただけだ。俺が優れているんじゃなくて、そういった戦略や戦術を考えて、後世に残した奴らがすごいんだよ」
『なら、それを活用して見せたお前もすごい奴だ』
面映ゆいからやめてくれ。
『だから、私はお前に魔族の行く末を託そうと思う』
・・・はい?
『お前には、これから私の代わりに魔王として生きてもらう』
ちょっと待て、なんだそれは。そもそも、生きるって言っても俺はもう・・・。
『心配はいらない、私の命と魔王としての力全てをお前に捧げよう』
・・・いや、待て!?俺は勇者だぞ!?それがいきなり魔王にジョブチェンジとか、それはねえだろうよ!
『お前は勇者だが、私の友であり側近だろう。なら、私の後を継ぐ資格はあると思うが』
勝手な言い草だな。俺の意志は無視かよ。
『悪いが、お前がエゴのために戦ったように、私にも私のエゴがある。私の同胞たる魔族を、より良く導いていける存在は、お前以外にはいないと判断した。だから、後を託すことに決めた』
くそ、最期の最後で魔王らしい身勝手を押し付けやがって!
『それは、魔王の甘言に屈した勇者の落ち度というものだろう』
ああ、そうかい。で、お前は俺の代わりに死ぬってか?それで満足かよ、お前!
『未練はない。ここへと召喚されてから、ずっと同胞のために戦い続けてきた。私しか纏めるものがいないと思っていたからだ。だが、お前がいるなら安心できる。長年の戦いで、私も些か以上に疲れたよ。そろそろ、ゆっくり休みたいと思っていたのだ』
ますます身勝手な主張だな。俺から死を奪っておいて、自分は安らかな死を迎えるってか!
『悪いとは思うが、謝罪するつもりはない。だが、私よりお前の方が魔王としてふさわしいと思ったのは本当だ。だから、私もお前と同じ様に、エゴイズムと言われようとも正しいと思った道を進むのだ』
ちっ、これも因果応報ってか。
『お前がそう思うのなら、そうなのだろうな』
・・・。
『では、私はもういく。同胞を頼んだぞ二代目』
・・・しゃあねえな。友人のよしみだ、頼まれてやる。ここまで引っ張ってきたあいつらに、責任もあるしな。
ただし、俺も自分が正しいと思ったことしかやらない。世界征服なんかをするつもりは毛頭ないからな。
『同胞に安寧さえ与えてくれれば文句などない』
安寧か、あえて嫌な言い回しをしやがって。抽象的過ぎて、むしろやることが増えそうじゃねえか。
『ふっ、理屈っぽいのは変わらないな。だが、そのおかげで魔族はここまで来られたのかもしれんな。・・・改めて、さらばだ友よ。私と唯一、真に心を共有できた者よ』
あばよ。勇者すらも駒として使う、悪逆非道な魔族の王様。
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