第32話 醜態

 さらに一ヶ月が経過した。搦め手を交えた数度の攻勢の末に、リュガとキレネントスは陥落。魔軍は、南北から一挙に進軍を開始した。


 後方の無防備な都市を灰塵や廃墟へと模様替えし、人間は基本的に抹殺していく。


 鍛冶師などの有用な人材については、暗示や催眠により傀儡とし、魔軍の一層の増強に協力させている。


 これにより、魔軍で不足していた火薬や銃火器が少量とはいえ補給できるようになった。





 南北の二都市が壊滅した際、生き残った冒険者や兵士は、最も守りやすく安全なハスィンへと逃げ込んでおり、人類最後の抵抗拠点として成立していた。


 各国のお偉いさん方もハスィンに逃げ込む者が続出し、残された民衆から軽蔑の眼差しを向けられていた。


 また、各国を守備しなければならないはずの兵士達も、こぞってハスィンへと独断で異動。挙句、これ以上都市の中には収容しきれないと門前払いを食らい、城壁の外に勝手に野営地を作ったりしていた。


 門前払いに納得いかない一部の隊が、門番と武力衝突するなどという一幕もあったらしい。


 その上、各国の王族や皇族は優先して迎え入れるという方針をお偉いさんが決めたことで、火に油を注ぐ事態となり、東門周辺は急速に治安が悪化していた。


 ハスィンに避難しようとやってきた皇族や王族、貴族の連中は、門周辺に辿り着いた時点で暴徒と化した兵士達に捕らえられ、金品を奪われた挙句に男は惨殺された。女性はというと、妙齢の者は慰み者として奴隷のような扱いを受け、それ以外は男性と同じように殺された。この場合、生きている事は幸なのか、あるいは不幸なのか・・・。





 そんな、人類最後の希望の象徴であると同時に、人間の業の象徴としての側面も見せつつあったハスィンに、東西から挟むように魔王軍が展開。これにより、ハスィンは本国などからの補給路を遮断される形となった。


 水源は都市内にあるものの、軍事拠点として開発されたハスィンには、食料を自給できる畑などが皆無だった。非常時の為に蓄えられた保存食などはあるだろうが、それも長くは保たない。ましてや、人口が急増している現状、長期間にわたって全員の口を賄うのは不可能だろう。遠からず、内乱や暴動が起きるのは目に見えている。





 そういった展望に沿って、俺はあえて都市に攻勢をかけずに兵糧攻めの方針を取った。


 また、その間に別部隊を東部へ進行させ、大陸に残る他の都市を制圧していった。


 そして予想通りに、三日経った時点で内部で暴動が発生。皇族、王族を始めとした高貴な身分の豚共が、食料庫を独占しようとしたことに端を発しているらしい。





 全く、人間というのは救われ難い生き物だと思う。この、人類存亡の瀬戸際においても、団結して事に当たるのではなく、保身に走る様を見ていると、あまりの低俗さに吐き気すら覚える。同時に、今まで俺や他の勇者は、あんな屑どもを守るために、傷つきながらも必死に戦っていたのかと思うと、今度は憤りを覚える。


 挙句、一部の人間たちは魔族への寝返りを画策、こちらの陣地に白旗を掲げて投降してくる者が続出した。


 利用価値がないでもなかったが、既に魔族の優位は変わらない。自身の感情を優先して、そういった者は全て磔にした上で処刑し、都市から見えるように掲げてやった。





 そして、投降してきた面子には、とある意外な人物がいたのだった・・・。

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